マジバケ小説 | ナノ


「待って、トリュフ!」

何も語らずただ歩くトリュフを呼ぶオリーブの声を何度も聞いても、トリュフは止まろうとしなかった。むしろ距離がどんどん開いてしまい、オリーブはトリュフの行く方向へと走らなければならなかった。

「1人でやると言ってなかったか?」
「…ごめんなさい。でも私、トリュフの事、少しでも知りたいの。トリュフが抱え込んでる事とか、トリュフを苦しめてる事とか。」
「余計なお節介など要らないって言ったよな?」
「お節介なのかもしれない。でも、私はただ皆と同じ様に悩みを聞いたり、一緒に遊んだりしながら、喜びと悲しみを分かち合いたいの。
トリュフは私のクラスメートで、大切な友達だから。」

オリーブが必死で語るも、トリュフはオリーブをただじっと見てるだけだった。

「そう言えるのはお前が人の心を読めるからか?」
「そんなんじゃない。心が読めなくても、私…」
「俺はお前の事、友達だと思った事ねぇよ。なったとしても何か得がある訳でもねぇだろ。」

嫌そうにオリーブを見つめてるトリュフを見てオリーブは恐る恐る口を開いた。

「……ミエルの事。」
「……。」
「ミエルの事、ずっと思ってたんでしょ?学校に来る前からずっと。」
「お前とは関係無いだろ。」
「そうかも知れない。でも、ミエルもきっと、トリュフの事…」
「お前は何も知らないからそう言える。あいつだって、全部思い出したら俺と一緒にいたいなんて思わねぇだろ。」

拳を握り締めたまま俯いているトリュフの目には数えきれないほどの感情が篭っていた。空色の目も、髪の向こうの赤い目も。

「この目の事。お前はもう知ってるだろ?」
「……うん。」

無意識にトリュフの心を読んでしまい、そのせいでトリュフの赤い目の事もオリーブは知っていた。その目がエニグマの呪いによって与えられた事も。

「今の俺は、半分は魔物みたいなものだ。姿はこのままだが、時折、人を超える力を発揮する事もある。ある時はエニグマよりも強くなる事もある。呪いを掛けた張本人がその呪いが掛かった相手に倒されるなど、滑稽で物も言えないが。」
「……。」
「この目を与えられたのは、あいつが俺達の元からいなくなる前の時だった。」

トリュフは目を閉じたまま、話を続けた。

「俺は、俺の些細な感情のせいで、あいつをもう少しで死なせるところだった。まだガキだったあいつを1人置き去りにして、襲われてると気づいた時は、もう何もかも遅かった。幸い、命は助かったが、酷い重傷を負ったショックで、俺も家族の事も、全部忘れてしまったんだ。」
「……トリュフ…。」
「この目は、当時の俺に与えられた罰だ。妹を守れなかった俺への罰。この呪いが解けない限り、その罰は一生続くだろう。」

話を終えると、トリュフは再び髪でその右目を隠した。

「だから俺は、あいつを守ると決めた。嫌われてもいい。あいつが無事でいるなら、それでいいんだ。」
「…でも、そんなの悲しいよ。だって、トリュフ…今まで、ずっと1人で…」
「同情などいらないとか、そんな事を言うつもりはない。俺だって、本当はあいつが俺の事思い出してほしいさ。けど、思い出して、それであいつの心が傷つくのは俺だって辛い。」
「……。」
「お前だって、先の話の聞いてそんなにいい思いはしなかっただろう?お前の事だから、軽蔑するとかじゃなく、それを聞いて共に泣いたり、自分に出来る事など無いと悔やんだりするだろうな。俺はそうゆうのあまり好きじゃない。自分のせいで他人が悲しい思いをするのが、俺はイヤなんだ。それが友達でも、赤の他人でもな。」

オリーブは何も言わなかった。言えなかったと言うのが正解だろう。トリュフの話をただ聞いていたオリーブの目には涙が浮かんでいた。

「何泣いてんだよ?」
「ごめん…」
「あーあ、だからお前と一緒にいたくなかったんだよ。そんな顔されたらこっちがみっともないだろうが。ほら、さっさと星探しに行くぞ。」
「……うん。」

トリュフに付いて行くオリーブの声は泣いていたが、顔は笑顔だった。
彼女は気付いたのだ。トリュフが自分を避ける理由が、心を読まれるのがイヤだからじゃなく、自分の思いを聞いて相手が悲しんでほしくなかったからだと言うことを。

 
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