マジバケ小説 | ナノ


バスの付近にある大岩に寄り添い、灰色の空を眺めているミエル。その顔は実に無表情で、何を考えているか全く読み取れなかった。
そんな彼女の所へ、とある少年がやって来た。長い銀髪の少年、カシスだった。

「…何か用?」
「用があるからここにいるんだろ?」
「いいの?こうしてる間も、あいつは遠ざかっていくよ。」
「そう言うお前は行かないのか?」
「キャンディは戻ってきた。もう私には何の用も無い。」

ミエルの目的はあくまでキャンディを連れ戻す事。そのキャンディが現在ここに居る今、ミエルにはもうこの場所を離れる理由が無くなった。

「お前がどうしても行きたくないって言うなら、俺は別に強制したりしない。けど、本当に行くつもりないのか?」
「何度も言ってるでしょ?私はあいつを探しに行くつもりなんてこれっぽちも無い。あいつの顔も見たくもないし、会って話をするなんて真っ平ごめんよ。
それに、見たでしょ?エキウロクリュの時の私。一度本気で怒った途端、自分でも抑えられない位我を失ってしまう。
そんな私があいつの所に行ったらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかでしょ?」

事実、エキウロクリュがキャンディを侮辱した言葉に腹を立てたミエルは、まるで狂ったかのように凶暴になっていた。
そのうえ、ミエルは未だにガナッシュを憎んでいる。もし再びミエルの気に障ることがあれば、怪我の程度では済まないかもしれない。
最後まで行かないと意地を張るミエルを見てカシスは溜息を吐いた。

「キルシュから聞いたよ。お前、光のプレーンで大事な人を亡くしたってな。」
「……。」
「そして、その人の死の原因となったのがガナッシュだったと。けど、それは事故だったんだろう?
あいつだってそんなつもりはなかったし、その事でかなりショックを受けてたらしいぜ。
いくらあいつの事嫌いだからって、何も問わずただあいつが悪いと断ずるのは良くないだろう?」

説得するつもりでカシスは語っていたが、それを聞いていたミエルは唇を噛んだ。

「それにお前だって、本当はあんな風になるつもりなんてなかったんだろう?なのに、キャンディを貶す様な言い方されて切れてしまった。
あの時のガナッシュは、お前がエキウロクリュに対した時と同じだった筈だ。」
「……そんなの、解ってる。」

一瞬、カシスは耳を疑った。ガナッシュの事なら何でも悪い方向に見るミエルが、ガナッシュを庇うカシスの言葉に同意したのだ。

「癪だけど、あいつと何日かは仲良くしてたからね。あいつが何のつもりだったか位、ほんの少し考えれば解る事だった。
でも、それとこれとは別でしょ?今の私達は赤の他人同士。お互い関わろうとしても迷惑なだけよ。
こうやって距離を置けば、憎しみとかそう言う無駄な感情を作り出す事も無いし、そのせいでいがみ合ったり、傷つける事も無い。
今の状態を変える必要なんて、ある筈が無い。」
「……ガナッシュは、そう思ってないんじゃないか?」
「どういう意味?」
「ヴァレンシア海岸の事、覚えてるだろう?俺とお前がガナッシュに呼ばれた時の事。」
「ああ。そんな事あったね。今考えれば実に面倒だったわね。学校で何度も習ったのをあんな細かいとこまで聞かなきゃいけなかったんだから。」
「俺が言いたいのはその後の話しだ。お前が場を去ろうとした時、ガナッシュ、お前に言ってただろう?
生きる事を考えろって。」

カシスの言葉、正確には当時ガナッシュが言った言葉を聴いた途端、ミエルの表情が険しくなった。

「あいつもお前と同じ気持ちだったら、お前にそんな事言ってなかっただろう?危険な事が起きるかも知れないって教える事だって。
あいつ、本当はお前と仲直りしたいと思ってる筈だぜ。前みたいに話したり、笑ったり、時には喧嘩もして仲直りしたり、そうゆう仲に戻りたいと思ってる筈だって、俺は思うぜ。」
「……勝手な事言わないで。」

歯をぎしぎし鳴らしながら低い声で囁くと、さっきより険しい表情でカシスを睨み付けた。

「あなたは、あいつが私にした事を知らないからそんな事が言えるんでしょ!?
あいつに何をされても我慢しなきゃいけなくて、大切な人を奪われても、それをただ見るしかなかった私の気持ち、考えた事あるの!?
人に散々酷い事しておいて、もうしないから全部忘れてって、そんな風に言われて許せって言うの!?」
「別に、忘れろとは言ってないだろう。」
「元に戻りたいのってそう言うことでしょ!?今までの事全部忘れて、最初から何も無かった事にしたいと言ってるのと同じじゃない!!」
「じゃあ、その酷い事って何なんだよ?お前があいつを許せない理由で、忘れる事も出来ないその酷い事っていったい何なんだよ!?」

核心をつかれたカシスの言葉に、ミエルは何も言わなかった。その表情はまるで言うのを恐れているようだった。

「もうその辺でいいだろう。」

いつの間にいたのかトリュフがカシスとミエルの間に割り込んだ。

「本人が言いたくないって言ってんだ。無理に聞いても困るだけだろう。」
「……お前、何か知ってるんだろう?だからいつも庇ってるんだろう?」
「否定はしない。けどな、お前もそうやって問い詰めるのもいい加減にしたらどうなんだ?
そもそも、ガナッシュとこいつの仲が悪いからって、お前が害になることなんてないだろう。」
「けど、いつまでもこうじゃ、戻ってもまた同じ事が繰り返すだけだろう!
そいつも最近何考えてんのか分かんねぇし、お前も何か隠そうとしてる様にしか見えねぇよ!
2人揃ってガナッシュの事嫌う理由って何なんだよ!?」

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