マジバケ小説 | ナノ


トルーナ村に戻って最初に聞こえたのはミルフィーユの悲鳴だった。

「…ミルフィ…。」

ミエルは急いで宿屋のドアを開けた。だが、その後見えたのはとても信じられない光景だった。

「しっかりして!!ティラミス!!一体、どこでこんな酷い怪我をッ……!?」
「……ティラミス…さん?」

宿屋の中でティラミスが傷を覆ったままミルフィーユに支えられていたのだった。
後から入って来た3人もその光景を見て目を見開いたり、口を押さえたり等、様々な反応をしていた。

「どうしたんだ!!この傷は!!」
「へへッ…しくじっちまった…。遺跡から足を滑らせ…ウグッ!!」
「こんな傷見たことない……遺跡から落ちた傷じゃないわ……。」
「まるで、自分で掻きむしって広げたような傷だっぴ……。」

ピスタチオの言ったとおり、ティラミスにある傷は鋭いもので付けた様な物だった。
ティラミスは虫の鳴くような声でミルフィーユに話しかけた。

「早く、俺のハートを取り出して…弟に…。」
「もう喋らないで!!」
「弟を………君に会わせたい………早く……。俺のハートを……弟に……頼……む。」
「ティラミス!!死んじゃダメ!!ハートなんてないのよ!!取り出せないものなの!!」
「ティラミスさん…。」

今にも泣きそうな顔になって目の前に跪いたミエルを見てティラミスは小さく笑った。

「まさか、お前に説教されるとはな。あんな泣き虫だった…お前によ。お前も…自分のハートは…大事にしろよ。心配してたぜ…あいつが……。」

話を終えると、ティラミスは再びミルフィーユの方を向いた。

「ミルフィーユ…嬉しい…君がいて…君に会えて…俺の…気持ち…ハート…弟に…。」
「ティラミスッ!!死んじゃだめッ!!もう誰も死なないで!!!誰も死んじゃダメ――――ッ!!」

最後の最後にティラミスは微笑んでいた。だが、やがてティラミスは二度と動くことは無かった。

ビクともしないティラミスを抱えて泣いているミルフィーユとミエルをキルシュ、アランシア、ピスタチオはただ見つめていた。
何か言いたくてもどう言えばいいのか解らない。3人は結局、ミエルが泣き止むまで外で待つ事にした。

「奴の具合はどうだった?」

急に声が聞え振り向くと、1人で先に行っていたガナッシュがそこにいた。

「ガナッシュ……まさか、お前がやったのか?」
「いい薬になっただろう。あれで2、3日でもミルフィーユに介抱されればハートってものもわかるだろう。」
「ガナッシュ…知らないの?」
「え…???知らないって……???」

震えてる声で語るアランシアの言葉にガナッシュは疑問を抱いた。だが、それはピスタチオの言葉で明らかになった。

「死んだっぴ…。ティラミスは死んだっぴ…!」

瞬間、ガナッシュの動きが止まった。彼の揺れてる目だけでもどれだけ衝撃を受けているか解る。

「そんな……!!まさか……!!」

ふと、がナッシュの目にある出来事が移った。必死で逃げるティラミスに魔法を放った自分。そして、それが命中した時に響いたティラミスの悲鳴。

「命に関わるような傷じゃない……!!そんな深手は負わせていない…!!」

とは言うものの、彼の目の動きが激しくなっていた。やがてガナッシュは逃げるようにその場を去った。
そんな彼を止めようとしたが、どうすればいいのか解らなかったクラスメートは彼をただ見てる事しか出来なかった。

「ガナッシュは嘘は吐いていないと思う。きっと、ちゃんと手加減してる筈よ……。」
「ガナッシュのミジョテーを喰らって、パニックになって、自分の胸からハートを取り出そうとしたんだっぴ……。ガナッシュのせいとも、そうでないとも言い切れないっぴ。」
「そうだな……あいつ、自棄を起こすような奴じゃないけど、放っておく訳にも行かないな。俺たちも行こう。」

「……どう言う事?」

ふと、宿屋から出てきたミエルが3人を見つめたまま震えてる声で聞き出した。その顔は真っ白で、紫の瞳は酷く揺れていた。

「ナイトホークがどうかしたの?」

しばらく互いを見合わせると、アランシアが恐る恐るミエルに近づいた。

「あのね、ミエル〜。ガナッシュはただ…」
「ナイトホークがやったの?ティラミスさんを死なせたのは…ナイトホークだったの?」
「違うの。確かに、ガナッシュが傷つけたけど…」

アランシアの言葉が終えるも前にミエルはガクンと崩れ落ちた。大切な人が憎い人に殺されたと聞いてショックを受けたのだ。
アランシアに抱かれたまま、ミエルは慟哭した。トルーナ村の住人は勿論、光のプレーンにいる全員に聞こえそうな程大きな泣き声が、ただその場で響いていた。

 
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