マジバケ小説 | ナノ


「待ちなさい! 何をするつもり!?」

今にでも触れそうな程に近づいていくガナッシュを止めたのは、担任のマドレーヌだった。

「探したわよ、ガナッシュ。こんなとこで何してるの? 帰りましょう。」
「帰る?帰るって、何処へ?姉と同じようになりたいんだ。このままでは帰らない。」
「エニグマと融合するつもりなの?今のあなたがエニグマと融合したら、簡単に体を乗っ取られるわ!」
「いいさ。そうなって、何の悲しみも感じなくなるんだったら、その方がいい。」

完全に諦めかけている様な声。けど、マドレーヌは最後までガナッシュを止めようとしていた。

「ダメよ。キャンディはもとに戻ったわ。あなたの姉さんだってもとに戻れる筈よ。
あなたがエニグマ憑きになってしまったら、姉さんが悲しむんじゃないの。」
「フッ…バカにしてるよなぁ……。先生だってエニグマ憑きなんだろ?俺が先生みたいになるのは反対だって言うのかい?」
「オリーブに聞いたのね?しょうがないなぁ。全てお見通しなのね。」

マドレーヌは驚く様子を見せる事無く、ガナッシュの言葉を肯定した。そんなマドレーヌをガナッシュはただ嘲笑うだけだった。

「グラン・ドラジェは先生のようにエニグマをコントロールできる魔法使いを作りたくて、俺達を闇のプレーンに行かせてるんだろ?
戦争に利用するために!!だけど、結果はどうだ!?エニグマに乗っ取られて 自分を失っちまう奴ばかりさ。
だけど、俺は違う。俺はこいつをコントロールしてみせる。他のエニグマ憑きの連中は俺が支配してやる。」
「やれやれ。オリーブにも、グラン・ドラジェの心までは 読めなかったのね。」
「???」
「聞いて、ガナッシュ。どちらにせよ、いずれあなた達はエニグマを知ることになるわ。
魔法を極めようとすると、必ず通る道なの。
学校が創設されたころは、できるだけ生徒をエニグマに近づけないようにしてたけど、それでも何人もの卒業生がエニグマの力を手に入れて、世界を戦火に巻き込んだわ。」

恐ろしい事、知って辛くなる事はなるべく幼い子供には知られない方が良い。今までそう思ってきたが、その結果は実に惨めなものだった。
実際、ガナッシュの姉のヴァニラもそうだった。多くの卒業生がエニグマに乗っ取られ、数え切れないほどの人々の命を奪った。
良かれと思って来た事が、むしろ悪い結果を生み出してしまったのだ。

「だから、グラン・ドラジェは考えを変えたの。
生徒達が、世の中の仕組みに巻きこまれる前……、純粋な心を持っている内に エニグマに出合わせようと。」
「純粋? 大人より子供が純粋だなんて言うのは大人達の幻想さ。」

大人はよく子供が純粋だと言う。だが、姉の為に自ら悪に染まろうとする自分を、どう考えても純粋だとは思えなかった。
どんな言葉も聞くだけ無駄だと思った時、ふと奥から新たな声が聞こえた。

『ガナッシュ!!』

そこに居たのは、キャンディを初めとするクラスメートの5人だった。自分の方へ駆けつけるキャンディ達を見てガナッシュは少なからず驚いた。
キャンディの融合が解けた事、ガナッシュを止めるためにこんな闇の奥まで来た事、予想出来なかった事は他にもたくさんあった。
だが、ガナッシュにはそんな事どうでも良かった。例え誰が止めようとも、エニグマと融合しようとする意思を変えようとは思っていなかった。

「無邪気なだけが純粋さじゃないわよ。純粋の中には、怒りも憎しみもあるわ。純粋さが人を傷つける事も逆に自分が傷つくこともある。
感情にはいろんな色があるんだから、それはいいの。
でも、大人になって、社会の仕組みに自分を合わせるために魔法を使い始めると…始末に負えなくなる。
社会の仕組に傷つけられてる人の姿が見えなくなる。その時はもう自分じゃない。」
「自分じゃない?」
「あなたの姉、ヴァニラはまだ救われてる。好き勝手に暴れはしたけど、純粋な自分の意思で暴れただけよ。まだ、どうにでもなる。」
「フッ……。先生は強いからそう言えるんだ。
先生が、ただのちっぽけな魔法使いに過ぎなかったら、先生だって姉に刃を向けたさ!
俺だって先生みたいになりたい…!!強くなりたい…!!」
「残念ながら、それは無理よ。」
「はははは!!ハッキリ言うなぁ!!先生がこんなにハッキリと人を見下せる奴だとは 思わなかったよ!!
なれなければ、もういいさ!!こんな俺のままだったら死んでしまったほうがいい!」

完全に自暴自棄になってしまったガナッシュ。
だが、誰もそんなガナッシュを咎めようとはしなかった。クラスメートも、先生も、そしてもう1人の少女も。

「誰かのようになろうなんて考えないで、ガナッシュ。あなたはあなたになるの。あなたの考えを持った、あなた自身になるの。
もしエニグマと融合してあなた自身に近付けるのならそうしなさい。」

マドレーヌは一瞬誰かを見つめると、微笑みながら言葉を続けた。

「後は…ミエル達に任せるわ。」


 
(3/6)
戻る
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -