マジバケ小説 | ナノ


ようやく風穴から出て行き、タル船に乗ろうとした時だった。

「何だあれ!?」
「ボロボロですの!!」
「……多分、トリュフの筏。」

タル船の傍には緩いローブに繋がれているいくつかの丸太が沼の上に浮かんでいた。
筏だとシードルは言ってるが、丸太がバラバラになっていて、とても筏だとは思えなかった。

「トリュフちゃんが作りましたの!?」
「つーか、どうすればこんな風になるんだ?」
「………。」

氷の島へ行くミエル達を追うため、筏を作って沼を渡ったのだが、急いで作った物だったので途中で壊れ始め、着いた時はこんな風になっていた。
なんて、他の人には絶対に言うまい。と、トリュフは心の中で誓ったのだった。

マサラティ村に戻ると、メースは既に門番にシナモンに飲ませるように頼みながらアイスシードを渡そうとしていた。
門番はメースが戻ることを予想していなかったのか、かなり驚いた顔をしていた。

「お願いします。この実をすりつぶしてシナモンに飲ませてください!」
「いや、いかん!そんなもので熱は治らん!ウーズ熱にかかったのは、お前みたいな悪魔とこそこそ会ったりしたせいだ。」
「僕は悪魔じゃない!!」
「シナモン様をたぶらかしておいて何を偉そうに!お前はその実をダシにしてシナモン様に会いたいだけではないか!見え透いているぞ!」
「どうして解ってくれないんだ! もし本当に彼女がウーズ熱なら、早くこの実を飲ませないと……!」

心の底から心配しているメースを見て門番は苦い顔をしていた。

「解った、解った。その実は預かろう。
そして、お前がこの村を出て行くと約束するなら、その実をシナモン様に飲んで頂こう。それでいいだろう?」
「……そんな……。」

何て理不尽な。誰かを助けるために危険に立ち向かった英雄を追っ払おうとしている。
良心などこれっぽちも無い門番の言動を見て、6人はとうとう堪忍袋が切れた。

「おい、じじぃ!お前、そこまで人でなしかよ!!」
「メースちゃんは命掛けで薬を取ってくれましたの!!それなのに追い払うなんて、酷すぎますの!!」
「あんた達、それでも大人なの!?元はと言えばあんた達のせいなのに、それを……」
「もう止めて下さい!!」

門番に向かって怒鳴り出すミエル達をメースが止めた。
自分のためにやってると解っていても、やはり争う事だけは望んでないのだ。

「シナモンは、本当にウーズ熱なんですよね…?」
「ああ、そうだ」
「だったら、これを…シナモンに…。」
「村を出るのか!? はっきり聞かせてもらおう!」

メースは迷ったが、やがて静かに答えた。

「さようなら。もう二度と来ない。」
「メース…。」
「皆さん、ありがとうございました。でも、いいんです。これで。」

ただ遠ざけるメースを、ミエル達はただ見てるしたなかった。同じくメースを見ていた門番は鼻で笑い出した。

「ハッ。馬鹿な奴。」
「…………。」
「ああそうだ、これはくれてやるぞ。」

そう言って門番は、ミエルにアイスシードを渡した。メースが必死に取ってきた、アイスシードを。

「酷いですの!!せっかくメースちゃんが取ってきてくれたのに!!」
「お前等には良心と言う物がねぇのかよ!!」
「ミソコナッタゼ、オマエラ!!」

ペシュ達が門番に向かって鋭く怒鳴る中、ミエルはアイスシードを見つめていた。
小さな実を見る目はだんだん鋭くなり、握りつぶされている実からは汁が出てる。
突然、ミエルはその目を門番に向けると、物凄い勢いで門番を殴り飛ばした。

「な、何を!?」
「…何が呪いよ?何が悪魔よ!?自分達が何もしなかったくせに偉そうに!!
あんた達に、人に向かって何だかんだ言う資格なんてない!!
悪魔はあんた達よ!!悪魔が人に向かって悪魔と呼ぶ資格なんて無い!!」

顔が真っ赤になりながら叫びだすミエルをペシュ達が止めた。
呆気にとられてる門番を睨み付けると、ミエルは遠くへ行ってしまった。
そんな彼女を見つめると、今度はトリュフが門番に近づいた。

「シナモンに会わせろ。」
「フン!お前等に会う資格など…」
「ほう?そんな事言っていいのかな?」

門番を見下ろしているトリュフの目から圧迫感を感じ、門番は一瞬ビクリとした。

「俺は弱い者を虐める傲慢な奴は大ッ嫌いなんだ。さっきの事だって別に大目で見るつもりは無い。
素直に通してくれれば許すが、もし、歯向かうと言うのなら……」

トリュフの手から黒い炎が少しずつ大きくなっていく。
強すぎる力に恐怖を感じた門番は、トリュフ達を村長の家に入れてくれた。

 
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