「よォ名前さん!邪魔してるでー」


ーーえ、なに。幻覚?

私の部屋のリビングに、まるで、自分の部屋であるかのように寛いでいる服部平次が見える。私が買い物に行っている間留守を頼んだコナンくん、いや・・・新一くんは何をやっているんだ。


「悪い、急にコイツから電話かかってきた」


すっかり私の前から消えてしまったぶりっ子コナンくんは今、服部くんを呆れた目で見ている。話を聞くと、休日を利用して連絡なしに東京に来た彼が探偵事務所にいなかった新一くんに電話をかけ、今日私と約束をしていた新一くんが居場所を吐いたという事だった。

私が買い出しに行っている間に、なんて事だ。別に服部くんが家に来て欲しく無い訳ではない。問題は仕事が終わり次第こちらに向かってくる私の恋人の方にある。


「服部くん久しぶりね、とりあえずお茶でもどうぞ」

「おおきに!」


彼がお菓子とお茶に手をつけている間に新一くんに向けてちょいちょいと手招きをすると、首を傾げて私の方へ寄ってくる。服部くんから見えないよう台所でしゃがみ込み、家に服部くんがいることの問題点を打ち明けた。


「今日さ、午後、来るのよね。・・・零さん」

「え!?マジでか?」

「新一くんはもう子供の芝居が板についてるし、もう何度も家で会ってるから問題無いと思って今日来ることを言ってなかったんだけど・・・」


そこまで言えば私が危惧している事を察してくれたようで、新一くんはため息をついた。


「服部くんには何処まで話してるの?組織の事とか、"バーボン"の事とか」

「出来れば周囲は巻き込みたくねぇからな・・・近況は話してねぇよ」

「私もね、できればコナンくんの正体がバレて欲しくないのよ・・・哀ちゃんの事もあるし、隠してたって知られたらどうなるか・・・・・・」


零さん・・・いや、以前向けられていたバーボンである彼の冷ややかな視線を思い出すだけで寒気がする。私が"安室透"を追っていた時に毎日のようにその視線と対峙していたけれど、付き合い始めてから喧嘩はしていないし、敵対するような事が無いせいですっかり優しい表情に慣れてしまっている。
というか、最近零さんは私に甘過ぎる。普段甘やかされているために、以前のような表情を向けられた時に気丈に振る舞える自信が無い。得意の演技でも。それ程までに降谷零は私の心の奥底まで侵食しているのだ。


「とにかく、なるべく服部くんと零さんの接触を避けたいわけ。服部くんは嘘が下手だから直ぐ見抜かれるわ」

「同感だ。前科もある」


ーーそう、服部くんは前科がある。

結果論として私がコナン=新一くんという事を知っていたから良いものの、その事実を知るまで、服部くんは何度もコナンくんを"工藤"と呼び、誤魔化しているのを耳にした。もし私が新一くんに鎌をかけず、疑いを持ったまま服部くんとの出会いを迎えていたら・・・間違えなく彼の"工藤呼び"で確信を得ていたはずだ。


「いい?新一くん。絶対に零さんにバレないように気をつけるのよ?」

「あぁ、そうなったら名前も俺も困るしな」

「よし!」


ここで私と新一くんの間に、しっかりと行うべき明確な目的が出来た。しくじらないようとにお互いの視線を交わし、私達は立ち上がった。


「な、なぁ服部!今和葉ちゃんは?もちろん一緒に来たんだろ?」

「和葉ぁ?あいつは探偵事務所の姉ちゃんと一緒に買い物に行ったで」

「それ、追いかけた方がいいんじゃない?あんな可愛い子2人で歩いてたらナンパされちゃう!」


若干わざとらしいかとも思ったけど、服部くんは単純だから、分かりやすく火をつけるのが早い。


「あんなじゃじゃ馬がナンパなんてされんわ。されたとしてもあの2人やで?男の方が心配や」


ーー確かに・・・。

2人にこてんぱんにされる男の画が浮かぶ。


「でも僕、買い物行きたいなぁー!それか遊園地!!」


このタイミングで子供ぶりっ子は間違ってるよ新一くん。私達の前でそうする意味がどこにもないからね。当然、急に子供のフリを始めた新一くんを見て服部くんは怪訝な顔をしている。母親譲りの演技力はあっても、嘘は苦手な新一くん。ここは私が上手くやるしかない。


「服部くん、実は後で私の彼氏が来る予定なんだけど・・・」

「和葉から聞いてんで?毛利の姉ちゃんが言うにはごっつイケメンらしいやんか。ちょーど会うてみたいと思ってたんや」

「でもその彼、すっごく独占欲が強くて嫉妬深いのよ・・・」


表情には出さないし、口にもしないけどね。ただ"安室透"の笑顔になって少し意地悪になるだけ。


「だから1人暮しの私にも口煩くて、高校生とはいえ男の人を家に上げてると後で酷い目に・・・」

「ふぅん・・・って言ってますけど、ほんまはどうなんか?彼氏さん」


ーーえっ?服部くん・・・今なんて?


「僕はそんなことは無いと思うけどね」


背後から首に回った手に、私は顔を強ばらせた。




2016.12.06
「01」

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