誰も入って来ない保健室はとても静かで、外から聞こえる音しか聞こえない保健室、
フウカはそのベッドに横になったまま天井を眺めていた。
虚ろになった目に映ったのは、かつて自分が住んでいた世界での生活だった。
学校で勉強をし、友達と遊び、帰ったら家族とご飯を食べる、そんな些細な事。
だけど、今のフウカにはそれがとても恋しかった。
同時にあの世界にいる人が今どうしているのか、そんな事が頭から離れなかった。
特に、ほんの短い間だったけど、一緒に暮らした家族。
目を覚ますと病院にいて、親も、兄弟も、今までの記憶もなかった自分を引き受けてくれた家族。
何も出来なかった自分を、一人ぼっちだった自分を娘として育ててくれた。
…一人ぼっち。
小さい女の子は絵が描かれてる紙を持ってどこかへと走っていた。
彼女が辿り着いた所は本に囲まれた大きな部屋で、
そこには中年ぐらいの男が机に座って本を読んでいる。
「お父様〜!!」
女の子は男へ駆けつけ、彼女が持っていた絵を彼に見せた。
だが、その男が女の子に返したのは、感情の篭っていない冷たい目だけだった。
海全体が凍ったような青い瞳を見て少女は一瞬後しざリをし、
しばらくすると、酷く落ち込んだ顔になってその部屋を出て行った。「!!!」
頬が冷たく感じたフウカは目を覚ました。いつの間にか眠っていたのだ。
最近、この場所に来てから可笑しな夢を見るようになった。
これもあの、自分を攫ったあの男の仕業なのだろうか?
すると、また保健室から誰かが入って来た。カーテンが引かれていたのでシルエットしか見えない。
突然、フウカのベッドがある所のカーテンがあき、
そこにいた人の姿が現れた途端、フウカの顔は真っ青になった。
噂をすれば影さすかのように、その人は、先程フウカが考えていた男、ルークだった。
「フウカ。」
「来ないで!!私をこれ以上虐めないで!!」
「……。」
「私が…私があなたに何をしたの!?どうして私を連れて来て、私の事を虐めるの!?」
悲しみ、恐怖、様々な感情が混ざり、とうとう耐え切れなくなったフウカは彼女の黒い目から涙を流した。
とても弱弱しい彼女を、ルークはただ見つめていた。落ち着いた、でもどこか悲しそうな瞳で。
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