マジバケ小説 | ナノ


ガーシュインが塞いでいた部屋は洞窟にあった宝石の中でも大きな宝石がばら撒いてあった。
だが、それと同時に、とても強い何かがこっちの空気を引きずり込んでる様な渦巻きもあり、
ちょうどその前にマドレーヌとガナッシュ達がいた。

「ようやく追いついたわ。皆、何処に行くつもりなの?ここから先は死のプレーンだゾ。知ってるの?」

場違いなほど明るく響く声で語るマドレーヌに、冷たい表情になってるキャンディが冷たい口調で語った。

「わざわざ苦労して来たのは何のためだと思って? 死のプレーンに行く為よ。ガナッシュ、行こう。死のプレーンへ。エニグマと融合するのよ。しかも、最強のエニグマ、ケルレンドゥと!」
「キャンディが変なの!!ガナッシュ!!キャンディが変なのよ!!」

オリーブがガナッシュに訴えるも、ガナッシュは何も言わなかった。言わなくても、キャンディの今の表情や声等を見てみると、確かにいつものキャンディではない事が解る。
そんなキャンディを目の前に、カシス達は足を動かす事が出来なかった。

「……あの時と同じだ。」
「ガナッシュ!! 行ってはダメヌ〜!! 思い止まるヌ〜!!」
「???ねぇ、オリーブ…キャンディはどうしちゃったの?」
「解んない…私の…私のせいで、可笑しくなっちゃったの…!!」

目に涙を浮かべながらオリーブは俯いた。そんな彼女をキャンディは楽しそうに見ている。そんな悲しい光景を、とある少女まで見てしまった。
キャンディと同じくらい、いや、それ以上に冷たい表情になっている少女が。

「オリーブ…さよなら…俺は行くよ…行かなければいけないんだ。」
「ダメよ! ガナッシュ!! 行かないで!!」
「止めても無駄よ。1人の人間だもの。嫌だって言ってる人を、犬のように引っ張っては行けないわ。」
「確かにそうだね、キャンディ。私にはあなたたちを引っ張って帰るほどの力は無いしね。行ってきな。」

笑顔で彼等を見送るマドレーヌを見てオリーブが叫びだした。

「2人とも帰ってこれないかもしれないのよ、先生!! どうして止めてくれないの!?」

必死で訴えるオリーブを見て、とある人が口を開いた。

「…なるほど。そういう事だったの?」
「!!」

ここにいる筈のない人の声を聞き、ガナッシュ達はようやくミエル達がいる事に気が付いた。

「可笑しいとは思ったけど、これでようやく解った。あんたは最初からそれが目的だったのね。」
「……ミエル。」
「ミエル!!お願い!!ガナッシュを止めて!!」

ミエルの服を捕まえながらオリーブは涙混じりに叫んだ。だが、そんなオリーブを見ていたミエルはただ冷たく微笑んでいるだけだった。

「何のために?私には止める理由なんて無いのに。」

氷のように冷たくて刺々しい言葉を聞いてオリーブも、マドレーヌも、カシス達もミエルを見つめた。
彼女を見るその目は、驚いたより、ショックを受けた様な目だった。
そんな彼等を気にせず、ミエルは鋭い目付きでガナッシュを睨み付けた。

「ナイトホーク。私が、あんたを探しにここまで来たとでも思ってるの?」
「……。」
「私はキャンディ達を迎えに来た。あんたを探すのは、ついでしかなかった。」

感情に振り回されない落ち着いた声。けど、怒りが混ざった様な冷たい声。
今までのミエルが出した事の無い声に、周りにいる人は何も喋れなかった。

「私はあんたの事、ずっと嫌いだった。嫌いで、嫌いで、もう顔も見たくなかった。なのに、あんたはいつも、私の人生に関わってくる。あんたと私が出会った時からずっと。」
「……。」
「まあ、それは別に構わない。けど、大切な人を殺されて、許すとでも思ったの?」
「……っ!!」
「お、おい…。何言ってるんだよ?」
「だって本当の事でしょ?ティラミスさんを殺したのはナイトホークだった。違う?」
「それは……」

ミルフィーユのハートを取る事に躊躇ったティラミスにガナッシュが魔法を放ち、それがティラミスの死の原因となった。キルシュ達は、どうする事もない事故だったと判断したが、ミエルはそう思う訳にはいかなかった。

「あんたは…前からずっとそうだった。いつもいつも、私から大切な人を奪おうとする。」
「……。」
「私はただ、普通に生きたいだけだった。皆と一緒に遊んだり、笑い合ったり。そんな些細な事も望んじゃいけないって言うの!?私も普通の女の子でいたいのに、何であんたはいつも邪魔するのよ!!」
「ミエル……俺は…」
「あんたがエニグマと融合しようが、私にはどうでも良い。融合すれば、私はそのエニグマを倒せば良いだけなのだから。」
「!!!」

ミエルの衝撃的な言葉に、オリーブ、カシス達は顔が真っ白になった。
相手がミエルが倒せる相手であるかどうかは解らないが、もし本当に倒したら、ガナッシュにも危険を及ぼす事になる。ミエルも、その事を知ってて、エニグマを倒そうとしているのだろう。
大切な人を奪われた怒りと悲しみは、相手に対する憎しみと混ざり、やがては復讐心となってしまったのだ。そんな復讐心に燃えているミエルを、ガナッシュは、どこか悲しげな表情で見ていた。

「ああ、そうそう、これ。」

ミエルは、水色のペンダントを掴み、それを思いっきり引っ張りだした。
プチンと音を出して途切れてしまったペンダントは、ガナッシュへ向かって飛んで行き、ちょうどガナッシュの顔に当たったそれは地面へコトンと落ちた。

「返す。もう私には必要ない。いや、初めからそんな物付けたくもなかった。
それを見る度に反吐が出そうだった。どんなに嫌でも、あんたの言いなりにならなきゃいけなかった私を見てる様でね。
どうせそれを渡す時も、私の事脅そうとしたんでしょ?あんた、そうゆうの得意だもんね。」
「………。」
「それが私の机の上にあった時から気付くべきだった。もっと早く気付けば、あんたの言いなりになる必要も無かった…。でも、もうそんなのどうだって良い。もうじき、それは単なる過去になるからね。」
「ミエ……ル…。」
「さようなら、ナイトホーク。次に会った時は、永遠の敵になっているわね。」

そう語ると、ミエルはガナッシュに向けて微笑んだ。優しい微笑ではなく、人を嘲笑うような冷たい微笑だった。
ガナッシュは辛そうな顔で俯くと、地面に落ちたペンダントを拾い、躊躇う事無く渦巻きへと向かった。

「…………さよなら……。」

静かにそう呟くと、ガナッシュは渦巻きへと飛び込んだ。

「行かないでぇ――ッ!!」

オリーブが叫ぶも、ガナッシュの姿はもう洞窟には無かった。

「私の勝ちね、オリーブ。」

冷たい笑みを浮かべながら、キャンディもガナッシュを追い、渦巻きの中へと消えて行った。

「行ってしまったヌ〜!!俺達も行くヌ〜!!」
「ダメよ!!」

渦巻きの中に飛び込もうとしたカベルネをマドレーヌが止め、腕が掴まったカベルネはその手を振り払おうと暴れだした。

「何でガナッシュは行かせて俺は止めるヌ〜!?何でヌ〜!!」
「迂闊に踏み込むと殺されるわよ。」
「殺されるヌ〜!? ガナッシュは親友ヌ〜!!俺を殺したりなんかしないヌ――――ッ!!」

親友であるガナッシュが自分を殺すはずなどない。さらに暴れだすカベルネの動きを止めたのはオリーブだった。

「違うわ…キャンディによ…ガナッシュは、それが分かってて彼女と行ったんだわ。」
「キャンディに???」
「オリーブは何でも分かるのね。その通りよ。それに、キャンディが変わったのもあなたのせいじゃないわ。解るでしょ?」
「…………。」
「……ごめんね、不甲斐ない先生で。取り合えず、ここは一度バスに戻りましょう。これ以上みんながバラバラになったら、かなわないわ。引率者失格よね。」

カベルネとオリーブが加わりカシス達がバスに戻る中、ミエルは奥にある渦巻きを見つめていた。
マドレーヌはそんなミエルにゆっくりと近づいた。

「ミエル。」

マドレーヌの呼び声に気付いたミエルはしばらくマドレーヌを見ると、やがて彼女も洞窟から出て行った。

 
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