まだ自分が星になってる事を知らず洞窟を彷徨っている者があれば、星になった自分を受け入れる者もいて、それ等は皆次々と天へ登って行く。
ミエルとシードルが見付けた星も、その星達の1つだった。
その星は皆、最後には満足そうに微笑み、何の未練も残す事無く天に登っていくのだった。
「大分居なくなって来たね。」
「そうだね。他の皆がどうしてるかまでは解らないけど。」
「大丈夫よ。皆優しいから、きっと星達も安心して天に登ってるよ。じゃあ、今度はあっち行ってみようか?」
天に登って行った星を見送り、ミエルが再び星を探しに行こうとした時だった。
「落ち着いたみたいだね。」
「え?」
ふいにシードルが声を掛け、ミエルは不思議そうな顔をしながら振り向いた。
「このプレーンに来るまでは、かなり荒れてたからね。」
「あ……。」
「別に、責めてる訳じゃないよ。ただ、最近のミエルはよく怒鳴ったり、泣いたりするから。相当不機嫌だったのかなってね。」
「……。」
考えてみればそうだ。キャンプの途中エニグマに連れ去られ、それ以来よく感情的になっていた。
自覚はしていたが、ここに来てから自分自身を抑えるのが難しくなっていた。
「そう言えば、もう半年が経ったね。ミエルが僕達のクラスに来てから。最初僕達のクラスに来た時はミエル、すごく戸惑ってたよね。まるで何をすれば良いのか解らないって感じで。それがいつの間にか僕達とよく話も出来るようになって、一緒にいる時間も少しずつ長くなった。」
「……。」
「いつも真面目で、努力家で、でも時には子供みたいにはしゃいだり、拗ねたりして。皆と一緒に笑い合う時は、いつもよりずっと輝いてるように見えてた。僕達と一緒にいて本当に楽しそうだなって。そう思った。」
ミエルは何も言わなかったが、その口は少し笑っていた。そんなミエルを見て、シードルも思わず微笑んだ。
「そんなミエルとずっと一緒にいたいって、いつの間にか思ったよ。ミエルと一緒にいたら、これからもずっと楽しい思い出が出来るんじゃないかって。」
「…私も。シードルと一緒にいて楽しいよ。シードルが描く絵も好きだし、一緒にお話してると時間も短く感じる。だからいつも思う。シードルと友達になれて良かったって。」
「……友達…か。」
「?シードル??」
何かいけない事を言ったのかなと不安そうな顔でミエルはシードルを見つめ、そんな彼女をしばらく見ると、シードルは星空を眺めながら口を開いた。
「…海岸の時の事、今も覚えてる?朝になったら2人で海の散歩でもしないかって。」
「うん。覚えてるよ。すごく楽しみにしてたのになぁ。」
「本当はあの時、あんな出来事がなかったら、本当に2人で散歩出来たら、言おうとしたんだ。
ミエルの事が、好きだって。」
ミエルの顔を見ながら最後の言葉を告げるシードルを、ミエルはただ目を見開いたまま見つめていた。何も聞こえない沈黙の中、キラキラと輝く小さな星の光だけが2人を包んでいた。
「ここで言うのは場違いなのは解ってる。でも、ちゃんと言いたかったんだ。今のミエルは、ちょうどマサラティ村にいた時の僕みたいだったから。何か辛い事があるのに、他の人には言わず、ただ1人で抱え込んでるみたいで。僕は、ミエルのその辛い思いから、少しでも楽にしてあげたいんだ。ずっと一緒にいてほしいけど、同時に、ミエルの事を守ってあげたい。もっと僕に頼ってほしいんだ。」
「……。」
「…って、僕が言うのもちょっと変かな?」
ミエルは必死で首を横に振った。その目には微かに涙が浮かんでいた。
「でも、それは他の皆だってそうだよ。皆、ミエルの事友達だと思ってるし、悩みが在ったら力になりたいと思ってる。カシスも、あんな風に言ったけど、本当はミエルの事心配してるし、困った時に助けたいと思うから、正直に言ってほしいんだよ。
別に、今すぐ言わなくてもいいよ。僕だって、自分の気持ちを正直に話すのには時間が掛かったし、ミエルが言いたい時に話せば良いから。」
シードルの話をただ聞いていたミエルは思わず俯いた。今にでも流れ出そうな涙をシードルに見せたくなかったのだろう。地面へと落ちていく涙はなかなか止まろうともせず、ミエルは突然シードルに抱き着いた。
「ありがとう…シードル。」
まるで小さな子供の様に泣き出すミエルはシードルにしがみ付いたまま離れようとしなかった。
「やっぱり…皆とずっと一緒にいたい。別れたくない。もう、一人ぼっちは嫌だよ…。」
ただ泣き続けるミエルはとても弱弱しく、そんな彼女をシードルはそっとしてやるしかなかった。
「ヒューヒュー、熱いねぇ!!」
『!!』
いきなり奥から聞き覚えのある声が聞こえ振り向けば、そこにはキルシュとカベルネがいた。まるで互いを抱き合ってるような姿を2人に見られてしまい、シードルは勿論、ミエルも顔が真っ赤になってしまった。
「もうそんな仲になったヌ〜?羨ましいヌ〜。」
「そ、そんなんじゃないよ!!」
「おいおい、今更言い訳かよ?全部聞いてたぜ。『好きだ!』『もっと僕に頼ってくれ!』ってさ。」
「う、うるさいな!大体、星はどうしたのさ!!」
「もうほとんど居なくなったぜぇ。俺達だってサボってた訳じゃねぇよ。」
「そうゆうシードル達がサボってたんじゃないヌ〜?こんな所を告白のスポットにするなんて、シードルも隅に置けないヌ〜。」
「だから違うんだってば!」
シードルが慌てて場を修正しようとする中、トリュフのグループもミエル達の所にやって来た。
「何やってんだお前等?」
「別に〜。まあ、ある意味お前はタイミングを逃したもんだな。」
「はぁ?」
「トリュフ〜。これから気を付けるヌ〜。」
「だから何の事だ?」
キルシュとカベルネを怪訝そうに見つめるトリュフ。そんな彼を茶化してる本人達の心を読み取ったオリーブは思わずくすくすと笑ってしまった。
「さて、残りの星もさっさと天に昇らせるヌ〜!」
ふと、カベルネが拳を空に上げながら叫び、ミエル達はまだラキューオで彷徨っている星を探しに行った。
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