マジバケ小説 | ナノ


一瞬、すべての時が止まったかのようだった。
先程まで共に戦っていた仲間の1人が、今は何の色を浮かべず横たわったまま、身動き1つしていない。
そんな1人の少女の姿を見た仲間達の動きすべてがその場で止まっている。
だが、その止まった時間はたった1人の少女によって再び動き出された。

「ミエル!!しっかりして!!」

横たわったミエルを抱えてキャンディが必死で叫ぶも、ミエルは指一本動かさない。
まるで生命の宿らない人形の様にただキャンディによって揺れているだけだった。
キャンディは勿論、他の魔法使いの顔にも驚きと共に衝撃、悲哀等の感情が籠っている。
そんな彼等をケルレンドゥはすべてを勝ちとったかの様に、そして彼等を嘲笑うかのように大声で笑いだした。

「フハハハハ!!!どうだ!貴様等の仲間と言う奴の最期を迎えた時を目の当たりにした瞬間は?貴様等がどれだけあがこうと、最後は皆が意味も無く命を落とす。
闇に抗える物など、最初から存在などしないのだ!!!」

辺り一面に響く笑い声を聞いていた魔法使い達の内1人の表情が険しく変わると、ケルレンドゥに向かってとびかかってくる。
そして、銀色に輝く刃の魔法を出すと、その刃でケルレンドゥの体を切り裂いた。

「…な…。」
「何だと?」
「勝手に殺すな!!こいつはまだ死んでなんかいない!!勝手に死んだとかぬかしてんじゃねぇ!!」

刃をケルレンドゥに向けて叫ぶカシスを見て他の仲間達もハッとした。
カシスは未だにミエルがまだ死んでいないと言っている。自分の仲間がまだ生きていると信じているのだった。
それに気づいた4人は先程まで無くしていた戦意を取り戻し、再び体勢を立て直していた。
魔法が使えないキャンディはミエルを抱えたままこれ以上魔法に襲われないように避難し、シードルはミエルに向けてホワイトローズの魔法を唱え続けた。
そうやってミエルが意識を取り戻すのを待つ間、カシスとカベルネ、そしてオリーブはケルレンドゥとの戦いを続けている。
人数が減った分、魔力と体力の消耗は早く、戦う状況もかなりきつくなっているが、そんな事を気にする訳にはいかない。

「フン、死を見てもなお悪あがきをするとは。愚かな者よ!!」
「悪あがきに見えても構わないヌ〜!何があってもお前を倒してやるヌ〜!!」

毒、刃、獣、そして闇の魔法が互いにぶつかり合い、その衝撃で一瞬ながらも眩しい光を出している。
お互い相当な時間を戦い続けたが、誰一人弱音を吐くものは居なかった。
すると、ずっと戦っていた3人のいる場所ではない別の方向へと、ケルレンドゥは魔法を放った。
彼等が油断してる間、戦いから外れている3人を襲おうとしているのだ。
闇の魔法が近づいている事に気づき、シードルはパウダーを呼んでブラックローズを唱えると、黒い薔薇が同じく黒い魔法を包んでは破壊した。
だが、それが何度か続いているうちにシードルもだんだん限界に近づいていた。
彼の美の魔法も決して侮れないほどの威力だが、ミエルの意識を取り戻させると同時に敵の魔法を抑えなければならない。
2つを同時にやるのはいくら魔力が高いとしても酷な事だった。

「…シードル、ここは私に任せて。皆の所に行って。」
「けど…!!」
「大丈夫、ミエルは私が全力で守るから。それにミエルだって、自分のせいで皆が傷つく事なんて望んでるはずないもの。」

魔法が使えないにも関わらずキャンディの目には強い意志が込められている。
それを見てシードルは頷き、カシス達の援護に入って行き、キャンディは万が一に備え、風の魔法のボムを傍に置き、複数のエア達を呼んだ。

こうして魔法魔法同士でぶつかり合い、互いに傷を与えてるのにどれだけの時間が経ったのだろうか。
互いの魔力は勿論体力もだんだん底を付き始め、何人かは体勢を保つ事でさえ困難なくらいになっている。
すると、辺り一面から無数の薔薇の茨が現れ、ケルレンドゥの大きな身体を締め付けた。
いくらそれを引き裂こうともがいても、パウダーの加護を受けて丈夫になっているその茨はなかなか離れようとしなかった。
それをチャンスだと思ったカベルネはブーを呼び、カシスがケルレンドゥに向かって走るタイミングに合わせて毒の魔法を放つ。
そして、毒が完全にケルレンドゥを覆ったとき、カシスがケルレンドゥの身を刃で貫き、相手の体勢を崩すと、ガルと共に緑の光に包まれたオリーブがケルレンドゥに向かって突進した。
最後の魔法が相当効いたのか、茨が消えるとケルレンドゥは苦しそうに蹲った。

「チッ…まだ倒れないのか…。」
「でも、あともう少しだよ。相手もだんだん力が底を付いている。」

警戒を解かずケルレンドゥを見ているカシス達。だが、ケルレンドゥが立ち上がると、体勢に入る隙も与えずにある事が起きた。
突然ケルレンドゥが腕を上げると、ニルヴァの加護を受けた闇の魔法と共に地面を叩き付ける。
それによって地震と同時に大きな衝撃波が起き、体勢を崩したカシス達を奥へと吹き飛ばしてしまった。
今までの戦いで体力をほとんど使ってしまった魔法使い達は倒れたまま起き上がる事さえ難しく、ただそこで横たわる事しか出来なかった。

「皆…!?」
「どうやらお前1人だけのようだな。まあ、魔法が使えない奴など、俺の相手にもならんがな!!」

ケルレンドゥを睨み付けたキャンディは新たなボムを取り出そうとしていた。
が、長い戦いが続く中、エアの加護を受けられる風の魔法のボムは勿論、ニルヴァを消すことが出来る闇の魔法のボム、それ以外の全ての魔法をのボムを全部使い切ってしまったのだ。
もはや何も出来ない絶望的な状況にキャンディの顔は青ざめてしまった。
ケルレンドゥはニルヴァを呼び出し、太陽のように大きな闇の魔法を唱えている。

「お前も他の奴等と共に、その小娘のいる場所へ向かわせてやろう!!」

そう言うとケルレンドゥは再びすべての空間を闇で包み、自分を含めたすべての存在がその空間から見えなくなっていた。

 
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