マジバケ小説 | ナノ


すると、キャンディがミエルの手を握り締め、優しい目で見つめた。

「バスに戻ろう?少し落ち着いてから話そうか。」
「……うん。」

今にでも泣き出しそうなミエルに語るキャンディの言葉にミエルは頷き、クラスメートもそんな彼女達を止めようとはしなかった。

生徒達全員がバスに戻り、ようやくミエルが落ち着いたところで、話を再び続けた。

「ナイトホークに最初に会ったのは、私が5歳だった頃。
川の近くで精霊と遊んだ時、ハーモニカの音がして、それを辿って行ったら、その時は見た事がなかったニルヴァ達と、その子達に囲まれながらハーモニカを吹いているあいつがいたの。
最初は、彼もその子達が見えるんだと思って声を掛けてみたの。
でも、それが間違いだった。あいつに精霊は見えなかったし、むしろ声を掛けていた事で、あいつの私に対する虐めが起きたの。
髪を引かれるのはまだマシで、石を投げられたり、川に落とされたり、そりゃあもう散々だった。
そしてこの傷は、あいつが私に魔法を放って出来た物。本物の精霊がどうだのと言いながらニルヴァを呼び出し、そのままミジョテーを放ったの。
精霊の加護を受けた時の魔法がどれほど強いかは、言わなくてももう解るよね?」
『……。』

そこにいたほとんどのクラスメートが言葉を失った。確かに、今の生徒達なら精霊の加護を受けた魔法の威力を知っている。
いや、知らなかったとしても、ミエルの傷を見ただけでどれほど強かったのか大体予想はつくだろう。

「でも、それじゃあ学校に来た時からずっとガナッシュの事嫌いになってたんじゃない〜?」
「……その時は、覚えてなかった。ナイトホークの事も、以前住んだ村であった事も。そして、それを思い出したのがあの時だったの。」
「…それで、ガナッシュを憎み始めた、と?」
「ただそれだけだったら、あいつをあそこまで嫌いにはならなかったかもしれない。」
「じゃあ、どうして…?」

ミエルは目を閉じたまま俯き、話を続けた。

「私の今の両親は、本当の親じゃない。私の実の両親は、まだ小さかった私を今の親に渡した。実質捨てられた様な物だった。
私とお兄ちゃんの苗字が違うのも、それが理由。」
「捨てたって…どうしてそんな事…」
「多分、目障りだったからだと思う。精霊が見えるだの話が出来るだのって言って、そのせいで村の人達に嫌な目で見られるから。」
「で、でも…トリュフだって見えてんだろ?双子なんだし。」

キルシュがトリュフに同意を求めようとしたが、トリュフはそれを裏切るかのように顔を横に振った。

「当時の俺は、そんな物があるのも知らなかった。だから、ミエルの事を信じなかったし、他の奴等に虐められていた時も、俺はただ見てるだけだった。」
「ひ、酷いですの!いくらなんでも…」
「俺だってその時の事を後悔してる。あの時、もっと俺が庇ってやったらって。」
「…話、続けてもいい?」

いつの間にかトリュフの話になっていたのをミエルが戻した。

「でも、今のお父さんもお母さんも、私の事を信じてくれた。
精霊が見えるのは、私が特別だからって、いつかその力が、他の人の役に立つ筈だって。
そうやって何度も私を励ましてくれた。私にとって、お父さんとお母さんは憧れの存在だった。
でも、ちょうど一年前、お父さんが事故で亡くなった。」
「事故って…。」
「今じゃ、事故とは言えないかもね。私のお父さんも、カベルネ君のお兄さんと同じく、ヴァニラさんに殺された。」
『!!!』

一年前に起きたとある魔物の暴走。その魔物によって数多くの兵士や魔法使いが殺された。その中に、ミエルの父親も含まれていたのだ。

「…それを知ったのは、学校に入って少し経ってからだった。
校長先生が何故か私を校長室に呼んで、放課後行ってみると、先生は小さな木の箱を渡したの。
中に入ってたのは、お父さんの遺骨だった。お父さんがそう頼んだみたい。
もし、自分が死んだら、自分の遺骨を娘に渡してほしいと。
それと同時に、お父さんが書いたらしき手紙をもらった。」

鞄から分厚い封筒を出すと、ミエルはその中身を取り出した。そこには、どれも字がぎっしりと詰まっている何枚もの紙だった。

「内容はこうだった。『この手紙を呼んでいるという事は、お父さんはすでにこの世にはいないと言う事だね。
まず、ミエルに謝らなきゃいけない。お父さんは数年間、ミエルに黙っていた事がある。
今こうしてこの手紙を書いているお父さんは、ミエルの本当のお父さんじゃない。
でも、お父さんはミエルの事を、誇り高い娘だと思っている
。お父さんが死んだ事を知って悲しい思いをするかもしれないけど、ミエルの周りにいつも精霊達がいるように、お父さんはいつもミエルを傍で見守っている。
どんな苦難があっても乗り越えなさい。そして、いつかお父さんを超える程の凄い魔法使いになりなさい。』って。
そう書いた手紙を残して、お父さんは二度と私達の所には戻ってこなかった。」
「そう…だったの。」

ブルーベリーは一瞬、レーミッツ宮殿でミエルが自分に怒っていた事を思い出した。
あんな事を言ったのは、彼女自身がその経験をしたからだ。
きっとお父さんが帰ってくると信じていたのに、戻って来たのは手紙と遺骨。
大切な人を失った経験が、彼女にはあったのだ。

「私はその時の事を皆に聞いてみたの。一年前に何があったのか、どうしてお父さんが死んだのか。
精霊は嘘を吐かないから、きっと全部話してくれると思ってた。
けど、知れたのは、私を捨てた実の両親が生きていた事だけだった。
その実の父親が、当時の魔物退治に参加していた事も。」
「ミエル……。」
「悔しかった。短い間でも私の事を大事にしていたお父さんは死んだのに、そんな私を捨てた親はどうどうと生きている。
それに気づいた途端、何もかも信用出来なくなったの。」
「…確か、校長先生に呼ばれたのって、ガナッシュと喧嘩した日と一緒だったよね〜?」
「それが理由なのか?ガナッシュの姉に親が殺されたから?」
「その時はお父さんを殺した人がヴァニラさんだって事を知らなかったから、彼女を恨んではいなかった。ただ、問題はその日に起きたの。」

話が本題に入ろうとした所で、ミエルは深呼吸をした。

 
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