「キルシュ、ただいま戻りました!!」
職員室のドアが開けてすぐ聞こえたのは魔法学校の教師であるキルシュの勢いのある言葉だった。
「いや〜、最近の生徒達は皆元気が良いよなぁ。」
「あなたといい勝負だと思うけど?」
「いやいや、俺もあそこまでじゃなかったぜ?」
そんな彼の相槌を打ってるのは同じく魔法学校の教師であるキャンディ。
彼女は魔法は使えないが、歴史の知識が豊富で教え方も上手、まさに生徒達の憧れの対象でもある。
難しい授業であるにも関わらず、彼女の授業を受けたいという生徒が数知れない程多くいるとかいないとか。
キルシュが座った席には一枚の写真があった。緑色の髪をした女性と、小さな2人の子供の写真。
「いい加減一日位帰ってやったら?何度も寂しいって言ってたよ。」
「大丈夫だろ別に?いつも1人でいるって訳でもねぇし。」
「もう、シードルだって暇だからやってる訳じゃないのよ!?」
美術家のシードルはかつての出来事を絵に描き、後の世代にもその時の出来事を語り続けている。
そんな彼の友人の頼みだからなのか、時々キルシュの子達にも絵を教えたりしていた。
「まあ、その内帰るよ。あいつばかり家を任せる訳にもいかないしな。」
「それ本当でしょうね?後でちゃんと彼女に聞くからね?」
「わ…分かってるって…。」
問い詰めるキャンディにオロオロしているキルシュ。すると、またもや教師のうち1人が職員室に入ってきた。
「なあ、この新聞見たか?」
トリュフが持っていた新聞をキルシュ達に見せると、予想外の事が書かれていた。
『古代ロボット行方不明事件』
と言う題目と共に、ロケットの形をした、どこか見覚えのある古代機械の写真がそこに載っていた。
「これもしかして……カフェオレ??」
「もしかしなくともカフェオレじゃねぇか??」
カフェオレはセサミの古代技術の研究のためのパートナーになっていた。
その研究によってセサミが出した論文は数多く、事も順調に進んでいると思っていたが、まさかこんな事が起きてたなんて誰も思っていなかった。
「あ、そう言えばペシュから写真が届いたの。ほら。」
キャンディが出した写真にはどーどー鳥に囲まれているペシュがいた。
その隣には格闘技家の服を着ているレモンとウォーターピープルと一緒にいるブルーベリーもいる。
「相変わらず仲良いよねこの3人。」
「こいつ等最近絶好調だよなぁ。ブルーベリーなんか以前特別講師として来た事もあるしな。」
「それを言ったらピスタチオなんてもっと驚きよ。
あんなに落第がどうのこうの言ってたのに、博士号まで取ったんだから。」
次々とかつてのクラスメートを語る3人の教師。
3人にとって、彼等はそれだけ大切な仲間達だったのだ。
「まあでも、卒業してもいつも通りの奴もいるけどな。」
「ショコラは論外じゃない??いつもあんな風だし。
カシスなんかまた旅に出るって聞いたときは全員が耳を疑ったよね。」
「けどまあ、カベルネやあいつにも会ったと言うし、悪いことばかりじゃないじゃないか??」
カエル王国の守護神になったカベルネと島で動物と共に自然を守っているオリーブ。
旅をしながら出会った仲間達について語っていたカシスの言葉を思い出し、3人は思わず笑みを浮かべた。
「はあ……本当に、何もかも懐かしいわね。」
「そうだ!!もうすぐ夏休みなんだしよ。同窓会とかやらねぇか??」
「夏休みなのは生徒達だけだろ?
俺達はその日もやらなきゃいけないことがまだたくさんあるんだぞ。」
「いいじゃんかたまには。」
すると、いつの間にそんなに時間が経ったのか教室のチャイムが鳴った。
「あ、やべぇ!!俺次も授業あるんだった!!」
慌てて準備をして職員室を出るキルシュ。
勢いが高すぎて途中で転ばなければいいものだ。
「でも同窓会も悪くないんじゃない??」
「まあ、全員が時間があればな。」
「フフッ、そうね。出来れば、ガナッシュも呼べたら良いなぁ。
難しいかもしれないけど、せっかく皆と会えるなら全員の方がいいから。」
「……そうだな。」
そうやって会話が続いていたが、突然キャンディの顔がやや曇り始めた。
「……ねえ……まだ、連絡つかないの??」
「……ああ。」
今まで話題になかった人物、ミエルの事を恐る恐る聞くキャンディ。
出来ることなら話たかっただろう。
だが、全員が卒業して数年後、キャンディ達が教師になり、他の皆も自分の役割を果たしている時でさえ、誰も彼女の消息が分からなかった。
「まさかとは思うけど、何かあったんじゃないのかって思っちゃうの。
私達が知らないだけで、本当は…もう……。」
そう言ってキャンディは1枚の写真を見つめていた。
卒業式の時に撮った、クラスの全員が載っている写真を。
「たとえそうだとしてもあいつは、自分の決めた道を後悔してないんじゃないか??」
その言葉につられ、キャンディはトリュフを見つめた。前の席に座ってるトリュフは微かながらも笑っている。
その両目は、何の汚れもない、澄んだ青の色をしていた。
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