「馬鹿な男だよねー」
 俺は書きかけのそんな手紙をびりびりと破きながら、その欠片をふうっと一松に吹きかけて見せた。一松はぐったりとしたまま動かない。骨はいってないはずだから動けるはずなのに。こいつ耐久力だけはあるからなあ。
 にたにたと笑う俺を、カラ松が射殺さんばかりに睨みつける。あっはっは、縄でぐるぐる巻きにされた奴の視線なんて怖くも何ともねーよ。声を出して笑って見せれば、トド松がおびえたようにびくついて見せた。十四松はさっきから一松の傍ににじりよって、だくだくと涙を流して見せている。涙って治癒効果あったっけ。どうでもいいけど。
 馬鹿な男だ。この隣人も。あの家から抜け出した兄弟たちも。俺はあんなに頑張って素晴らしい箱庭を作り上げたというのに、こいつらは俺の恩を仇で返すどころではなく、その箱庭を燃やしつくして去っていった。こいつだけは逃げないと思っていた一松でさえ逃げ出してしまった。そう、一松が逃げださなければ、俺はまだこんな凶行を起こさずに済んだだろう。全てはこいつらのせい。こいつらの責任。俺はなあんにも悪くない。
 煙草に火を付ける。あとはチョロ松だけだ。チョロ松を捕まえてまたあの家に戻れば、俺たちは元の関係に戻れる。灰になった箱庭を、また復活させることができる。紫煙を吐き出した先で、大きな虎が人間だったものをむしゃむしゃと美味しいそうに食ってみせていた。きっと一松は、俺にこの虎の扱い方を教えたことを心底後悔していることだろう。そして目を覚ました時、この惨状を見て後悔するはずだ。泣き叫んで、ごめんなさいと俺に縋りつくはずだ。ごめんなさい、ごめんなさい、あの箱庭から逃げ出してしまって。
 灰を床に落とす。そう、あとはチョロ松だけ。チョロ松を連れてくれば、俺たちはまた戻れる。元の関係に戻れる。きっと皆、何事もなかったかのようにあの箱庭に戻ってきてくれる。
 固く目をつぶったままの一松に近づくと、十四松が威嚇するように俺を睨みつけた。あーらら、兄ちゃん嫌われてんなあ。かっなしー。
「な、一松。お前も早くあそこに戻りたいよな」
 じゅ、とその肌を煙草で焼けば、一松の目がばちっと開かれた。そして苦悶の表情を浮かべながら、涙目で俺を見上げる。ああその顔、その顔だよ。たまんねー。

「な、一松。お前だけは俺と遊んでくれるよな」

 ぼろり。一松の目から涙が零れる。それが何の涙であるのか俺には分からない。理解しなくともいいことだ。潰れてしまった煙草に再び火を付ける。あああと少し、あと少しで、俺たちの箱庭は復活する。その瞬間を想像して、ぶるりと俺は震えた。ああ早く、早くあの箱庭を完成させよう。そしてまた、六人で笑い合おう。なあに、何も心配することはない。全てはこの俺に任せろ。この松野家長男、松野おそ松に。



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