マジバケ短編 | ナノ


アランシア視点/不器用だが優しい少年の些細な励まし

「大きくなったらアランシアの事お嫁さんにするよ。」

まだ幼かった時にキルシュが私に言った言葉。それを聞いた時どれだけ嬉しかったか。
けど、今の彼はきっと忘れている。キルシュは今キャンディに夢中である。
私の気持ちなんかちっとも……

昼休み、セサミと一緒に話をしているキルシュを見ていると、何だかこんな思いが胸に詰まった。
今もキルシュはキャンディを口に出している。どう告白するか、どうすれば自分に振り向いてくれるか。
最近、彼の話題はいつもキャンディである。彼の事を考えてる人がここにいるのに…。

少し気分を晴らそうと廊下を歩いていた時、音楽室から音が聞こえた。聞くと不思議に気が楽になるピアノの音が。
近くで聞いてみようと音楽室の中に入ると、実に意外な人がピアノを弾いていた。
普段はキルシュと一緒に外で遊ぶ事が多く、楽器などカスタネットも触れた事がなさそうなトリュフだった。
最近、昼休みになるといつも1人で何処かに行くと思えばここでピアノを弾いてたんだ。

「へぇ〜トリュフ、ピアノ弾けるんだねぇ〜。」
「……。」

何も答えない。そりゃそうよね。ピアノの音のせいで聞こえないんだもの。
でも、その方がいいかもしれない。このまま彼の演奏を聴けるんだから。
こんな事を思ってると、いつの間にかトリュフが演奏を止めて、視線だけを私に向けていた。

「誰かと思えばお前か。」
「な、何だ〜。気付いてたの〜?」
「…相変わらずぼんやりとした言い方だな…。」

何よ。そう言うトリュフは相変わらず口が悪いのね。

「で、何の用だ?いや、そもそも俺に用があんのか?」
「べ、別に……ただ、いい曲だなぁと思って〜。」
「……」

トリュフは訝しげに私を見ていた。こんな風に見るトリュフは、何を考えてるのか解らない。
でも、なんとなく本当にそれだけなのか?と聞かれてるみたい。
…トリュフはキルシュとも仲良いし、聞いてみるのもいいかもしれない。

「最近、キルシュってキャンディの事ばっかしだよね。」
「確かにな。まあ、あいつはキャンディの事好きだからな。無理も無い。」
「……」
「何だ?そんな顔して。」

気が付けば、私は少し強張っていたようだ。

「…前は、私の事をお嫁さんにすると言ったのに…忘れてるのかな…」
「そりゃそうだろう。小さかった時の事を覚える人なんてあんまりいないだろう。」
「そう……よね…。」

ごく当たり前なことなのに、何だかとても切ない。私は覚えているのに、本当はキャンディじゃなくて、私も見て欲しいのに。

「お前、キルシュの事気にしてんのか?
幼馴染なら結婚も一緒にしなきゃいけないとか、そんな事思ってんじゃないだろうな?」
「!!そんなんじゃないよ!!でも、私もキルシュの事思ってるのに……」
「だから何だ?キルシュがお前の事見て欲しいのならそう言えばいいだろう。
ただ何も言わないで待てばいいと思ってんのか?」
「何よ!そんな言い方しなくてもいいじゃない!!」
「悪いな。俺は何もしないでただ機会を待ってるだけの人は大ッ嫌いなんだ。
どっちかと言うと、俺はお前よりキルシュの方を応援してる。」
「……。」

凄く悲しかった。あんな事を言われるなんて思わなかった。ほんの少しでも慰めてくれてもいいのに…。

「まあ、どうするかはお前次第だ。キルシュに告白するか、それともただ何もしないで待つだけか。お前の好きにすればいい。」
「……。」
「もっとも、俺はお前やキルシュの事などどうでも良いが。」

酷い言い方。やっぱり、トリュフに相談しようとした私が馬鹿みたい。話したって、慰めの言葉なんてくれる筈が無いのに…。

「……何か聞くか?」
「え?」
「演奏するのもいいが、たまには聞くのも悪くないだろう。」

そう言うとトリュフは楽譜を捲り、やがてとあるページで止まると、その曲を弾き始めた。
さっきまで嫌味のある言葉を言ったトリュフが弾いてるとは思えない程綺麗なメロディが音楽室に響いた。
その曲を聴くと、何だか気持ちが楽になっていく。
ふと、ほんの少し、本当に少しの間、彼と私の目が合ったような気がする。
…もしかして、この曲を弾きながら励ましてるのかな……なんてね。

それからトリュフの演奏は長く続き、私達は時間が流れてる事さえ感じられなかった。
聞き終わった時はいつの間にか次の授業が始まっていて、私もトリュフも先生に怒られちゃったのはその後の話だった。

END

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