マジバケ小説 | ナノ


「皆。ちょっと出てきてくれる?ほんの少しの間だけで良いから。」

空を見つめながら、ミエルがこう語ったときだった。すると、今まで見た事のない不思議な光景がクラスメートの目に映った。
今まで何度もコール魔法で呼んだ精霊達が、次々と姿を現したのだ。そして、その精霊達はまるで呼ばれたかのようにミエルのいる所へ集まった。

「…何だ、それは?」
「精霊が…全部出てきてる?これもコール魔法なのか?」
「私は今、皆を魔法で呼んではいない。そもそも、私は別に呼ぶ必要なんて無かった。」
「どういう意味?」

ミエルは再びクラスメートがいる所へ振り向き、話を続けた。

「私は、生まれた時から精霊が見え、話も出来る。」
『!!!』
「今まで、不思議だと思わなかった?プレーンに来てから、学校にいた時よりもずっと多くの精霊が出て来た事。」
「…言われてみれば。」
「あれは全部、私がそうするように頼んだの。皆が学校に戻れるまで、力を貸してほしいって。」

話を終えたのか、途中で詰まったのか、ミエルはそれ以上何も言わなかった。そうやって沈黙が続く中、キルシュがそれを破った。

「…すげぇ!!すげぇじゃねぇか!!何で今まで教えてくれなかったんだよ?言ってくれれば、もっと精霊と仲良くなれるように頼んでたのに。」
「……。」
「お前みたいな奴がもっとミエルの周りにいたら、ミエルも話してたかもしれない。」
「はぁ?どう言う……」

バカにしてるのかと思って思わずカッとなりそうなキルシュだったが、彼に話をしたトリュフの複雑そうな顔を見た途端、何も言えなかった。

「誰も…誰もそんな風に思ってなかったの。何度も精霊と話をしていた私を、皆は『嘘吐き』だと思ってた。
私にとっては当たり前だった事が、他の人達には異常だったの。だから、私はたくさんの人達に罵られていた。
嘘吐き呼ばわりされるのは日常で、時には物を投げられたり、泥に落とされたりもした。」

話をしてる間も、ミエルの体は小刻みに震えていた。今まで話せなかった事を、話す事を恐れていた事を、今は友達の前で自分から話している。
過去に起きたイヤな思いを話すために相当な勇気が必要だっただろう。
ミエルの話を聞いていたクラスメート達も、そんなミエルに何も言い返せなかった。
今まで明るく、時には子供っぽい少女が、あんな過去を持っていたなんて思いもしてなかった。
ふと、カシスは海岸でいた時のガナッシュとの会話を思い出した。

「ミエルなら大丈夫だろう。お前が思ってるほどあいつは弱くない。それに……」
「ん?何だ?」
「……いや。何でもない。」


ガナッシュは、ミエルに関する何かを言おうとしてやめた。
あの時はそんなに気にしていなかったが、今思えば、きっとミエルが話してほしくないのを知っているからそうしたのだろう。
そして、今まで聞いたミエルの話。どう考えてもこうだとしか考えられなかった。

「…あいつもそうだったのか?」
「……。」
「お前を嘘吐きだと言った連中の中に、ガナッシュも含まれてたのか?」

カシスの言葉にしばらく何も言わなかったが、やがてミエルは自分が着ていたオレンジ色の上着を少しだけ捲った。
今まで袖で隠された肩が表れ、そこにある何かを見た途端、全員が言葉を失った。
そこにあったのは、かなり古くなってる、けど見るだけでも痛々しい程大きな痣だった。

「まだ私が小さかった頃、あいつに付けられたの。他の傷はしばらくすればケロッと治るのに、これだけは消えなかった。」
「…もしかして、温泉に入ろうとしなかったのって…」
「そう。これを見られたくなかったから。見られたら、あいつとの事も知られるんじゃないかって…それが、怖かったから……だから…」

話をすればする程ミエルの声は震え、やがては声を出す事さえ出来なくなった。

 
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