ドアを開けた時、オスカーは思わず叫びそうになった。
目の前には涙でぐちゃぐちゃになっているエルゼがいたのだ。
「おい、ここ男子寮だぞ。」
「…え?」
女子寮と男子寮は別々になっている。どうやらエルゼは落ち込む余り自分の寮を間違えたようだ。
「エルちゃん!こんな所で会うなんて……ってぇ!!」
「お前は少し黙れ。」
エルゼを見るなり顔を真っ赤にしながら早口で喋るロランスの頭をルークが殴り、それを見たエルゼは思わず笑ってしまった。
「陰気臭い顔だな。何かあったのか?」
「…ううん。特に何も。」
「あ、そう。じゃあこれ。」
オスカーはエルゼにプリントを渡したが、エルゼはただ貰うだけで内容を読もうとはしなかった。
「なあエルちゃん。良かったらこれから俺と…」
「ああそうだ。お前今日掃除当番だったよな。サボったって先生怒ってたぞ。」
「あ…そうだった。」
「まあ、話はして置いた。これからは気をつけろよ。」
そう言うなり、オスカーはエルゼを通り過ぎて他の寮へ向かった。
そんな彼をただ見つめてるエルゼを見てソワソワしてる人が1人。
「あわわわ、エルちゃん泣くな!掃除サボった位どうって事ないって!!」
今にでも泣きそうな顔になってるエルゼを必死で宥めながらロランスは彼女を中へ入れた。
「おい、ここ女性禁止だぞ。」
「いいだろ今日くらい。エルちゃん、何か飲み物やろうか?」
無理矢理エルゼを座らせているロランスの顔は真っ赤だった。
そんな顔を見てもただぼーっとしているエルゼを見ると余程テストの事がショックだったようだ。
「テスト、残念だったな。」
「んーん。また次の機会があるし。」
「そうそう。そんなに気にする事ないって。」
「そうゆうお前が一番馬鹿にしてただろう。」
ルークの言葉の矢を受けロランスは石化した。が、しばらくして泣き顔でルークに飛び掛った。
「何でそんな事言うんだよ!!」
「事実だろ。」
「そうゆうのは黙ってくれよ!俺だけ悪い奴になっちゃったじゃないか!!」
物凄い勢いでルークを揺さぶってるロランスを見てエルゼは思わず笑ってしまった。
ふと、ロランスは半分気を失っているルークの隣に白い服を着ている少女が居る事に気付いた。
「誰だそいつ?」
「ああ?…ああ。」
「あーあーじゃあないだろう!!お前だって女子連れて来たじゃないか!!」
フウカの事を知るはずがないロランスはルークもルール違反をしていると怒鳴りだした。
「しょうがねぇだろう。最近来たばっかでまだ寮も決まってないんだ。」
「はぁ?転校生が来るなんて聞いてねぇぞ!だいたい、誰だよそいつ!?」
「フウカだ。」
ロランスは別に名前が聞きたかった訳じゃない。見た事も無い奴が何故いきなり自分達の寮にいるのかそれが聞きたかった。
ふと、ロランスはとある事、正確にはとある物を思い出した。
「ああ、あの鏡から見てたのってそいつだったのか?な〜んだ。ただの夢なのかよ。」
「あの……鏡って?」
「ああ。こっちの話。聞くと損するよ。」
飲み物を渡し、思いっきり笑顔を作るロランス。だが、それが余計にエルゼを怖がらせてる事を彼は知らないようだ。
「私、帰るね。」
「え??もう??もう少しいても…」
「駄目だろう。もうすぐ寮長さんが来るのに。」
「そうだった……。」
この時間になると寮長が男子寮を見に来る。そんな時にフウカはともかく、エルゼがここにいるって知られたら
エルゼは勿論、2人もとんでもない罰を受けなければならない。
エルゼは2人に別れの挨拶をし、すばやく自分の寮へと帰って行った。
青い月に照らされる寮のベランダの椅子に、ルークはフウカを抱えたまま座っていた。
ドアは閉めてあるため、ロランスが起きる事はないだろう。
夜空のような黒い髪を撫でながら空を眺めてるルークの瞳は空ではない別のものを見ているようだった。
「フウカ。」
眠っている少女の名前を呼んでも返事は来ない。
少女の顔を胸に寄せ、普段とは違って優しい声で囁いた。
「もう放さない。例え何があっても、必ずお前を守る。」
少年のやわらかい唇が、少女の額にそっと触れた。
to be continued……
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