マジバケ小説 | ナノ


「!!……ミエル…。」

ガナッシュの目から小さな滴が頬を伝い落ちた。自分のために語る言葉が彼の心に響く。
だが、今の彼は化け物のいるその場から一歩も動く事が出来なかった。

「もう良いんだ…皆……はっきり言って、もう融合なんてどうでもいい…だけど、もう体が……動かない…これが俺の……運命なんだ。」
「くっくっく…もう融合は始まっている。止められはせん。」
「俺が何か……変になっちまったら……その時は……頼む…っ!!」

すべてを諦めたかのように弱弱しい声で語る。だが、そう言われたからってはいそうですかと引き下がるつもり等これっぽちもない。

「ガナッシュ!!選んで!!君の生きる道を選んで!それがどんなに細い道でも見失っちゃダメだ!!」
「ガナッシュ!!どこまでも一緒ヌ〜!!1人で行かせたりしないヌーーっ!!」
「俺を信じろよ、ガナッシュ。俺は生きている限り負けやしねぇんだ。
お前も弱音なんかはいてねぇで、生き延びることを考えろ!!」
「運命だなんて、終わった事のように言わないで。貴方が望めば、私達には何でも出来る。私達を信じて!」
「諦めないでーーっ!!ガナッシューーッ!!気持ちが消えかけてるよ!!自分でちゃんと気づいてるのーーっ!?
姉さんを助けるんでしょ!ガナッシューーッ!!」
「……ガナッシュ…。いや、ナイトホーク!!あんたが言ってるこれが運命なら、今までの出来事すべてがそうだと言うの!?
本当にお姉さんを助けたいなら、自分の力で何とかしなさい!!ここにいる皆も、、魔バスで待ってる皆もそれが出来た。
あんたはうちらの中ではトップでしょ!?そんなあんたが、それ位の事も出来ないって言うの!?」

クラスメートの呼び声をただただ聞くガナッシュ。
そこにいる全員のクラスメートが叫び終え、ほんの少しの間の沈黙が流れ、やがてそれがとある笑いによって破れた。

「フッ……バカみてぇだ……。こんな……無様に…エニグマに……取りこまれ…。
こんな俺じゃない……こんなのは俺じゃない!!こんな奴といっしょになってたまるかーーーーっ!!」

先ほどまで何も映してなかったような目は、ガナッシュと言う少年の強い意志を抱え、それをすべて見せつけるように目の前の化け物を睨んでいた。

「OK、ガナッシュ。心を奪われないようね。」
「ガナッシュ、信じるヌ〜!絶対に助けるヌ〜!」
「ガナッシュ……最後まで諦めないでね。必ず助けるわ!」

ガナッシュの意思がはっきりした以上、躊躇うことなど何もない。だが、倒すべき相手は助けるべき相手の近くにいる。
下手をすればガナッシュにも被害を及ぼしてしまうだろう。

「うわっ……。敵はガナッシュの背後かよ!一番苦手なパターンだ…。」
「口を動かす暇があるなら、さっさと魔法を使う準備でもしてて!!」
「ガナッシュ!!行くよ!!」


魔法学校の生徒が友達を救おうと戦闘態勢になると、化け物の周りに愛、毒、雷、刃属性を持つ4つの手が現れた。

「ミエル、キャンディ!!お前後ろの奴を始末してくれ!!」
「分かってるわよ!!ミエル行くよ!!」

キャンディがエアを2体予呼び、それに連れてミエルが風の魔法を唱えた。
そのおかげで毒は始末できたものの、愛はまだ完全に始末することが出来なかった。
すると、化け物はガナッシュを操ってニルヴァを呼び出した。
ガナッシュに精霊を呼び出し、自分の魔法の威力を強くしようとしてるのだろう。

「させないよ!!」

キャンディは自慢の速さでボムを取り出し、それをもう一つの手に向かって投げ飛ばした。
すると、そのボムはニルヴァの加護を受けたヘルダイスとなり、愛の手を潰していった。

「魔法が使えないからって、甘く見ないでよねぇ。」
「……ふん、所詮は虫けらの悪あがきに過ぎぬ!!」
「そんな悪あがきに倒されてる自分に気が付かないのも、バカだと思うけどね。」

相手をさらにバカにする言葉を放ったシードルは、オリーブの魔法で力を得ると、刃属性の手に向かってブラックローズを放った。
人を誘惑するような美しさを持つ黒いバラが刃の手に広がり、その手の威力を下げ、動きを封じる。
その隙にカベルネがガナッシュには当たらないようにカイエンヌを放ち、毒が体中に広がった刃の手は完全に力が底をついてしまった。

「くくっ、甘い。これでも食らうがいい!!」

追い詰められているにも関わらず余裕に笑うと、化け物は目から赤い光線を放った。
それは見る見る内に大きくなり、やがては目の前の6人を吹き飛ばしてしまうほどの威力へと変わっていく。
突然来た相手からの攻撃に避ける余裕などあるはずもなく、6人はその場から体を保つことも出来ず飛ばされてしまった。

「まだだ……。まだこれで終わりじゃないぞ!」

すると、再びガナッシュが6人に向かって手を伸ばした。かすかに震えながらもその手は魔法を放つ体勢になっていく。

「!!避けて!!」

オリーブが叫ぶも、ガナッシュの魔法はすでに手前にいる3人の前に姿を現した。
足の下から出てくる数々の黒い亡霊、恨みと悲しみ、それらすべてが込められたように歪んだ存在が、まるでそこにいる人を責めているかのように悲鳴を上げながら襲い掛かっていた。
あまりにも唐突で、けれど余程の威圧感を与える威力の魔法に、3人はその場で体勢を崩してしまった。

「フハハハハハ!!所詮はこの程度か。最後に勝つのは闇のみだと言うのを思い知ったようだな!!」

勝ち誇ったように笑う化け物。だが、そんな笑いを止めたのは別の方から聞こえる笑い声だった。

「ハッ!!こんなもんかよ。全然痛くも痒くもねぇな!!」
「ここまで来る間強くなった俺達を甘く見ないで欲しいヌ~!!」

痛み等感じてないように笑っているカシスとカベルネ。
そして、カベルネが毒の魔法を放ち、逃がすまいとカシスが毒を浴びた雷の手を切り裂いていく。
そんな中、闇の魔法を受けたもう1人、ミエルが右肩を抱えてよろめきながら起き上がった。

「ほう?そいつには相当効いたようだな。なら、これで終わらせてやろう!!」

そう言うと、ガナッシュの手をミエルに向けさせ、ニルヴァを呼び出し、そして叫んだ。

「貴様の言う仲間の手により死ぬがいい!!」

その叫びが響いた途端、ガナッシュの手からミジョテーが放たれた。
ニルヴァの加護を受けて大きくなった闇が1人の少女に向かっている。

「……。」

魔法が自分の目の前に来た時小さく何かを囁くと、強い竜巻が闇を襲い、あと形もなく消して行った。

「何!?」

予想も出来なかった事にただ目を見開くばかり。そんな化け物に先程の少女が語った。

「…こんなの、そいつが与えた痛みに比べれば別に何ともない。
あんたは知らない。人の意思が入った魔法の本当の強さがどれ程大きいのか。」
「…何訳の分からぬ事を言う!!」

そう言い再び魔法を放ったが、それもただ消されるのみだった。

「分からない…でしょうね。人の意思すら軽く思っているあんたには分かる筈もない。
けど、私は知っている。一度そいつの魔法で傷つけられた私は、今のそいつの魔法が前より弱い事を。」

互いに魔法を放ち合いながら口論をするミエル。

「本当は、今もまだそいつを好きにはなれない。
もしこれがそいつの意思が入った魔法だったら、私は確実にそいつを殺していた。
けど、これは違う。自分の意思どころかそれに反する魔法など、所詮は虫に噛まれた程度。」

最後の言葉を語ると、ミエルは強く、そして鋭く、その化け物を睨みつけた。

「けど、私はあんたを許さない。人の思いを貶し、それを弄ぼうとするあんたを、私は一生許さない!!
あんたに私の、私達の仲間は渡さない!!」

ミエルの言葉を聞いたキャンディが手助けするかの様にエアを呼び、オリーブがミエルの威力を上げる。
そして、それに応じるかのようにミエルは巨大な風を引き起こし、化物に放った。
仲間達の意思が込められた強力な魔法に身を保つ事さえ難しく、やがて化け物は様々な色の光を放ちながら、ガナッシュから離れて行った。

 
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