「そっかぁ!じゃあ向こうで一回大学を卒業してるんだ!20歳って事は飛び級だね!!」


お腹いっぱいにスイーツを詰め込み、お店を後にしてもコナンくんは私の素性を探ることで頭がいっぱいらしい。にっこりと可愛らしい満面の笑み、子供らしいといえばそうなのかもしれないが何処か取り繕っている気がしてしまう。だけど私自身がコナンくんを注意深く観察していることを悟られないよう、"年上のお姉さん"の顔は崩さない。蘭ちゃんがお手洗いに行ってるのをいいことに質問攻めされたとしても。


「そうなのよ、向こうじゃ年齢は関係ないからね。そんなことも知ってるなんて凄いね、コナンくん」

「えへへ、テレビでやってたんだ。でも何のために日本に来たの?」


"なぜ" じゃなくて "何のために"。
これじゃまるで警察に尋問されているみたい。


「何のために、か・・・・・・。知りたい?」


頷く事も、続きを催促されるような事は無く、ただお互い見つめ合う。この状態でいくつ秒針が進んだのかは分からない。やっと、コナンくんが口を開きかけたその時、とある女性客の悲鳴が賑やかだったフロアを一瞬にして沈黙に変えた。


「あっちからだッ!」

「あ!ちょっとコナンくん!?」


悲鳴が聞こえた方向へと飛び出して行ったコナンくん。その素早さに驚きながらも、私は慌てて後を追った。向かっているのは多分、広いフロアの隅にあるエレベーター。大人の足の間を縫って進んでいくコナンくんを見失わないように急ぐ。すると、野次馬の流れに逆らって進む怪しい人物が目に入った。

ーーあれは・・・返り血ッ!?

黒色のパーカーに付着しているのをしっかり確認。人を無理矢理押しのけている様子はコナンくんの目にも異色に映ったらしく、振り返った。流れに沿って進む私とコナンくんの間に丁度その人物がいる。するとエレベーターの方へたどり着いた野次馬達からパラパラと悲鳴や息を呑む声が聞こえ、"その男、人殺しよ!!"という叫び声が響いた。それを聞いて私は、反射的に殺人犯を捕まえるべく人波をかき分けて正面に位置するように構えた。野次馬達は事の重大さを理解したようで、やっと殺人犯を避けるように逃げ始めた。


「名前姉ちゃん!危ないッ!そいつ刃物持ってるよ!!」


張り上げたコナンくんの声。確かに、血がべったりついたままの刃物を左手に持っている。だけど今更遅い。私はもうやる気だ。体術は得意じゃないけど多少教わったことはあるし、1発で決められれば私でも・・・。走って来る犯人に狙いを定め、拳を握る。向こうも私が逃げ道の妨げになると認識したのか、改めて刃物を握り直した。


「一樹!!」

「・・・・・・ッ!?」


突然、目の前に飛び出した男の子。子供を庇い、尚かつ犯人を制圧するなんて事は私に出来無い。迫る犯人、転がったオモチャに手を伸ばす子供。床にしゃがんだ子供が犯人に蹴り飛ばされた事で意識を逸らしてしまったため、私は右腕を切りつけられ、そのまま犯人を逃してしまった。


「誰か!警備室に連絡してデパートの出入口を封鎖してッ!!今ならまだ間に合う!」


コナンくんの怒鳴り声に、呆然としていたスタッフ達が慌ただしく動き出す。素早くて冷静な判断。素直に感心した。一樹くんが大した怪我も無く母親の元に戻った事を確認すると、コナンくんが私の元へ近寄ってきた。


「名前さん大丈夫!?」

「あまり深くないから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「そっか、良かった・・・」

「コナンくんの適切な判断のおかげで、犯人はまだデパート内にいるわ。見つけなくちゃ、絶対に」

「うん。だけど凄いね、名前さん。どうやってあの一瞬で刃物を犯人から取り上げたの?僕速すぎて見えなかったよ!」

「まぁ、ちょっとね。けど腕切られたのは失敗だなぁ」

「でも名前さんがそれを取り上げてくれなかったら今こんなに落ち着いてられないよ。他にも被害者が出ちゃうかもしれないから。ありがとう」

「小学生なのに優秀ね、コナンくん」


小さなピンチを共に乗り越えたからか、今は純粋に感謝の目を向けられている。私も、この子ならジョディさん達が信用しているのもわかる気がした。だからこの事件が解決するまで、探り合いは一旦休止。きっとコナンくんもそう思ったはず。


「名前さーん!コナンくん!!」

「あ、蘭ちゃん!」


お手洗いに行っていた蘭ちゃんが人の波を掻き分けて私たちの方へ寄ってくる。状況をまだ把握していないようで動揺していた。


「どうしたんですか!?その怪我!っていうか、この騒ぎは一体・・・」

「殺人事件だよ、蘭姉ちゃん」

「えっ!?」


驚く蘭ちゃんに、どうやらエレベーター内で人が刺された事、犯人が逃走して私が怪我を負ったこと、そして今もこのデパートに犯人がいること。コナンくんが順序よく簡潔に話をすると納得したようでやっと落ち着いた。


「事件も大変だけど、とりあえず名前さんの怪我の手当をしなくちゃ」

「そうだね!来たのはきっと知り合いの刑事さんだから現場に行こ!そしたら手当もして貰えるから」


知り合いの刑事さんって・・・。蘭ちゃんのお父さんが名探偵なら、それもおかしくはないか。広いデパートのせいで少し距離のある現場に、私達3人は向かった。




2016.06.04
「おだやかな潮騒」

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