マジバケ小説 | ナノ


「ほら、あれが宿屋だよ。ベッドがフカフカでぐっすり寝れるの!あ、ほらあそこ!空にあるあれがベナコンチャ。あそこにねぇ…」

ミエルの切りのない説明を聞きながら5人は宿屋へ向かった。

「ミエル〜なんだか嬉しそうねぇ〜。」
「だって光のプレーンだよ!家族と初めて旅行に行った場所だよ。」
「はいはい。懐かしいのは解るけど俺達遊びに来たんじゃないからな。」
「解ってるよー。」

普段なら聞けないキルシュの真面目な説教を受けてミエルは頬を膨らませた。

宿屋に入ると長い緑色の髪をしたパペットがいて、近くにはもう1人のパペットが置かれていた。

「ティラミスさ〜ん。」
「よぉ。今日は友達と来たのか?」
「うん!」
「泊まっていくのかい?5ブラーでいい。」

ティラミスにお金を出し、案内された部屋に行くと、ちょうど人数分のベッドがそこにあった。

「私ここがいい!窓に近い所!」

そう言うなりミエルは窓に近いベッドに飛び込んだ。学校では見せないはっちゃけてる彼女はまるで子供の様だった。
やがて他の皆も好きなベッドに腰を掛けた。
キルシュはもう1つの窓に近いベッド、アランシアはその隣、ピスタチオは入り口近くのベッド、そしてガナッシュは…

「…何であんたが隣にいるの?」
「悪いか?」
「『悪いか』??あんた…」
「あー!!もう止めろ!こんな所で喧嘩するな!」

今にでも怒鳴りそうなミエルをキルシュが止め、ミエルはしばらくガナッシュを睨みつけていたがこれ以上怒鳴ろうとはしなかった。

「今日は疲れたっぴねぇ〜。」
「本当になぁ。今日はぐっすり眠れるぜ。」
「キルシュは早く寝なさいよ〜。怪我人は休まないと〜。」
「うわっ!おい、止めろよ!!」

アランシアがキルシュに毛布を被せたせいでキルシュは思わず叫びだした。が、やがてすやすやと眠ってしまった。

「それより〜、他の皆は大丈夫かな〜?」
「大丈夫だっぴ。皆無事だっぴ!!心配なんていらないっぴ!!」

内容は励ましてるようだがピスタチオの顔はまるで拗ねてるようだった。

「どうしたの〜ピスタチオ〜?」
「皆強すぎるっぴ!!キルシュも!ガナッシュも!みーんなオイラより強いっぴ!
オイラだって強くなりたいっぴぃーーー!!」

ぎゃあぎゃあ叫ぶピスタチオ。だが、哀れな事に誰1人聞いていなかった。

「とりあえず、明日ワクティ村に行って他の皆を探さなきゃな。」
「そうねぇ〜。ミエル〜明日はよろしくねぇ〜。」
「何でミエルは何でも出来るっぴ!!何で何でも知ってるっぴぃーーー!!!」

ピスタチオの叫びに誰も返事をせず、結局アランシアの音の魔法で無理やり眠らせられ、残りの3人も夢の中へと入って行った。

何も見えなくなるほど真っ暗な夜、宿屋で眠っていた5人の子供達の内の1人、ミエルが突然バッと身を起こした。
起きたばかりの彼女は顔中汗まみれで呼吸が少し荒くなっている。

「だ、大丈夫なの!?顔色悪いなの!!」
「……夢?」

辺りを見回すと泊まっていた宿屋の部屋が目に映った。どうやら悪い夢でも見たようだ。

「……大丈夫なの??」
「……。」
「無理しないでなの。エア達がいるなの!!」
「ありがとう。もう大丈夫だから。」

エアに励まされてようやく息が整えたが眠気が完全に覚めてしまい、気分転換でもしようとミエルは外に出た。
黒に染まって何も見えない村とは違って、空はいろんな色を持った星がキラキラと輝いている。

「綺麗なのぉ。」
「…うん。」
「あの時も、こうやってこっそり星空を見てたなの!!」
「あ〜そうそう。そしたら『まだ寝てなかったのか』って怒られてた。」

笑いながら話すのも本の数秒間、ミエルは話すのを止めた。
キルシュの言ったとおり、今は他の友達を探すための旅をしている。
あの時みたいにきゃあきゃあと遊べる状況ではないのだ。
そう思ったミエルは突然、宿屋の階段から降りてどこかへと走ろうとしていた。

「どこ行く気だ?」

突然聞こえた声に反応し、ミエルの体が固まった。
嫌そうな目付きで振り向いた所から出てきたのは他の誰でもないガナッシュだった。

「どこに行こうが私の勝手でしょ?」
「こんな真夜中に行かなきゃいけない所なのか?」
「ただ魔法を鍛えるだけよ。すぐ戻るから、あんたは寝てて。」

話を終え、どこかへ行こうとするミエルをガナッシュは引き止めた。

「どうしても今じゃなきゃ駄目な理由でもあるのか?」
「…私はもっと強くならなきゃいけない。今のままの私じゃ駄目なのよ。」

一瞬、ガナッシュの眉がピクリと動いたと思いきや彼の声が荒立った。

「お前、こんな状況でそんな事言ってる場合じゃないだろ!勝手すぎるのも程が…」

「解ったような言い方しないで!!」

絹を裂くような声でミエルはガナッシュの言葉を遮り、自分の手を掴んだ彼の手を振り払った。

「こんな状況だからよ。この先、どんなエニグマが出てくるか解らないし、他の皆だって追われてるかも知れないの。
クラスの中でこの場所について詳しいのは私だけだから、皆の足を引っ張らないように私が一番しっかりしてなきゃいけないの!
私はあんたみたいに天才でもないし、実践の経験だって、クラスの中では私が一番少ないの!!
キルシュにあった事が二度と起きないようにするためにも、他の皆を守るためにも、私は強くならなきゃいけないの!!!
何でそれが解らないのよ!!!!」

肩で息をしながらガナッシュを睨んでる彼女の目は酷く揺れていた。
長い沈黙が続くなか、ミエルは自分が通ってきた道の方へ走って行った。
その後彼女が帰ってきたのは『すぐ』と言う時間をはるかに越える時間が経った後のことだった。

to be continued……

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