「何読んでるの?」
起きたばかりの少女が語った最初の言葉だった。
ぼんやりとした目で自分を見つめてる少女の言葉に気付いた少年はしばらく彼女を見つめると、先程の少女の問いに答えた。
「『孤独な悪魔、リーヴィア』。人の少女に恋をする悪魔の物語。」
「へぇ〜。面白そう〜!」
目をキラキラ輝かせてる少女を見て少年は小さく笑った。
「読んでみるか?」
「え?いいの?」
少年から本を貰うと、少女はその本の文章をじろじろと見つめていた。
だが、自分の部屋にある本とは違う文字で書かれてる文章を、少女は読む事が出来なかった。
「うーん……読めな〜い!!」
「ハハッ。そりゃあ難しいか。」
「ずる〜い!私も読めるようになりたい〜!!」
頬をプーッと膨らませたままそっぽを向いてしまった少女を見て少年はおでこを掻いた。
「…読んであげようか?」
「……え??本当!?」
「毎日…は無理だが、次に会う時は最初から読んでやるよ。」
「うん!!」目が覚めたフウカはばっと身を起こし、彼女の目から雫の様な涙が何粒か零れ落ちた。
「あら?やっと起きたのね?」
「…ここは?」
涙滲んだ目に映った場所は、白で統一されている部屋、薬等がある棚、いくつかのベッド。
前の世界の場所で比喩するなら保健室のような所だった。
そして目の前には、白いガウンを着ている1人の女性が居た。
「あの…私、一体。」
「学校に行く途中倒れちゃったみたいね。かなり顔色が悪かったからあの子が連れてきたのよ。」
白いガウンの女性が言っているあの子とは、自分を連れて来た男性の事なのだろうか?
身を起こすと、フウカは震えてる声でガウンの女性に叫びだした。
「助けてください!!私、変な人に攫われて、それで…それで…!!」
「落ち着いて。大丈夫よ。もうすぐあの子が迎えに来るから。」
どうやらガウンの女性はフウカを連れた男性がその子である事を知らないようだ。
フウカを横にさせ、ガウンの女性は暖かい毛布をフウカに掛けてあげた。
壁に掛かった時計が12時を指した頃、また誰かが入って来た。
長いオレンジ色の髪を結んだ男性と濃い緑色の髪をして、眼鏡を掛けている男性だった。
「あらあら。また喧嘩したの?いけないねぇ。」
ガウンの女性は勿論、フウカもそう思ってしまう程、2人の顔は痣と傷だらけだった。
「だってこいつまたトトを虐めるから!!」
「あいつがふざけるからだろうが。」
「んだとゴラ!!もう一辺殴られたいんか!?」
「2人共喧嘩しない!」
先程の穏やかな声から鋭い声へと変わった女性の怒鳴りの言葉を聞き、さっきまで喧嘩していた2人はようやく静まり返った。
が、それもほんの数分だけで…
「いってぇー!!」
「痛ぇなぁ。もう少し優しくしてくれよ!」
やがて2人の悲鳴と怒鳴り声が保健室に響いた。
そんな事を一切気にせず、女性はただ手当てをし続けている。
「はい、出来たわよ。」
『ぎゃあああ!!!』
手当てが終わったのまではいいが、女性が傷がある所を思いっきり叩いたせいで
2人はあまりの痛みに悲鳴を上げざるを得なかった。
「もう喧嘩しちゃ駄目だぞ。」
「「……へい。」」
ガーゼや包帯だらけになった身を起こし、2人はトボトボと保健室か出て行った。
「ごめんね。騒がしかったでしょ?」
「……いえ。」
「あの子達、いっつも喧嘩ばかりしてしょっちゅう来るのよ。2人共仲良くすればいいのにね。」
そう言って女性は微笑んだが、フウカは彼女と一緒に笑えなかった。
今のフウカは誰も助けには来ない。永遠の独りぼっちのように感じた。
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