マジバケ小説 | ナノ


「お父さんが亡くなったのを知って、気持ちを整理しようと禅部屋にいた時、ナイトホークが来たの。
何か話がしたいって。でも、その時の私は誰かと話をする気じゃなかったから、後にしてって言ったの。
最初は何かあったのかって聞かれたんだけど、余計な心配を掛けさせたくなかったから、何でも無いって、今はただ1人になりたいって。
ただそう言うしかなかった。でも、そしたらあいつが怒鳴りだしたの。
人が何か話そうとしてる時にその態度は何なのかって。
…正直ビックリしたよ。あんな言い方されるなんて思ってもなかったから。私もカッとなったの。
そして少しだけ言い争いになって、あいつがこんな事を言ったの。
『そう言う自分の気持ちしか考えないのは昔からそうだな。』って。
それで思い出したの。あいつがかつて私を酷い目に合わせた奴だったって。」
「…その、ガナッシュが話そうとしてた事って……」
「さあ。その時はそんな事聞く余裕も無かった。その後、私があいつの事を思い出した事を知ったあいつはこう言った。
そのペンダントをあげたのは自分だって。同じ村にいたから誕生日がいつなのか位知っていたって。
そんな事も知らない程バカだから、お父さんも私に呆れて捨てたんだろうって。
あいつとはいつも話をしてたから、あいつが言ってたお父さんが、私を育ててくれたお父さんだって事位すぐ解った。」

まだガナッシュとミエルの仲が良かった頃、2人はまるで最初からお互いを知っていたかの様に話をしていた。
自分達の思い出や家族等の事も話してる内に、2人はクラスの中でも一番近い関係になっていたのだ。
少なくとも、あの出来事が起きる前までは。

「けど、その後すぐ、こう付け加えたの。私のそう言う所はお父さん譲りなんじゃないかって。
お父さんも私みたいに嘘つきで見栄っ張りで、1人じゃ何も出来ないバカなんだろうって。
だから、そんな自分が恥ずかしくて逃げたんだろうって。
そんなお父さんなら、今頃どっかで野垂れ死んだんだろうって。」
「……ガナッシュが…そんな事を…」
「それを聞いたら、自分を抑えられなくて、あいつに飛び掛かった。
あんなことを言われて、ただ怒るだけじゃ気が済まなかった。
でも、何度も何度も殴り合ってる内に私の方が負けて、最後にはあいつに身動き取れない様に抑えられた。
だから、私も私なりに抵抗したの。今の私は1人じゃない。私の周りにも友達がいる。
私の事を思ってくれる大事な仲間がいるって。
でも、あいつは私が皆と仲良くなれるのは、その時の、まだ幼かった時の私を皆が知らないからだって、そう言ったの。
考えてみればそうだった。皆は、私が精霊が見えるのを知らない。
もしそれを言ったら皆も私の事嘘吐きだと思うんじゃないかなって、そうとも思えた。
でも、それだけはイヤだった。
やっと出来た友達なのに、ようやく私にもずっと一緒にいたいと思う程大事な人が出来たのに、それを失うのだけはしたくなった。
だから、あいつの最後の言葉を聞いた途端、何も言い返せなかった。
『だったら言ってやろうか?本当のお前は嘘吐きで自分の家族1人守れない最悪な奴だって皆にバラしてやろうか?』」

それきり、誰からの言葉はもちろん、ほんの小さな声も聞こえなくなった。
話を聞いていたクラスメートは、皆複雑な顔をしている。
話を全部終えたミエルも、まるで諦めたかの様な表情で窓に寄り添った。
そうやって誰も何一つ言わず、沈黙だけが続いていた時だった。

突然、ミエルの隣にいたキャンディがミエルを強く抱きしめた。

「ごめんね…ミエル。今まで気付いてあげられなくて。辛かったはずなのに……1人でずっと苦しかったはのに…。」
「…キャンディ?」

信じられない顔でミエルはただキャンディに抱かれていた。よく聞けば、小さく泣いてるのがすぐ解った。

「…信じて……くれるの?」
「当たり前じゃない!!私達…親友なのよ!ミエルが嘘を吐く訳ないじゃない!なのに、私は…そんな事も知らずに……」

キャンディの声が大きくなると同時に、腕に入った力がどんどん強くなった。

「あのね、ミエル。私…ミエルの事ずっと妬んでたの。」
「……え?」
「ガナッシュ、本当はミエルの事が好きだったの。
嫌われてると知っていても、ガナッシュはずっとミエルの事を思ってたって、前から気付いたの。すごく悔しかった。
でも、ガナッシュには笑っていてほしいと思ってミエルに無理矢理仲直りさせようとしてた。
だけど、同時にミエルに対して強く嫉妬してたの。私が出来ない事が出来るミエルの事を恨んだりもしたの。
ミエルは…私の事励ましてくれたのに……いつも私の事応援してくれてたのに…本当に、ごめんね…。」

どんな時でもミエルはいつもキャンディの傍にいてくれた。落ち込んでいれば励まし、嬉しい事があれば一緒に喜んでくれる。
けど、そんなミエルが一番苦しかった時、キャンディは何もしてあげられなかった。
むしろ、自分も知らずに彼女の傷口に塩を塗りこんでしまっていた。
それに気づいたキャンディは、ミエルを抱きながら何度も謝っていた。

「…なぁ、ミエル。」

ミエルを抱きしめたキャンディをよそに、カシスが声を掛けた。

「…ごめんな。何も知らずに怒鳴ったりして。俺、大人気なかったよ。
いつもお兄ちゃんだって言いながら、ミエルの気持ち、ちっとも考えてやれななかった…。」

家族が相手に殺され、それをその弟が侮辱した。そして、その弟はかつて自分を虐めていた人。
そんな奴に家族を侮辱され、挙句に脅されたら嫌いになるだろう。
事実、事故だったとは言え、ミエルは大切な人をがナッシュに奪われた。
それ以来、ミエルにとってガナッシュは恐怖と憎しみその物だったのだろう。
そんな相手を許せと言われたら、誰だって怒りが増す筈だ。

「んーん。元はと言えば私が悪いの。皆の事友達だと言っておきながら、私は、皆にちゃんと話せなかった…。
皆、あいつと一緒にいた時間が私より長いから、こんな事言っても、信じてくれないと思ってたの。結局、皆の事信じきれなかったのと同じだもの。」
「バーカ。シードルだって俺達と長い付き合いだって言うのに、いつも喧嘩するし、自分の事を話したのはつい最近の事だぜ。」
「そんなんでフォローになると思ってるの?」
「うるせぇな!!」

相変わらず口喧嘩するカシスとシードルにミエルは思わず笑ってしまった。

「ミエル。さっきも言ったけど、皆ミエルの事友達だって思ってるし、悩みがあれば相談してほしいと思ってる。
長く一緒にいたかどうかなんて関係無い。ミエルもガナッシュも、今は僕達にとって、大事なクラスメートだよ。」
「そうですの!私達は友達ですの!1人で悩む必要なんてありませんの!」
「そもそも、恨む相手なら他にもいるぜ。ほら、今もここに。」

キルシュに指さされたトリュフはただ苦笑していた。後で『笑うなよ!』と怒鳴られてしまったのだが。

「…確かに、俺にも責任はある。実の兄の俺がもっとしっかりしてれば、ミエルも人を信用出来たのかもしれない。
けどミエル、お前は捨てられたんじゃない。その逆だ。お前の今の親父が、お前を連れて行ったんだ。」
「え…?」
「お前の今の親父、だから俺達の叔父は、医学が優れている魔法使いだった。
以前、お前は森の中で何かに襲われ、酷い怪我をした事があっただろ?
叔父さんが怪我を治してくれたけど、その時のショックで記憶が無くなったんだ。
だから、叔父さんは俺達と一緒にいたらまたイヤな記憶を思い出すから、ミエルを自分の娘として育てると言ったんだ。
父ちゃんは反対したよ。娘を捨てる様な事など出来ないって。
だから、ミエルが記憶を取り戻し、何もかも受け入れる覚悟が出来た時に、俺達に返すと約束したんだ。」

この言葉を聞いた瞬間、ミエルは目を見開いた。自分は捨てられてなかった。むしろ誰かに連れ去られていた。
これを知ってショックを受ける反面、どこか嬉しさを感じていた。

「ミエル。もう何も恐がる事は無い。こいつ等は、お前が今まで接してきたあんな奴等とは違う。お前が心配するような事なんか無いんだ。」
「お兄ちゃん…。」
「どっちかと言うとトリュフが一番恐いヌ〜。ガナッシュよりも恐い筈だヌ〜。」
「…何か言ったか?」
「知らないヌ〜。俺は何も言ってないヌ〜。」

舌を出しながら語るカベルネ。でも、そのおかげで先程のどんよりした雰囲気もだんだん和んで行った。

「それに、オリーブは心が読めるし、俺はカエル師匠の呪いがかかってるヌ〜。
ミエルの精霊が見えると言うのが嘘なら、オリーブも、俺も嘘吐いてると言えるヌ〜。」
「まあ、要するに、それは人の個性ってもんだよ。他の人には無い自分だけの個性。
そう思えばいいだろう?そのせいで喧嘩する事もあるけど、互いに理解し合おうとすれば、自然とそれを受け入れるもんだよ。」
「喧嘩はダメですの!それに、虐めはもっとダメですの!もしまた誰かがミエルの事を虐める人がいたらコテンパにしてあげますの!」
「いや。言動と行動が一致してねぇぞそれ…。」

呆れ口調で語るカシスに全員が思わず笑ってしまった。
全てを知っても、それを嫌がる事なくただ励まし、いつもの様に自分を接してくれる。
自分を友達だと言ってくれる。そんな彼等を、ミエルは驚いた様に見つめていた。

ふと、ラキューオで聞いたブラックカラントの言葉を思い出した。とある人物からの伝言だった言葉を。

「幸せになれ。」

 
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