もう歩けないほど歩いたと思ったとき、奥の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「来ると信じていたよ。力は誰にとっても必要なものだ。」
「何か居るぜ!この先だ!」
「この声、エニグマだな。」
もはや聞き飽きる程聞いた不気味な声はまさにエニグマの声だ。
まるで会話をしてるような話し方を見るとエニグマ以外の何かが居るようだ。
果たしてそれはセサミだろうか?それとも、融合を望む他の誰かなのだろうか?
足のスピードを上げ、声のした方へ走っていくと、3体のエニグマ、ダラドハスネル、アラクネイラのど真ん中にいるセサミがいた。
幸い、まだ融合までは行ってない様だ。
「セサミだ!! なんとか間に合った!!」
「!!!」
もう追って来ないと思ったのかセサミは驚いた表情になってカシス達に振り向いた。
だが、そんな彼等を見たエニグマは嘲笑うような笑みを浮かべた。
「間に合った??? 何が間に合ったのかな?? この男は、今、我が手中にある。手出しが出来るのかな?」
「いけませんの!!エニグマなんかと融合したらいけませんの!!」
「エニグマと融合してどうするつもりだ!?」
顔を俯いていたセサミは眉をひそめながら口を開いた。
「変えたいんだ………。」
「カエル? カエルッテ、ナニヲ?」
「虫に夢中になってエニグマに拐われたのも…………何も考えずにムスクさんの言いなりになってたことも………全部、俺が悪いんだ。
だから、俺はエニグマと融合して自分を変えるんだ。」
密林ではかなりムキになって飛び出したが、彼も自分がした事を後悔していたようだ。
そんな自分を変えるためにエニグマと融合する方法を選んだ。ラドハスネルは愉快そうに笑った。
「くっくっくっく。良い心掛けだ。みんな見習ってはどうだ?ただの人間など、我らの力の前にはゴミ同然。変わってみないか?」
どうやらラドハスネルはセサミの変えたい所を理解していないようだ。
すると、未だに迷ってるセサミを止めるかのようにシードルが声を上げた。
「そんなんじゃ何も変わらないよ。君はずっと、僕の気持ちを分からないままだし、僕も君のことを、ずっと分からないままだよ。
それは、今のまま、変わらないってことだろ?」
「………。」
「仲直りしよう。」
シードルの言葉にセサミは返事をしなかった。だが、その目は未だに迷っていた。
「くっくっくっく………弱い奴は肩を寄せ合うより他に、生きる道が無い。哀れだとは思わぬか!?」
「弱いとか強いとかは関係無いんだ………俺は、俺のままでいいんだ。ただ、少しだけ何かを変えたいだけなんだ」
「変わるさ、何もかも。お前は俺の宿主になるのだ。それがお前の運命なんだよ。」
「………。」
「おいチビ。お前、本当にそいつ等と融合すれば変わると思ってんのか?」
トリュフの言葉を聞いてセサミは恐る恐る彼の方へ振り向いた。迷い続けてる自分とは違ってトリュフは余りにも落ち着いている。
「お前が変えたいのは、悪さをしたお前なんだろう?他人を傷つけたお前が許せなかったから変わりたい。
まあ、それはそれで悪くないさ。むしろ大歓迎だ。けど、あんな奴等と融合すれば本当に変われると思ってんのか?
ただでさえ人を襲って、殺す事に何の罪悪感も感じない奴等がお前の中に居るんだぞ。
それじゃあ、変わる所か、ますます悪行を犯すだけになるんじゃないのか?」
トリュフの言葉にセサミはハッとした。そうだ。エニグマは自分達を襲い、恐怖に追わせた化け物だ。
もしそんな奴と融合すれば、自分もその化け物と同じようになってしまう。それじゃあ何も変わらないと同じだった。
そんな事を考えてると、今度はカシスが口を開けた。
「好きにしろよ。お前が決めな。」
「…そうね。私達が何だかんだ言う事じゃないわね。どうするかは、あなたが決めなさい。」
自分に選択肢を与えたカシスとミエル。その言葉を聞いたセサミの目はすでに決心したようだった。
「力だ………お前に必要なのは力だ。お前の身体に、俺の力が加われば、物質のプレーンを落とすことも容易い。」
完全にセサミの論点から外れた話題を出したのはラドハスネル。
「好きにしろって言ったよな、カシス……。」
「お前は自由だ。融合したけりゃしろよ。」
セサミはミエル達を見つめた。その目はとても強くて真っ直ぐだった。
「好きにさせてもらうぜ!俺が欲しいのは力じゃない!自由だ!」
セサミはミエル達へ駆けた。自分を信じてくれた大切な仲間達のところへ。
「そうこなくっちゃ!!」
「自由であるために、まずは道を切り開こうぜ!」
戦闘体勢になったカシス達をラドハスネル達が睨んだ。やっと手に入れた宿主を、また失ってしまった。
「馬鹿め………お前が選んだのは自由ではない。『死』だ。」
前 次
(2/4)
戻る