マジバケ小説 | ナノ


隣でこの出来事すべてを見ていたペシュは、普段よりもっと顔を赤くした。

「あの、犬のおじさん、なんて人ですの!!許せませんの!!」
「まさか、本気じゃねぇだろ?厄介払い出来れば理由はどうでもいいのさ。シナモンのウーズ熱なんて話も怪しいモンだぜ。」
「……行かなきゃ。メースを助けに行かなきゃ!!」
「そうですの!!放って置く訳にはいきませんの!!」

ジェラ風穴はモンスター達の住処。このままメースを1人で行かせるには危険すぎる。
メースを追って氷の島へ行こうと、ミエル達はタル船のある場所へ走り出した。

タル船に着くと、意外な人物がそこに立っていた。先日村に残ると言ってたシードルだ。

「シードル……?」
「よう!シードル!町を出て冒険でもしてみる気になったのかい!?」
「冒険? まさか……汗水垂らして、泥にまみれて何をしようって言うのさ。」

陽気に話しかけるカシスに向かってシードルは鼻で笑いながら答えた。

「ジャア、コンナトコロデナニシテンダ?」

カフェオレの問いにも答えず、シードルは船がある方を見つめていた。
そこには、先まで2つあった船が1つしか無かった。

「リーダーの船が消えてますの!メースはどこへ行きましたの!?」
「氷の島………ジェラ風穴に行くって………。」
「そんな…。」

メースは本当にジェラ風穴に向かった。それが解った以上、ここでグズグズしてる訳にはいかない

「1人で行くなんて無茶ですの!!助けに行きますの!!」
「行こう、シードル!!アイツを助けなきゃ!!」
「……。」
「イソグゼ!!テオクレニナラナイウチニ!!」

何度皆が説得しても、シードルは昨日の表情のまま振り向いた。

「君等だけで行けよ。僕には関係ないよ。」
「シードルちゃんのバカッ!!皆で助けに行きますの!!これは、皆の問題ですの!!」

何度説得しても、シードルは自分の意思を変えようとしない。
ペシュを始め、カシスとカフェオレも説得する中、いきなり鋭い怒鳴り声が聞こえた。

「もういい!!シードルなんか来なくてもいい!!」

ミエルだった。シードルをきつく睨みつけているその目には涙が浮かんでいる。

「私、シードルがそんな冷たい人だとは思わなかった。行きたくないなら、好きにすればいい!!」

一瞬シードルは驚いたが、やがて冷たい視線を放ちながら口を開いた。

「…皆、僕のママと同じ様に死ねばいいんだ……。」
「…え?」
「??」
「僕とママとで、パナシェ山に芸術祭の準備に行った時………ママが氷の彫刻に熱中しているうちに、外は吹雪になったんだ。
吹雪はそれから4日間も続いて、食べるものも無くなって、ママは助けを呼びに行くって………そのまま二度と戻らなかった…。
その次の日に救助隊の人が来て僕は町へ帰ったけど、ママは帰ってこなかった。」

それが、シードルが頑なに行くのを拒む理由だった。
安全な所で助けを待ってた自分は助かり、危険に身を任せた母親は助からなかった。
その経験をした彼にとって、誰かを助けるために危険に立ち向かう事は、死へ向かうような事と同じだったのだ。

「知らなかった……でも、今の俺達は助けを待つ身じゃないだろ?」
「………。」

シードルは何も言わず、村の方へ歩き出した。

「シードルッ!!」

カシスが呼びかけても、シードルは振り向きもしなかった。
皆が黙る中、最初に口を開いたのはペシュだった。

「行きますの。私達だけでも行きますの。」

ペシュとカフェオレがタル船に入ってる間も、ミエルはシードルが行った方をただじっと見つめていた。

「……酷い事…言っちゃった。」
「気にすんな。それより、今はメースだ。」
「………。」

カシスに腕を引かれ、ミエルもようやくタル船に乗り、船は氷の島へと向かった。

 
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