ようやく南の沼に辿り着き、ミエル達はタル船から降りた。
辺りは相変わらず湿っていて、光もほんのわずかしかなかった。
「やっと着いたぁ…。」
船から降りるなり、シードルはそこでへたばってしまった。
普段は室内にいる事が多いシードルには、オールを漕ぐのはかなりの重労働だったようだ。
「ここから奥に行けばタピオカティ村だ。そこで少し休むとするか。」
「休むなんて駄目ですの!!ガナッシュ達がどんどん遠くへ行ってしまいますの!」
「マアマア、ガナッシュタチモムラデヤスンデルカモシラネェダロウ?」
闇のプレーンに詳しいトリュフが仕切る中、先程タル船から出て来たミエルはその辺にぼーっと立っていた。
彼女は、とある出来事を頭に浮かべていた。自分がピンチだった時、トリュフが自分を助けてくれた事を。
「わっ!!」
「!?!?」
いきなりカシスが大声を出し、ミエルは飛び上がりそうな勢いで身体をビクリとさせた。
「何なのいきなり!?」
「ぼけーっとしてるからだろ?どうしたんだ?」
ミエルは返事をせず、トリュフを横目で見ていた。よく見れば頬が少し赤くなっている。
「…もしかして、トリュフに一目惚れか?」
「!?」
いきなりの問いに、ミエルは更に頬が赤くなった。それをペシュが見逃す筈がない。
「愛ですの!!ミエルちゃん、恋に落ちましたの!!」
「違うよ!そんなんじゃ…」
「恥ずかしがる必要ありませんの!愛は素晴らしい物ですの!!」
カシスとペシュが茶化す中、3人が居ない事に気付いたトリュフ達は、その3人のいる方へ振り向いた。
「何やってんだあいつ等?」
「さぁ、何かカシスとペシュがミエルを茶化してる様だね。」
「ミエルノジョウチャン、カオマッカダネェ〜。」
結局、トリュフ達はミエル達を連れて来るために戻らなければならなかった。
「でも、トリュフと一緒になるのは、あんまりおすすめ出来ないな。」
「どうしてですの?トリュフちゃん頭もいいし、いざと言う時には守ってくれますの。」
「だってあのトリュフなんだぜ。チビのくせに口が悪いし、怒ると怖いし、何より、あいつ女子には全く興味が無いんだぜ。
2人が付き合ったとしても、トリュフがミエルを大切にするなんて到底思えねぇし、あいつがミエルを懲らしめるのが目に見えるな。
そんな奴にミエルを渡すなんて、お兄ちゃんには到底出来ないよ。」
「ほぅ、お兄ちゃん?」
やたらと低い声、後ろから来る黒いオーラにカシスは固まった。
カクカクと身体を動かして振り向けば、目を細めたまま自分を見つめてるトリュフがそこにいた。
「お前みたいな荒れた奴が、ミエルのお兄ちゃん?」
「べ、別に間違ってないだろ?ほら、俺の方が年上だし…」
「ああ、そうだな。俺みたいなチビで口の悪い奴より、お前の方が年上だもんな。」
「!!」
全部聞かれてしまった事を知り、カシスは石化し、ペシュは急いでミエルを連れて逃げ出した。
「まあ、俺の悪口を言ったのは許す。が、肝に刻ませた方がいいな。」
そう言ってトリュフは指をポキポキと鳴らした。
「今後、あの子に何か変な事喋ったりするとどうなるか。」
その後、カシスの断末魔が南の沼中に響いた。
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