マジバケ小説 | ナノ


そうやってコヴォマカ国が平和を得て数週間後、事がだんだん治まってきた頃、ガナッシュは学校へ戻った。
かつては学校に行けば暗い気分になるばかりだったが、今は学校が恋しく感じていた。
玄関に入り、廊下を歩いてると、禅部屋、図書館、音楽室等、見慣れた場所が次々と目に映っている。
そして、ようやく自分が行こうとしていた場所に辿り着き、ドアを開けると

「おかえり!!」

キルシュの言葉を初めに全員のクラスメートが彼を迎え入れた。
久しぶりに会うクラスメート達にガナッシュも笑顔で

「ただいま。」

とかえした。

ガナッシュが席に着くと、いつの間にか周りはクラスメート達に囲まれていた。

「にしても、あんな短時間でエニグマ憑きの魔法使いを支配下に置くなんてよぉ。本当は魔力を失っていないんじゃないのか?」
「…茶化してんのか?」
「だってそうだろう?魔法も使えないのにエニグマ憑きと向き合えるんだからよぉ。俺だったら恐くてとっくに逃げてたぜ。」
「2回ダブったキルシュと一緒にしない…ぴっ!?」
「るっせぇな。それとこれとは関係ねぇだろうが!!」

ピスタチオの頭を殴るキルシュを見てガナッシュは思わず笑ってしまった。
確かに、魔力が無いにも関わらず現在ガナッシュはエニグマ憑きの魔法使いのトップである。
短時間でこの様な地位に入っている事を考えると、本当に魔力を失ったのか疑いたくもなるだろう。

「でも、あなたがいなくなって皆寂しいと言ってたわよ。」
「何か物足りないって言うか、有るべき何かが無くなっちゃった気がするって言うのかな?何となくそんな感じがしてたんだよね。」
「ガナッシュちゃんの分のノートと宿題はちゃんと取っておきましたの!!ガナッシュちゃんが帰ってくる時に困らないように!!」

学校での出来事やガナッシュに対する皆の気持ちを聞いていると、マドレーヌが教室に入ってきた。

「はいはーい、皆席に着いてぇ。ガナッシュが来て嬉しいのは分かるけど、もう授業始まってるぞ!!」
「ええー!?折角ガナッシュが来たって言うのにが今日も授業かよ…。」
「今日くらいは授業休んでもいいヌ〜!!」
「ダーメッ!!皆もうすぐテストあるの忘れてないわよね??特にキルシュ、成績悪かったら今回も落第だぞ??」
「うっ……。」

ぼんやりした担任の先生に痛い所を付かれたキルシュは大人しく自分の席に座るしかなかった。

「あーあ、何でテストなんて面倒なのがあるのかなぁ…?」
「そんな事言わないのぉ〜。」

ブツブツと文句を言うキルシュを隣のアランシアが宥め続ける。そんな2人を見ていると、急にカシスが立ち上がった。

「よしっ!!んじゃ今日の放課後歓迎会でもやるか!!全員時間空けとけよ!!今日はパーッと盛り上がるからな??」
「お…おい…。」
「あっ!!賛成!!じゃあ、私持ってるお菓子全部持ってくるね!!場所は禅部屋にしましょう!あそこなら皆でワイワイ出来るし!!」

ガナッシュが戸惑っているにも関わらず、ガナッシュの歓迎会の計画はカシスとキャンディによって着々と進んでいる。
こんな状況では主役である本人が断るのはこの場に水を差している事と言えるだろう。
そう思ったガナッシュは今日は折れる事にした。

「あ、そうだ。トリュフ。ミエルにもちゃんと声掛けてやれよ!今日は全員参加だからな。」
「…あんまり期待はするな。」

他のクラスメートとは違って面倒そうな顔をしているトリュフ。
そんな彼とカシスの会話を聞いてガナッシュはようやくミエルが居ない事に気づいた。

「…ミエルは、今日休みなのか?」
「ああ、あいつは今特別授業。ほら、ミエルって長い間自分の魔法を封じて来ただろう?
それのせいなのか、時々魔法を使う事が難しいって言ってるんだ。
お得意の精霊を呼ぶのは別に問題はないらしいけど、たまに魔法が出なかったり、逆に魔法が暴走したり、とまあちょっとした問題がよく起きるからさ。
1人で練習したいと先生に頼んでほぼ毎日禅部屋で魔法の実技授業を受けてるんだ。
まあ所謂、裏補修…みたいなもんかな??」
「……。」

「はいはい!雑談はそこまで!!授業はじめるよぉ!!」

マドレーヌの陽気な声によって生徒達の会話は途切れ、魔法学校での授業が始まろうとしていた。

いくつかの授業が終わって昼休み、魔法の練習をしていると言うミエルの様子を見に、ガナッシュは禅部屋へと足を運んだ。
すると、いつの間にいたのか、トリュフが禅部屋の扉の前で他のクラスの生徒達を怒鳴り散らしているのが目に映った。
あのキャンプ以来、ガナッシュがケルレンドゥと融合していると言う噂と同時に、魔法学校唯一の光の魔法使いの生徒がマドレーヌクラスにいると言う噂まで学校中に広まっている。
その魔法使いがどんな人なのか知りたいと思うのは普通の魔法使いからすれば至極当然な事だろう。
おそらく、その魔法使いが禅部屋にいる事を聞いてこっそり覗きに来たと思うが、兄であるトリュフからすれば妹を見世物の様に扱う彼等が迷惑に思えたに違いない。
他のクラスの生徒達を扉の前から追っ払ったトリュフはようやくガナッシュが来ている事に気が付いた。
ガナッシュを歓迎していたクラスメート達とは違って、トリュフはまるで警戒してるかのように睨んでいる。

「何か用か?…って聞くまでもないか。あいつに話でもあるんだろう?」
「…大丈夫なのか?最近あまり調子が良くないと聞いたが。」
「お前が気にするほどの事でもない。ただ使い慣れてない魔法を急に使うようになって戸惑っていただけだ。
今は大分マシになってるし、先生ももう他の奴等と普通に授業を受けても大丈夫だと言っている。」

トリュフの言葉を聞いてガナッシュは心の底で安堵の息を吐いた。
そんなガナッシュを見ても、トリュフはただ機嫌悪そうに彼を見つめている。

「言っておくが、俺はまだお前を許してはいない。
確かに、ミエルがああなったのは俺にも責任はある。だが、だからと言ってお前がやった事を見逃すつもりはない。」
「……。」

まだ幼かった頃、何らかの理由で互いにすれ違い、時には衝突する事もあった。
そしてその衝突のせいである人は危うく命を落とすとこだった事もある。

「かつてあの運転手はお前の好きにしても構わないと言ったと思うが、世の中そんな甘くはない。
お前が本当に皆を守ると言うなら、最後までその意思を貫き通せ。
途中で逃げ出すような中途半端な事など、俺は絶対に許さないからな。」
「…そんな事、言われなくても分かってる。」

すべて承知であっても、そこから逃げずに向き合おうとする。
その気持ちが伝わったのか、トリュフはこれ以上言葉を継げず、ただ溜息を吐いていた。

「そう言えば、あいつ言ってたぞ。最近ニルヴァに会う事があまり無くて寂しいってな。」

一瞬魔力を失った事を馬鹿にしてるのかと思い、眉を顰めたガナッシュだったが、やがてその言葉に疑問を抱き始めた。
そして、言葉の意味を理解した時には、トリュフはすでにガナッシュを通り過ぎていた。

ガナッシュから遠ざかるトリュフをニヤニヤと笑いながら見ているニルヴァを赤い瞳で見つめると

「……るっせぇ、黙ってろ。」

とトリュフは不満そうに言葉を放ちながら教室へと戻って行った。

 
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