マジバケ小説 | ナノ


これでもう終わりだ。そう思っていたキャンディはただ目を瞑ったまま闇の魔法が自分を襲うのを待つ事しか出来なかった。
だが、どれだけ待っても、痛みや苦しみは勿論、僅かな感覚さえ感じられない。
何が起きてるのかと思い目をそっと開けてみると、真っ白な光が目の前に現れていた。
ケルレンドゥが放った闇に対抗するかのように大きくてまぶしい、けれど、どこか優しい温もりを感じさせる、そんな光だった。
やがて光はすべての闇を払いのけ、ケルレンドゥの身体を微かながらも吹き飛ばした。

「なっ!?まだ…生きていただと!?」

それを聞いたキャンディはミエルへと視線を移した。
ケルレンドゥに向けて手を伸ばしていているミエルは微かに色を取り戻している。

「ミエル……」

驚き、そして喜びが籠った声でミエルを呼び掛けたが、ミエルはそれに応じる事なく、ゆっくりと身を起こしている。
少しずつ力を取り戻している他の仲間達の驚いた視線に見守られたまま、ミエルは俯いていた顔をゆっくりと上げた。
彼女の瞳の色に、そこに居るほぼ全員が驚いただろう。
その瞳は、いつものアメジストの様な紫色ではなく、まるで太陽の光のような金色だったのだ。
そんなミエルを見て、ケルレンドゥはその場に合わぬ声で笑いだした。

「ククッ…フハハハハハッ!!!やっと本来の力を出したのか!!今まで封じて来た、お前の本当の魔法を!!」

そう言うとケルレンドゥはミエルに向けて手を伸べた。

「惹かれる…!!その力!!お前のその力、すべて俺の物にしてやる!!」

その言葉と同時に魔法が放たれると、ミエルはその魔法に向けて手を伸ばした。
その手から出てきたのは、今までの風の魔法ではなく、真っ白に輝く光の魔法だった。
キラキラと輝く光は闇を一瞬で追い払い、ケルレンドゥの身体を貫いた。

「グッ!?」

強すぎる光を喰らったケルレンドゥは体勢を崩し、光に包まれていくミエルはケルレンドゥを睨んだままゆっくりと近づいていた。

「この力があなたの物になる事はない。私も、この魔法も、そんな事望んだりしない。」

唸り声を出しながら自分を睨んでいるケルレンドゥに向けて、ミエルは淡々と話している。だが、その瞳はどんな物よりも強く、まるですべてを貫くかのように鋭かった。

「終わりにするわよ。ルクス!!」

ミエルが叫ぶと、辺り一面から光の粒が現れ、その光が6つになった時、ミエルの身体からもそれと同じ光が姿を現した。
その光は、今までずっとミエルを見守った存在であり、すべてを正しき道へと導こうとしていた光の精霊、ルクスだった。

「くそっ!!何て力だ!!…だが、いずれその力も他の存在に奪われるだけだ!!たとえ光の魔法でも、お前のその力はこの世の全てを破壊するために使われる!!
お前は今まで、どれだけ多くの存在に裏切られた!?どれだけ多くの存在に苦しめられた!?
その魔法を封じ込めてしまいたいと思うまでの出来事を、お前は一体どれだけ多く味わってきた!?
ここにいる全ての存在はお前を裏切り、苦しめ、そして見捨てるのみ!!
いくら仲間の為だと叫んでも、そんな事無意味になるだけだ!!」
「……たとえそうだとしても、私は逃げない。皆を見捨てたりしない。
皆が私に手を差し伸べたから私は立ち上がることが出来た、あいつを心から許すことも、自分の魔法を取り戻す事も出来た。
皆が私を救った事実は、何があっても変えることは出来ない。たとえあなたが何を言っても、私の皆に対する思いは、決して変わらない!!」

ルクスの加護を受けているミエルが腕を大きく広げると、辺りから無数の色の光が次々と現れた。
様々な色の光が互いに合わさり、ルクス達がその光に溶けこむと、どんな光よりも白くてまぶしい光へと変わって行った。
そして、ミエルが呪文を唱えるとその光は辺り一面を照らし、ケルレンドゥの身体を飲み込んで行った。

「まさか……!そんな……!!馬鹿なッ……!!」

敗北を見るめる事が出来ず、ケルレンドゥの身体はどんどん光に飲み込まれて行き、最後には光と共に存在その物が消えて行った。

「……。」

一瞬、全ての音が消え、微かな光の粒幾つかが魔法使い達の周りをさ迷い続けている。
やがて、ケルレンドゥの完全な消滅を悟った魔法使いの生徒達は感嘆の声をあげ始めた。

「勝った....。勝ったわ!!私達、ケルレンドゥに勝ったんだわ!!」
「と言うか、こいつの最後の台詞安っぽかったなぁ~。」
「でも、これで心置き無くガナッシュの所に行けるヌ~。」

そうやって勝利を喜んでいる中、ある人が見当たらない事に気付いた。

「ミエル??」

仲間の1人であり、ケルレンドゥを消滅させた張本人でもあるミエルの姿がどこにも無かったのだ。
ふと辺りを見回すと、奥でミエルが倒れているのが目に移り、キャンディ達はそちらに向かって走っていった。

「おい、ミエル。大丈夫か?」
「....大丈夫。本の少し、気を失っただけみたい。」

キャンディが抱えたミエルは実に穏やかな表情で微かながらも呼吸の音が聞こえていた。

「やれやれ、俺達も頑張ったのに、美味しい所は全部ミエルに取られちゃったじゃねぇか。」
「じゃあ、あの場で死んでたら良かったわけ?」
「まさか、死んだらそこで終わりだからな。」

場違いなほど和らいでいる雰囲気につられ、気が付けばキャンディ達は思わず笑ってしまっていた。

「んじゃ、帰るとしますか。」
「そうだヌ~。今頃ガナッシュも先生も心配している筈だヌ~。」

まだ眠っているミエルをカシスが背負い、キャンディ達は再生の間に入る為の入り口へと身を浮かべた。

 
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