マジバケ小説 | ナノ


「ひぇええ。相変わらず怖ぇ野郎だな。」
「助けに来た人に向かって何だその言い方?」
「喧嘩はいけませんの!!」

カシスとトリュフが言い合い、ペシュが怒鳴り出す声が風穴に響き、その声を聞いて、メースは目を覚ました。

「…ここは、どこ?あなた達は……。」

辺りを見回しているメースの目はかなりぼんやりしている。
もしや、来る前にモンスターにやられて記憶喪失になったのだろうか?
しばらく下を向いていたメースは、ふと何かを思い出したかのように立ち上がった。

「そうだ…思い出した。花をとったんだ……帰らなきゃ。」

手に持ってるアイスシードを握り締め、メースはフラフラと歩き出した。
その後ろ姿があまりにも弱弱しい彼を見て、5人は心配になった。

「大丈夫ですの?心配ですの。」
「ガンバレ!!ショウネン!!」

親指を立てながらエールを贈るカフェオレ。
メースは助かったし、もう用は無い。風穴から出ようとした時だった。

「くっくっくっく…。」
「…!!!誰だ!!」

不気味な笑い声が聞こえて振り向けば、氷の柱から、ショコラを連れたエニグマ憑きのドワーフが出てきた。

「畜生!こっちが弱るのを待っていたな!」
「俺様と戦える体力は残っているかな?」
「オレ……サムイノニガテ。モウ……ゲンカ…イ…。」

カフェオレの身体には所々霜がある。寒い風穴の中に長く居たせいで古代機械である身体が凍りついたのだ。

「戦うまでもなく1人脱落か。くっくっくっく…。」
「ショコラを何処にやった!?ショコラを出せ!!」

ドワーフは不気味な笑みを浮かべながらエニグマに戻った。
エニグマは寒さを感じてないような平気そうな顔をしながら近づいていた。

「俺様と融合すれば寒さも感じぬし………友情などに惑わされることもなくなるかも知れんぞ。くっくっくっく………。」
「来る!!」
「駄目ですの……。ショコラちゃんの居場所が解らないと……倒すに倒せませんの……!」
「くっくっくっく………俺様の勝ちだ。」

勝ちを確信したエニグマは徐々に5人に近づいている。
その時、エニグマの周りを黄色い薔薇が現れると、地面から茨がエニグマに向かって伸びて行った。
突然の出来事に驚いたエニグマは茨を避けることが出来ず、体中に茨が巻きつかれたエニグマはその場で倒れた。

「!?」
「……今の。」

「頼りにならない救助隊だなぁ。そんなんじゃ誰も助からないよ。」

背後からシードルが現れた。美の魔法を放ったのはシードルだった。

「シードル!!」
「シードルちゃん!!来てくれましたの!?」

シードルがミエル達の傍に来たとき、エニグマは恨めしい声で「覚えてろよ!!」と叫び、姿を消した。

「あっ!!」
「ニゲルノカ…!!」
「いいよ、今は逃がしてやればいい。戦って勝てるかどうかもわからないしね。」
「シードル……あの…」
「何も言わなくていいよ。言いたい事は解るから。」

普段のように微笑むシードルを見て、ミエルも微笑み返した。

「よう、シードル。どんな気分だい?」
「……このまま、ママを助けに行きたい。今なら助けられるのに、もうママはどこにもいないんだなぁ…。」
「助けるべき人はいくらでもいるさ。」

カシスがシードルの頭を撫でると、それを振り払うかのように後ろを振り向いた。
すると、まるで何かを探してるかのように辺りをキョロキョロと見回していた。

「どうした?」
「今、誰かがこっちを見てるような感じがしなかった…?」

シードルが見てる方向へ全員が視線を運んだが、人どころか、生き物自体見当たらなかった。

「うふふふふ。」

ふと、またあの女性の声が聞こえ、ミエルは耳を立てた。

「相変わらず心配性ですね。あの人も。」
「…あの人?」

この言葉を聞いた人はいなかった。トリュフ意外は。

「行こうぜ。」
「そうですの!のんびりしていられませんの!メースちゃんの事が心配ですの!!」
「それでいい? エニグマはどうするの?」
「OK。マサラティ村へ戻ろう。あのエニグマを見てて気付いたんだが、どうやら体力が落ちると、宿主と同化するみたいなんだ。
だからしばらくは、アイツはもとのドワーフが取るような行動を取るはずだ。」
「ふーん。でも、もとのドワーフってのがそもそもどんな奴なのか解んないや。」

その言葉にはクラスメート全員が同意した。
ジェラ風穴から出る間、カフェオレを押しているカシスが重いだのうるさいだのと文句を言ったり、そんなカシスを見てるシードルとミエルとトリュフが笑ったり、早く行くようにとペシュが怒鳴ったり、とても微笑ましい光景が氷というキャンバスに描かれていた。

 
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