"バーボン"
彼と対峙した瞬間、私は悟った。この男には敵わないと。演技力と突拍子の無い行動には自信があったのに、彼は銃口を向けてもあまり動揺しなかったのだ。驚いたのは一瞬だけで、その後直ぐに私は拳銃を奪われて形勢逆転。悔しかった。ジョディさんに言われた通り、舐めてかかってはいけない重要人物なんだと思い知った。


「・・・しゅう・・・・・・」


これじゃ日本に帰ってきた意味が無い。しっかりしろ、私。1度で挫けるなんて情けない真似はしない。女だからって弱々しいと思ったら大間違いだ。もう一度バーボンを徹底的に調べ直そう。

ーーお前なら出来る。諦めるな。

そう言ってくれた、貴方のために。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「Settle down. And aim well.(落ち着け。そしてよく狙うんだ)」

「I see.(わかったわ)」


呼吸を安定させ、体中に大きく響く心臓の音は、タイミングを測る材料にしろ。今までの教えが頭の中に次々に蘇る。秀の声を思い出すと落ち着いて、自然と手の震えが止まった。ゆっくりと片目を瞑り、狙いを定める。

ーーここだ!

そう直感したと同時に、私はトリガーを引いた。乾いた音と共に弾丸が飛び出して的へ向かって一直線に・・・


「Yes!(やった!)」


当たった。飛び上がって喜ぶ私の後ろで、秀がフッと笑う気配がして、頭を軽くポンと叩かれる。

ーー良くやったな。

そう言われた気がして、私の嬉しさはMAXに達っした。遠くから見ていたらしいジョディさん達も寄ってきて私を褒めてくれる。このまま秀に拳銃の扱いをとことん教え込んでもらい、fbiの人達に囲まれて訓練をし、就職する。当たり前にそう思っていたのに・・・。

それから数ヶ月後、秀やジョディさん、ジェームズさんらが任務だと言って日本に渡った。懐かしい、幼少期に住んでいた日本。寂しさはあったけれど、私はアメリカで訓練を続けて、次に会う時には同じfbiの仲間として一緒にいたい。そう強い意志を持って一人訓練に励んだ。しかし、前触れも無く届いた突然の悲報に私の目の前に真っ暗になったのだ。


「・・・嘘でしょ・・・・・・、ジョディさん・・・。意味が、分からないんだけど・・・」

『例の組織に殺されたの。嘘じゃないわ、ちゃんと確かめたの。日本の警察でね』

「なに、それ。秀が・・・?信じられないよッ!」

『・・・・・・』


ジョディさんの重く悲しい雰囲気が、電話越しでも痛いほど伝わってきた。それが、秀の死を自分が認めようとしているようで、怖くて、嫌で・・・・・・


「絶対信じないから!!私も直ぐに日本に行く!」


一方的に怒鳴って電話を切った。ただ、国を越えるというのはそんなに簡単では無い。まだ未成年だった私には。それから長期で日本に居座ることは覚悟の上で、大学の入学手続きや住まい、色々な準備をした。その間に届くジョディさんからの情報で幾分か私は冷静さを取り戻し、秀の死を何とか受け入れ、日本に帰る目的の矛先は組織への復讐にかわった。そして、新たに興味を持った人物がいる。


"Cool Kid"


ジョディさんの話によく出てくる名前。小学一年生にも関わらずとても頭が切れるとか。初めはアメリカの諜報機関が小学一年生を相手にするなんて、とかなり戸惑ったのを覚えているけど、話を聞くにつれて自分の目で確かめたくなった。それに、久しぶりに会いたい人も日本にいる。




「真純ッ!!」


校門の前で待ち伏せた秀の妹。兄妹でそっくりな目を大きく見開いて驚く顔を見て、懐かしさが込み上げた。止まっていた真純の足が動き出し、早足になり、最後には走って私の元へ来る。ガバッと抱きつかれて少しよろめくも、お互い力一杯腕を回した。


「久しぶりだね」

「あぁ、本当に驚いたよ。でもどうして名前が日本にいるの?」

「これから暫くこっちで暮らすの」

「へぇー、そっか!それは嬉しいな!」


人懐っこい笑みを浮かべ、嬉しそうに握った手をぶんぶん振る。正直、力の強い真純のせいで手首が痛かった。それでも嬉しいことに変わりは無く、再会を心から喜んだ。


「世良さーん!!」


暫く談笑していると、真純の友達らしき女の子2人が手を振りながら駆け寄って来る。真純と違って、とても女の子らしい2人が。どうやら真純の忘れ物を慌てて持って来てくれたらしい。女子高生3人が仲良く会話してる姿を見て若いなぁなんて歳柄にもなく思ってると、ふと彼女達の視線が私に向いた。多分、誰?と聞かれている。


「紹介するよ。苗字名前って言って僕がアメリカに住んでた頃の友人さ。あ、歳は3つ上だよ」

「今は帰国して東都大学に入学し直してるから大学1年なの。よろしくね」


蘭ちゃんと園子ちゃん。2人も一緒に帰りながら沢山の話をした。今の日本で有名な若手俳優とかアイドルとか、私が全然知らない事も沢山教わった。歳は離れているけど仲良くできそうだ。相手は女子高生といえど、人脈は広い方が良い。当時はその程度にしか思っていなかった私だが、後に鈴木財閥と名探偵の毛利小五郎の存在を知ってかなり驚く事になる。そして2人の人柄に段々と心を許せるようになった。




2016.05.16
「美しい世界をおもい描いた」

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