私は最近、大学の授業が2限以降の日には朝、または終わった後、毎日ポアロに通っている。その目的は勿論視線の先で呑気に珈琲を入れている安室透。私はこの男についてあまり知らない。ただ、組織の一員でバーボンと言うコードネームを持っていること。そしてかなり頭が良く、洞察力に優れている。つまり、上手いことfbiに引き渡して情報を吐かせるには、慎重に計画を練らなければならない。

そのためにこうしてポアロに毎日通い、彼を観察している。しつこいほど店にいるせいか梓さんという女性店員さんと仲良くなった。そして梓さんに以前、聞いたことがある。


「安室さんって、どんな方ですか?」

「え?安室さん?見ての通りかっこよくて優しくて、女性から人気のある方よ」


返ってきたのは、世の男にとって満点の評価。いつも笑顔で、誰にでも優しく接するイケメン。それが"安室透"という男らしい。私には、あの笑顔は胡散臭くしか見えないんだけどな。ジッと彼を眺めていると、ふと目が合った。そして何故か私の席にやって来て座る。


「毎日来てくださるのは嬉しいですが、そんなに見られていると気になってしまって仕事に集中出来ませんよ」

「・・・貴女を探りに来てるだけですのでお気になさらず」

「余計気になりますよ、それ」


だって、それ以外に答えようがない。目の前の男は相変わらずニコニコ笑っていて、それが余計にムカつく。その笑顔を見ていると自分の方が劣って感じるからかもしれない。


「で、貴女は僕の何が知りたいんです?今はポアロも落ち着いてますし、聞きたい事があるならお教えしますよ」

「・・・じゃあ聞くけど、本当に29歳?」

「えぇ。年齢詐称はありませんよ」

「それでも充分詐欺だと思うけど」

「詐欺?何故ですか?」


ーー何故ですか?だって。分かってるくせに。
きっと密かに安室さん目当てでお店に来ている人は二十代前半くらいにしか思って無いだろう。


「カウンターの端に座ってる茶髪でロングの人、後は私の3個向こうの席に座ってる2人組」

「その方達がなにか?」

「私が貴方を観察している中で見つけた可哀想な人達。つまり、貴方目当てでお店に来ている人」


毎日通う私でもかなりの頻度で見かける人達。皆若いし、私と同じように大学生くらいだと思う。この甘いマスクに騙されてるだけで、実は腹黒で計算高い男だって事を教えてあげたい。


「あと1人、見逃していますよ」

「まだ他にもいるの?っていうか自分のファンに気付いてたのね」


でも店内にいるのは少し高齢の女性と後は出社前の会社員のような人がちらほら。まさか、男の人にもモテるとか・・・・・・?万人受けする顔ではあるし・・・。


「・・・変な妄想はやめてください。もう1人は貴女ですよ名前さん」

「・・・はっ!?」

「毎日僕の為にポアロに通ってらっしゃるなんて、1番の好記録ですからね」

「こ、好記録って、私と彼女達じゃ通ってる理由が全然違うのよ!!」

「でも僕をジッと見ている点では同じですよ」


何なのこのドヤ顔。私が毎日観察してる視線でプレッシャーを掛けたかったのに。それで私がいない時に気が緩んで、コナン君がさり気無く探った瞬間にボロが出ればって・・・・・・。だけど全然通じて無いし、寧ろ楽しんでる。


「間違っても貴方目当てで通うなんて事ないから」

「それは残念。あ、紅茶のおかわり淹れましょうか?」

「・・・・・・お願いします」

「かしこまりました」


結局今日も、"安室透"の目的を掴めなかった。勝手に動いてること知ったら、またコナン君に怒られそう。だけどこれは私自身の目的を果たすための手段。絶対に途中で投げ出したりはしない。あの組織が崩壊するまで、絶対に。




2016.05.12
「安室透観察日記」

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