マジバケ小説 | ナノ


ペシュがネクターとどーどーの治療をする間、カシスとシードル、カフェオレが精霊を出しながらフェンネルと戦った。
フェンネルが風属性であるため、ミエルは精霊を出すのを控え、代わりにマッハラインを全員に放ち、エアが呼び出されるたびに魔法をフェンネルに放ったりしながら他の皆をサポートした。
シードルがイエローローズを唱えると、無数の茨がフェンネルに絡みついた。
精霊のおかげで倍になった茨は普段より太く、頑丈で、力には自身のあるフェンネルでさえ、切り落とすのに苦労していた。
これを隙にトリュフが闇の魔法を何度も放ち、カシスがフェンネルに斬りかかった。
茨も切れてしまったが、かなり重症を与えたようだ。
戦ってるうちに、すばやかったフェンネルの動きもだんだん鈍くなっていく。
スピードには余り自身がないカフェオレのネジロボやゼンマイロボも避けられない程になっていた。

「フェンネル!!もう止めて。」

まだミエル達を襲いかかろうとしてるフェンネルを落ち着かせるためにココアが叫んだ。だが、フェンネルは未だに落ち着こうとしない。
突然、フェンネルの眼がココアの方へ移ると、いきなり彼女を襲い掛かった。興奮しすぎて自分の主人の妹である事を忘れてるようだ。
目を瞑ったまま身を庇っていると、突然、体が右の方へ飛んでいった。
気付けば、彼女を抱いているミエルと一緒に横たわっている。襲われる前に、彼女が自分と一緒に避けたのだった。

「大丈夫?」
「え…ええ。」

立ち上がろうとした刹那、ミエルは左足から激痛を感じた。見てみると、引っかかれた様な傷があって、そこから血が流れてる。

「ミエルさん。」
「大丈夫。これ位。」

大丈夫とは言うものの、簡単に立ち上がれない。すると、フェンネルがミエル達に襲い掛かろうとした。
同じ属性でも、力の方ではミエルがかなり不利である。だが、だからと言って何もしない訳にはいかない。
魔法を放とうと姿勢を整える時だった。

飛び掛るフェンネルを見た途端、ミエルの目に別の光景が映った。
まだ小さかった自分が、大きな獣に襲われている光景。その光景が、ミエルの身を完全に固まらせてしまった。
すると、ミエルの目の前にトリュフが現れ、飛び掛るフェンネルに思いっきり拳を入れた。
突然の力に驚いたのか、体力がほんのわずかしか残ってなかったのか、
フェンネルはそのまま飛ばされ、地面に頭をぶつけたフェンネルは、その場で息を引き取った。

「フゥ〜。ナントカタオシタゼェ。」
「けど、何でこいつがいるんだ?こいつ、ムスクのペットだろう?」
「本人に聞けばいいんじゃない?すぐそこにいるし。」

シードルにはここに入れる唯一の入り口に目を向けた。そこには、フェンネルの主で、ココアの兄のムスクが居た。

「フェンネルーーーッ!! 」

ムスクはフェンネルの方へ駆け付けた。だが、フェンネルは身動きもせず、息すらしていなかった。
すると突然、悲鳴のような、慟哭のような鋭い声が最下層に響いた。

「兄さんっ!!」

ネクターの声だ。フェンネルに噛み付かれ、重傷を負ったどーどーに呼び掛けていた。

「兄さん……?そのどーどー鳥がですの?」
「………。」
「兄さん!!大丈夫かい!?しっかりして!!返事をしてよ!!起きて!!兄さぁーーーーん!!」

何度ネクターが呼び掛けても、どーどーは身動き一つしなかった。光を失ってガラスのような青い瞳は、ネクターの瞳と似ていた。

「……少年よ。そのどーどー鳥は…まさか。」
「どーどー鳥じゃない!!オレの兄さんさ!!
エニグマの呪いでどーどー鳥になってるけど、1000年後にはもとに戻るんだ!!それを…それをお前はッ……!!」

ネクターの怒りに誰も言葉が出なかった。どーどーになった兄を守るため、病気にかかった妹を助けるために、
2人は全力を尽くしたが、その2人が争う今の状況は余りにも残酷だった。

「すまない…知らなかったんだ。
妹の呪いを解くためには、どうしてもどーどーの血が必要で……森で助けたセサミくんを使って、ここのどーどーを採らせてたんだ……。
いや、知っていたところで…1000年後!?1000年後に戻るって!?」

しばらくムスクは黙った。
カフェオレのような古代機械等、寿命が長い生き物で無い限り、生き物が生きる時は長くても100年位。
それを10倍した年に戻ると言われても、余りにも長すぎる。

「1000年なんて待てるもんか!待てるわけがないだろ!?俺が殺さなくったって他の奴が殺して薬にしてしまうだけだろ!!
だったら、お前の兄だろうがなんだろうが関係ない!!どーどーはどーどーだ!!
俺の妹の呪いを解く為に捕まえて、殺して、薬にして何が悪い!!」
「イヤーーーーッ!!もうやめてッ!!私の為にどーどー鳥を殺したりしないでッ!!」
「帰ってくれ!!皆帰ってくれ!!」
「帰れだって…?このままでは、妹はどーどーになってしまうんだぞ!!
可愛いフェンネルを失って、妹まで失えと言うのか!!お前を殺してでも、どーどーは頂いて行く!!」
「もうやめて!!無駄なのよ、もう!!お兄ちゃん……これを見て……。」

ココアは自分の手をムスクに見せ、それを見るなりムスクは勿論、他の皆も驚いた。

「!!! ココアッ!! それはッ!!」
「!!!」

ココアの手には鳥の羽のようなものが生えていた。

「お兄ちゃんが心配するから隠してたけど…もう遅いの…手だけじゃないのよ…胸やお腹…足にも…。」
「もしかして…ココアちゃんの呪いって…。」
「エニグマの呪いなのか?」
「そうよ。私、どーどーになっちゃうの。エニグマの呪いのせいで…どーどーになっちゃうの…!」
「毎日欠かさずに、どーどーの血を飲ませたんだが…クソッ!!」

ムスクは唇を噛んだ。今までの努力が全部無駄だった事が信じられなかったのだ。

「どーどーの血を飲ませたって進行を遅らせるだけで呪いそのものが解ける訳じゃない。」
「クソッ!!俺はどうすればいいんだッ!!俺は一体ッ!!」
「残念だが、俺にはどうにもできないよ。もう帰ってくれ。」
「私は残ります! ここに残ります!」
「ココア…。」

沈んでるムスクを宥めるように、ココアは精一杯笑った。

「どーどーになってしまうのは、もう止めようがないでしょ!? だったら、村に居るより、ここにいた方が安全でしょ?」
「確かにここは、どーどーにとって安全な場所だ…しかし、私がそれでよくても、彼が…。」
「俺は構わないよ。だけど、あんたはもう二度とここに来ないでくれ。」

ムスクに背を向けたまま、ネクターは冷たく言い放った。

「私のせいで、あなたのお兄さんを死なせてしまって…私どう言ったらいいか…。」

「どー……」

どーどー鳥の鳴き声しか聞こえない中、他のより少し小さな鳴き声が聞こえてきた。

「どー…」
「…???」

その声に気付いたトリュフはネクターの傍にいたどーどーを見つめた。
そのどーどーは重症を負いながらも息をしていた。

「生きてる…生きてるぞ!!」
「!!兄さん!!」
「息がある!! まだ死んでないよ!!」

ネクターは横たわってるどーどーにカエルグミを近づけた。

「カエルグミだよ…食べられる…?」
「どー…ど〜…♪ど〜…♪」

カエルグミを食べ終えたどーどーは体を震わせながらも自力で立とうとしていた。
そんなどーどーを、自分の兄をネクターは見守っていた。
やがてどーどーが立ち上がった。足を震わせながらも、 自力で立ち上がったのだ。

「生き返ったぁーっ!!」
「兄さん…本当に…やったぁ―――――っ!!
兄さんが生きてた――っ!! 死んでなかったんだ―――っ!!」
「やっほ―――っ!!」
「やったぁ――――っ!!」

全員が歓声を上げる中、ムスクは安堵の息を吐いた。

「フッ…よかった…。ココア、私はもう少し呪いのことを調べてみる。
何か方法があるかもしれない。いや、必ず見付けてみせる。」

医者として、ココアの兄として。ムスクは呪いを解く方法を探しに行く決意をした。
精霊がどーどーになったのは愛の大使が元に戻せた。
なら、他の生き物の呪いも解く方法があるはず。そう信じて、ムスクは立ち上がった。

「あ、それから君達。砂漠の歩き方を教えて欲しいって言ってたね。
私の部屋にくれば、いつでも教えてあげるよ。それじゃ!」
「お兄ちゃん!」

密林を去るムスクをココアが呼んだが、ムスクは振り向かずただ去っていくだけだった。
そんな彼の背中をココアはただ見守った。

 
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