「蘭姉ちゃん、また園子姉ちゃんとスイーツ食べ放題行くの?」


そろそろ太るんじゃねぇか?という言葉を胸にしまって、随分と身長差が出来てしまった隣の幼馴染みを見上げる。

ーー今日お父さんいないからお昼ついでにスイーツの食べ放題行こっか!

そう言われて無理やり連れ出された俺は、大方以前から園子と行きたいと話していた場所に行くんだろうなと検討をつけた。しかし蘭の返事は予想外で、更にこれから出会う人物も予想外に関わりがある人物だと知るのはかなり先の事。まさか同じように組織を追っている輩だとは思わなかった。


「今日は園子はいないわよ。実はね、コナンくんに会ってみたいって言ってる人がいて・・・あ、大学生だから歳上なんだけどとっても素敵な人なの!」

「へぇー!そうなんだ!」


俺に会ってみたい、なんて・・・嫌な予感しかしねぇよ。最近キッドキラーとかはやし立てられて新聞も載っちまったし、江戸川コナンももう少し自粛した方がいいかもな。


「あ、名前さん!!」


蘭が名前を呼んで手を振る方向を見てみると、小柄で、まさに品のある女子大生といった風貌の女性が笑顔で駆け寄ってくる。久しぶりだね、とか。いっぱいスイーツ食べようね、とか。テンションの高いこいつらについていけない。

ーーあぁ・・・帰りてぇ。

思わず溜息をついた時、ずっと蘭と話をしていたその女がぐっと俺の顔を覗き込んだ。


「わっ、・・・お姉さん、こんにちわ・・・」

「Hi ! cool kid ! 」

「えッ!?」


そ、その呼び方!


「ジョディ先生・・・!?」

「ふふっ、ジョディさんとは知り合いで前から君のこと聞いてたから会いたかったんだ!よろしくね、コナン君!」

「うん、よろしく・・・名前さん」


さっき蘭は大学生だって言ってたよな?だったらジョディ先生とは英語教師として知り合ったわけじゃ無いだろうし、俺の話を聞くってことは、fbiと何か関係がある可能性が高い。苗字名前。ジョディ先生から聞いたことは無いし、外見や仕草を見ても特別何か気になる点も無い。

ーー下手に接触するよりも、ジョディ先生に直接素性を聞き出そう。


「蘭姉ちゃん、僕ちょっとトイレ行ってくるね」


そう決めた俺は、ビル内の店に並ぶ列から抜け出して蘭達の視界に入らない場所へと移動した。コナン用の携帯をポケットから取り出して、アドレス帳から連絡先を探す。暫くのコール音の後、もしもしコナン君?とジョディ先生の声が聞こえた。


『どうかしたの?もしかして何か動きがあった?』

「あ、ううん。今日は黒ずくめの奴らの事じゃなくて・・・苗字名前って、知ってる?」

『えぇ、知ってるけど。その子がどうかした?』


俺は苗字名前と今一緒にいると言うことを伝え、どんな関係なのかと問う。


『全く名前は・・・本当に勝手な単独行動ばかりなんだから』

「単独行動って、じゃあ・・・fbiなの!?」

『正確に言うと"まだ"fbiではないけど、こちらの事情は大体知っているわ。だからそんな警戒しなくても大丈夫』


"正確に言うとまだfbiではない"
それはどういう事だ?情報を共有出来るだけの信頼と、技術と、頭脳があるのだろうか。あんな細っこい女に。電話を切ってからも暫く考え込んでみたが埒が明かない。これは自分の目で確かめた方が良さそうだ。携帯をしまってから急いで店の方へ戻ると、ちょうど蘭達が案内される所だった。


「あ、コナン君!良かった。ギリギリ間に合ったね」

「・・・うん!」


女同士の話ってのは無駄に長い。食べ放題なんてところに来た日には平気で3時間も喋りやがる。だったらそこで、苗字名前という人物を探ってみようじゃねぇか。この先きっと、fbiと協力して奴らを追跡するのが殆どだ。その時どの程度の事が出来るのか、もしくは巻き込まない方がいいのか、考えよう。


「ねぇねぇ、名前さん!」

「ん?なぁに?」


■ ■ ■


江戸川コナン。小学一年生の男の子。
せっかくスイーツ食べ放題に来ているというのに、蘭ちゃんとまともにガールズトークも出来ずに探るような質問を何個も被せてくる。とてもじゃないが、遊びに精を出す純粋無垢な子供には見えない。用心深く、慎重に物事を進める・・・まるで賢い大人みたいね。


「・・・・・・」


顎に手を当て、ジッと何かを考え込んでいる様子は探偵さながら。蘭ちゃんの父である名探偵の毛利小五郎が突然名を上げたのも気になるけど、アメリカにいたせいで日本の情報には疎い。
今私が目的を成し遂げる為には先ず、奴らの尻尾を掴むこと。ジョディさんが見かけたと言っていた、秀とそっくりな火傷の男の正体を掴まなければ。fbiも全力で動いていると聞いたけど、その男に遭遇する確率なんてどれほど低いことか。だけど、今までジョディさんから聞いた通り、この子がfbiと共に素晴らしい功績を収めているのなら・・・是非、力を借りたい。

ーー小学一年生に縋るなんて、馬鹿げてるけどね。




2016.05.23
「淡く透けるシルエット」

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