マジバケ小説 | ナノ


「……キャンディ??」

エキウロクリュが倒れるのを見たミエルはようやく我に返り、他の皆もエキウロクリュに近づいて来た。
身動きすらしないその化け物の体には、切裂かれた傷が所々に付いている。

「キャンディ!!」
「キャンディ!!大丈夫!?」

キルシュとオリーブが苦しそうに唸るエキウロクリュの近くまでやって来た。
だが、目に映ったのは、大きな化け物の不気味な、あざ笑うような笑みだった。

「くっくっくっく……俺は死なん……この宿主がいる限り俺は死なん……すぐに再生できるぞ……いくらでも力が湧き出てくる……。」
「キャンディじゃない!?キャンディじゃないのか!?エニグマになっちまったのかーーーっ!!!」
「その通り……誰がキャンディなものか…あんな、醜くて…か弱い…人間じゃない…けっけっけっけ……。」

あれほどの魔法を受けながらも余裕そうに笑うエキウロクリュ。
そこからは、もうキャンディの姿は何処にも居なかった。

「エニグマですの…。キャンディじゃありませんの…。」
「駄目だ!!キャンディは死んだんだ!ここにいるのは唯のエニグマだ!!」
「皆で帰る筈だったヌ〜。こんな筈じゃなかったヌ〜。」
「来るぜ、キルシュ!!こいつはもうキャンディじゃない!! さよならを言いな!!」
「……。キャンディ……、もうキャンディじゃないの……? キャンディはどうなったの?」
「…嘘でしょ?キャンディが…キャンディが居なくなるなんて……!」

もはや希望すら無い状況の中、そんな彼等を落ち着かせるような声が聞こえてきた。

「皆、違うよ……よく見て。キャンディだよ。何も変わってないよ。」
「オリーブ……」
「私がずっと見てたキャンディと何も変わってないよ。
親に押し付けられて学校に通わされて、成績が下がると、友達に会うこともパパとママに禁止されて、一番になれないんだったら学校なんかやめちゃいなさいっていつも言われてたんだ。
……そんなかわいそうなキャンディをずっと知ってたもの!! 胸の中にためてきた思いをずっと見てきたもの!!
何も変わってないよ!!」

一瞬、エキウロクリュの動きが止まった。それはエキウロクリュ自信の意思なのか、それとも、その中にいるキャンディなのだろうか。
そして…

「うごっ……」

突然、苦しそうにえずいた。

「?????」
「どうしたの!? 何がおきるの!?」
「キャンディ…?」

エキウロクリュの体の震えは徐々に大きくなり、あんなに余裕たっぷりだった笑みは無くなり、苦しみに満ちた顔へと変わって行った。

「帰ろう……。キャンディ……。みんな待ってるよ。」

一瞬、不思議な出来事が起きた。
エキウロクリュの身から小さな光の粒が少しずつ飛び散り、最後の一粒が出た瞬間、エキウロクリュは遠くへ飛ばされ、その場には、ミエル達がずっと探していたキャンディがいた。

「融合が……解けた……!?」
「そんな……まさか……」

今にも信じられない様な顔をしながら、エキウロクリュの体は消滅した。

「キャンディ!! 大丈夫か!!」
「キャンディ!!大丈夫!?」

地面に倒れたキャンディに声を掛けると、意識を取り戻したキャンディがゆっくり立ち上がった。

「皆……。」
「キャンディ……戻ったのか………? もとのキャンディに戻ったのか……?」
「キャンディ…本当にキャンディなの?」

自分の心配をしてくれるクラスメートをゆっくり見回しながら、キャンディは小さく微笑んだ。

「……皆………ごめんね…私、我が侭で……。」
「何言ってんだよ!! そんなことはいいよ!! すごい怪我じゃないか!! 魔バスへ戻ろうぜ!!」

いつもの様に暑苦しく、でも本当に心配してるような声で語るキルシュの言葉にキャンディはうなずき、オリーブへと顔を向けた。

「オリーブ…ありがとう……私、皆が、悔しがったり羨ましがったりすることを勝つ事だって思ってた。……だけど、分かったの……。今の私にとって、勝つってのはみんなが笑うって事……。
やっと気が付いた……。へへへ……。今まで、ごめんね、オリーブ。」
「良いんだよ、キャンディ。全部解るから、もう喋らなくていいんだよ。帰ろう、バスに。」

キャンディを含め、9人の生徒は魔バスへ戻った。

「あれ? キャンディ……?」
「先生ちゃん!! 大丈夫ですの!?」

いつの間にか起きていたマドレーヌに駆けつくペシュ。どういう状況なのか解らず首を傾げているキャンディにオリーブが語った。

「先生は疲れて倒れてたの。闇のプレーンに来て以来ずっと走り回ってたから。」

マドレーヌはキャンディを見つめると、いつもの様に明るく、そして優しく微笑んだ。

「キャンディ、すっきりしたわね。エキウロクリュはもう出て行ったのね。」
「知ってたんですか?」
「解りますとも。魔法使いですもの。」

自慢するかのように胸を張るマドレーヌだったが、心の底ではとてもホッとしてる様だった。

「キャンディちゃん、大丈夫ですの……?」
「大丈夫……体はとても軽いわ……でも、何か違う……。」

自分の手を見つめているキャンディに、マドレーヌは優しく語りかけた。

「キャンディ、あなたはもう魔法が使えないわ。魔法の力を解き放ったから、エニグマとの融合が解けたのよ。」
「魔法が使えないっぴか!?それじゃ、キャンディは落第だっぴか!?」

不安そうに叫ぶピスタチオにマドレーヌは首を横に振った。

「一生使えないかどうかは解らないわ。今までにエニグマとの融合が解けた人なんていないもの。
魔力を解き放てば、融合が解けることは、分かってたけど、誰もそんなこと出来なかったの。」

エニグマと融合すれば、想像以上の力を手に入れる。一度得た物を放棄する事など簡単には出来ない。
今までエニグマと融合した人達も、その前までは得る事が出来なかった力を再び捨てられなくて、融合を解かなかったのだろう。

「大丈夫だよ!!魔法なんか使えなくてもやる気さえあればいいんだって!」
「そりゃ、お前の事だろ?」
「同感だ。」
「ははは。魔法が使えないのか。」
「大丈夫ヌ〜。退学になってもずっと友達だヌ〜。皆で遊びにも行くヌ〜。」
「そうよ。今度一緒にどっか行こうよ。こうゆう命懸けの旅じゃなくて、旅行として。ね?」

皆の励ましの言葉を聞いたキャンディは小さく微笑んだ。

「いいんだ、これで。魔法なんか要らない今、気持ちがすごくクリアなの。いろんなものが見えるよ。パパとママの顔も見える。何をしてるかも、全部解るわ。」
「本当だっぴか!? 凄いっぴ!!」
「目を閉じると…私の魔法で全てが動いてるみたい……。」
「す…凄いな! そりゃ、大魔法使いだ!はは、ははは。」
「アニキ…そっとしといてやれよ……。」
「ごめんね…私、ちょっと泣くけど気にしないでね……悲しいんじゃないの…すぐ終わるから。」

そう言うとキャンディは、座席に寄り添ったまま小さく泣き出した。

「大丈夫よ、キャンディ。魔法は実技だけじゃないわ。退学にもならないし、キャンディだったら、必ず卒業できるよ。」
「ありがとう…皆、ありがとう……。」

大きな、恐ろしい化け物から開放された少女の小さな泣き声がバスに満ちていた。

「もう、ガナッシュを探しに行かなきゃ。ね?」
「……。」

マドレーヌの言葉を聞いた途端、ミエルは眉を顰めた。やはり、ガナッシュを探しに行く事には気が向かない様だ。
ミエルは何も言わずバスから出て行き、大岩のある方へ歩いて行った。

「…俺、ちょっとあいつと話して来る。」
「カシス?」
「いつまでもああじゃあ、あいつもガナッシュも何も変わんねぇ。あっちが話さないならこっちが聞き出してやる。」

誰にも声を掛ける隙も与えず、カシスはミエルのいる所へ走って行った。そんな彼を心配そうに見ていたのは、先程までミエルの隣に座っていたキャンディだった。

to be continued……

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