捧げ物 小説 | ナノ


「はい、お待たせ!!」

エプロンや服の所々が汚れているキャンディが台所からニンマリと笑いながら顔を出した。
そのキャンディが作った作品はと言うと。

「……わあ…。」

まさにその言葉しか出てこない物ばかりだった。

「ねえ?美味しそうでしょ?私の自信作なんだから!」

ある意味、自信作と言えなくもないだろう。
そこにあったのは確かに揚げ物、ただ、形がほとんど似ていて何が何の揚げ物なのかさっぱり分からなかった。
ただ、それだけならまだマシだろう。
だが、油から掬い上げられたそれは普通じゃ出せない色をしていて、もの凄く腹が減ってる人でさえ食欲を失わせる様だった。

「ほら、せっかくだから味見してよ!」
「え、いや…私は…。」
「もう、遠慮しなくてもいいから!私はたくさん食べたのに、何もしてあげられないなんて申し訳ないし〜。」

ニコニコと微笑むキャンディからは悪意など何処にも見当たらない。
だが、だからこそ、ミエルにはどうすればいいのか分からなかった。
何しろミエルは揚げ物が大の苦手。いや、例え好きだったとしても、あの謎の産物を食べるのはよほど勇気のいることに違いない。

「…あ、そうだ!あいつは?あいつエビフライ好きだし、キャンディのエビフライも気に入るんじゃないかな?」

考えに考えてようやく出した結論がそれしかなかった。
キャンディの思いの人でエビフライが大好きな人であるあいつなら、別にキャンディの揚げ物でどうなろうが知ったことじゃない。
キャンディには悪いが、実に名案だと思う。

「あ、そうか〜!!彼、きっと喜ぶよね。」
「うんうん。そうだよ…きっと。」

必死にキャンディの言葉に同意し、心の中で安堵の息を吐いていた時だった。

「……やっぱり、ミエルが先に味見してくれる?」
「……???え??何で?」
「だって、美味しくなかったら喜んでもらえないじゃない!!ちゃんと美味しいのかどうか確かめてほしいの!!」
「……ああ…あはは…。」

嫌なのを必死で隠すように無理やり笑顔を作るミエル。だが、今の彼女の目の前は真っ白だった。

「…じ、じゃあ…」

こうなってしまえばもう逃げ道はない。ミエルは心の中で神に祈りながら、キャンディの作品を口に入れた。

「ど、どう???」
「…うん……美味しいよ。」
「本当!!よかった!!じゃあ、早速渡してくるね。」

親友の美味しいと言う言葉に喜び、揚げ物を持って持っていくキャンディ。
だが、彼女は気づかなかった。その親友の顔から、だんだん色が無くなっていくことに。
自分が出て行ってすぐ、その親友が倒れてしまった事に…。


そして、その次の日

「ミエル!!彼、えびふりゃー喜んでたよ!!」
「そ、そう…。」
「なんか食べた瞬間『こんな衝撃的な味のえびふりゃーは初めてだ』と言ってすぐ倒れちゃったけど。それぐらい美味しいって事だよね!!」
「まあ、あいつがそう言ったならそうなんじゃない?」

この日、ミエルは初めて『衝撃的な味』と言うのが何なのかを知ることになった…。

 
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