マジバケ小説 | ナノ


時は長い様で短い。たった一日は勿論、数年の時もあっという間に過ぎている。それは魔法学校の時間もそうだった。
入学して同じクラスになり、時には誰かが転校してきて、勉強をしたり遊んだりしている時が繰り返し、臨海学校と言う意味のある出来事が起きたマドレーヌクラスの生徒達にも、いつの間にか卒業の日がやって来た。

「はあ…もう卒業か…。」
「何だか寂しくなるわね。」
「寂しがる必要ありませんの!!卒業した後もまた皆に会いに行けばいいですの!!」

卒業して皆と離れ離れになるが寂しいブルーベリーとレモン、そしてそんな2人を励ますペシュ。

「そう言えば、将来何かやりたい事ある?」
「そうね……水のプレーンで色々研究がしたいなぁと思うんだけど…。」
「へぇ、いいんじゃない?」
「凄いですの、ブルーベリーちゃん!!私も応援してますの!!」
「ふふ、ありがとう。」

3人の会話が続く中、他のクラスメート達も卒業後何をするのか悩んでいた。

「オイラ、卒業出来るっぴかねぇ…。」
「カラマリィに勝ったんだろう?それにあの日のキャンプでお前はさらに強くなったんだ。もっと自分に自信を持て。」
「そうだぞ!!お前は心配し過ぎなんだって!何事も気合が必要なんだよ!」
「お前はもう少し心配したらどうなんだ?アランシアが言ってたぞ。今日も危ういってな。」
「う…うるっせぇな!!」

禅部屋で落ち込んでいるピスタチオをトリュフとキルシュが励ましているが、どっちかと言うとキルシュの方がピスタチオより卒業するかどうか心配だった。

「つーか卒業と言っても、この先何すればいいか分かんねぇよ。」
「キャンディはもういいのか?」
「うるっせぇな!ほっといてくれよ!!折角俺がキャンディの為に引いてやったって言うのに、肝心のガナッシュは他の奴が好きだって言うしよぉ…。」
「…そのガナッシュもある意味哀れだと言えるっぴ…。」
「もう俺の話は良いだろう?お前等はどうするのかもう決めたのか?卒業した後とか、大人になったらとかさぁ。」

畳に寝転がったまま問いだすキルシュの質問にトリュフはしばらく考えると、やがて口を開いた。

「俺は…教師になろうと思ってる。」
「え?教師って…先生か?」
「休学して色々考えてたんだ。この学校で学んだ魔法を戦争以外で使う事は出来ないのかって。
ガナッシュはこの国をいつまでも平和にするために身を張ってるんだろう?
なら、その平和を後世にも維持できるように、戦う為ではなく、互いを助ける為の魔法を教えたいんだ。」
「…なんか、意外っぴ…。」
「いや、案外トリュフらしいんじゃないか?こいつ教えるの上手いし、意外と面倒見のいい奴なんだぜ。」
「……一応誉め言葉として受け取ってやるよ。」
「何だよ素直じゃねぇな。褒めてんだからもっと喜べよ。」

キルシュの不器用な誉め言葉に、トリュフは小さく笑っていた。

一方その頃、一瞬だけ3人の話題になっていたキャンディはと言うと、図書館で1人で読書をしていた。
彼女の席に会った本はどれも歴史や哲学等に関する本で、見るだけでも眠くなりそうな分厚い本だった。

「キャンディ?」

声がした方へ顔を向けると、同じく図書館で本を借りようとしていたミエルとオリーブがいた。

「今日も1人で勉強?」
「うん。もっと多くの事を知りたくて、今まで知らなかった事や、間違った歴史をもっともっと知りたいの。」
「相変わらずキャンディは努力家だね。」
「そう言うミエルだってもうすぐ卒業なのにほぼ毎日図書館に来るじゃない。」

静寂を何よりも重要としている図書館はいつの間にか少女達の話声が満ちていた。
管理人も、もうすぐ卒業だからである事を承知の上だからなのか、今回は3人を見逃していた。

「でも、本当あっという間だね。」
「あっという間だったけど、長い臨海学校だったんじゃない?」

キャンプのつもりが何者かによって別世界に連れ去られ、その間に色々な出来事が起きた。
困難な時もあったが、そのおかげで得たものは大きく、このクラスの生徒達にとってはかけがえのない思い出になったのだろう。

「卒業かぁ。」
「何かあまり実感わかないよね。あの日のキャンプでさえ昨日の出来事に思えるのに…。」
「……何か、やりたい事はある?」
「あら、そう言うオリーブはどうなの??」
「私?私は……。」

キャンプの前の日までは互いに距離を置いていたが、今では普通に会話できる友達になったキャンディとオリーブ。
そんなキャンディの質問にオリーブとミエルが考え込んでいる時だった。

「ねぇ、キルシュ知らな〜い??」

いきなりドアが開いたと思えばアランシアが入ってきた。
口調は相変わらずのんびりとした口調だったが、なにやら少し慌てているようだった。

「キルシュならお兄ちゃんと一緒に禅部屋に行ったけど?」
「うそぉ〜!?勉強みてあげるから教室で待っててって言ったのに〜!」

そう言ってアランシアが図書室を出ようとした時だった。

「あ、ねぇアランシア、せっかくだし一緒にお話ししようよ〜。」
「え〜でも〜。」
「キルシュはトリュフと一緒なんだし、もうすぐ皆離れ離れなんだからいいじゃない??」
「……う〜ん…。」

しばらく悩んだアランシアは結局ミエル達の席へやって来た。

「そう言えばアランシアは将来何かやりたい事とかある?」
「私はパパとママみたいにミュージシャンになりたいなぁ〜。あ、でもお嫁さんとか……きゃあああ〜〜〜!!!」

1人だけの世界に入ってしまったアランシアに全員が言葉を失った。誰のお嫁さんになりたいのかは…まあ聞かなくても分かるだろう。

「はぁ〜…。なんか切ないヌ〜。キャンプ以来こんなに切なく感じるのも初めてだヌ〜。」
「まあ、そう落ち込むなって。今生の分かれでもないんだしよ。」
「にしても、あのピスタチオやキルシュもそうだけど、まさか君も卒業出来るなんてねぇ。」
「はぁ!?何だよそれ!?まるで俺が不真面目な奴みたいじゃないか!!」
「実際そうでしょ?」
「お前喧嘩売ってんのかぁ??あーん!?」

相変わらず喧嘩ばかりするこの2人。だが、前に比べると互いに冗談が通じ合うなど、かなり距離が縮まっている。

「まあ僕はいつもどおり絵を描いて過ごすよ。あんな長い旅は僕はもうゴメンだね。」
「いいじゃないかたまには旅をしてみるのも、いつも室内に籠ってちゃそのうち身体が持たないぜ?」
「余計なお世話だよ。」
「まあまあ…。」

まさに喧嘩する程仲がいい3人がこんな他愛無い話をしている時だった。

「待て待て〜!!!」
「ヒィィィィ…マッテクレ…。」
「遅いんだよカフェオレ!!さっさとしないと虫さんが逃げるだろ!?」

外から聞き覚えのある声が聞こえて窓からのぞき込めば、いつものように虫を追いかけまわってるセサミと、ヒイコラ言いながら後を追ってるカフェオレ、そんな彼をのんびりと見つめているショコラが見えた。

「あいつは…まあ、いつもどおりかな?」
「将来は昆虫博士…なんてね。」
「ヌ〜…。」

そうやってクラスメート達の会話が続くのも後数日後になる。
だが、だからと言ってこれが永遠の別れになるわけではない。
魔法学校での思い出や、それによってより強くなった彼等の絆は、これからもずっと彼等の心の中に在り続けるだろう。

 
(4/7)
戻る
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -