どうしてバーボンが探偵事務所に1人でいるんだ!?ベルツリー急行以降何も動きが無いと思ってたけど、とうとう仕掛ける気になったのか、またはもう監視カメラや盗聴器の類を仕掛けたのか。・・・それに、蘭もおっちゃんもいないのはどうしてだ。


「・・・ねぇ、蘭姉ちゃんと小五郎のおじさんは?」

「蘭さんなら夕食の支度をするって言ってたよ。毛利先生の方は外出中さ」


ーー良かった。蘭は上にいるのか。
全く表情を崩さないバーボンのせいで、無駄に緊迫した空気を感じる。相手は組織一の洞察力の持ち主。一瞬でも気を緩めたら終いた。


「・・・そうなんだ!じゃあ、安室さんはどうしてここにいるの?」

「僕かい?僕はほら、彼女の依頼を受けてね」


彼女・・・・・・?てっきりバーボン1人だと思っていたが、ソファの背もたれで見えていなかったようで小柄な影がむくりと動いた。それと同時に、バーボンが何か後ろ手に隠した気がする。


「あ、コナン君お帰り。お邪魔してます」

「名前姉ちゃん・・・ッ!?な、なんでここに!?」


ついさっき、ジョディ先生が名前を探してた。

ーーあの子また勝手に拳銃持ち出して何処か行っちゃったのよ!!あんな話をした後だから心配で、早く見つけなくちゃ!

見つけたら連絡すると言って帰ってきたわけだけど、まさか探偵事務所にいたとは。・・・じゃあ、さっきバーボンが隠したのは拳銃か!?


「何でもないの、ちょっと小五郎さんのお弟子さんに会ってみたくてね」

「そういう事でしたか。初対面から随分情熱的なお人だと思いましたよ」

「・・・あんなので良ければいつでも」


何なんだ、こいつらの間で散る見えない火花は。ジョディ先生の話からするとおそらく名前が拳銃持って乗り込んだんだろうけど・・・何のために?ジョディ先生は一体何の話をしたんだ?


「あ!!名前姉ちゃん!僕行きたい所あるから一緒に来て欲しいなっ!!」

「え?わっ、ちょっとコナン君!?」


とにかく今は、名前をバーボンから引き離す事が最優先だ。


■ ■ ■


コナン君に腕を引かれ、彼女が探偵事務所から出て行く。すれ違いざまにぶつかった瞬間、拳銃を奪われた。驚くべき手際の良さで。"苗字名前"と言ったか。抜群の演技力と手癖の悪さが目立つ女性。

ーー興味が湧いた。

まずは少々探りを入れてみようか。初めはバーボンとしてではなく、"安室透"として。周囲からゆっくりと、少しずつ固めよう。そして接触して来た目的を暴き、彼女がそれを達成する前に僕が計画を潰す。暫くは暇潰しには困らなそうだ。


■ ■ ■


「ちょっとコナン君、行きたい所なんて無いんでしょ?だったらもう良いじゃない」


良くねぇよ。バーボンと2人で事務所にいたのがどれだけ危険だったのか分かってない。俺なんてまだ心臓の音が五月蝿いってのに。

俺は名前の腕を引きながら、片手で携帯を操作してジョディ先生へ連絡する。返事はすぐに返ってきて、この先にある駐車場で落ち合うことに決まり、角を曲がった。バーボンが正体がバレたのにも関わらずポアロに戻って来た理由が分からねぇのに、容易に接触は出来ない。なのにコイツはどうしてこうも突っ走るんだ。・・・らしくねぇ。普段はもう少し冷静なはずだ。何か俺の知らない理由でもあるのかもな。


「・・・駐車場・・・・・・?ちょっとコナン君、もしかしてジョディさん呼んだ?」


コイツなら駐車場に着いただけで予想はつくか。苦い顔をして踵を返した名前の前に、ちょうど良いタイミングで見慣れた車が停車した。その時点でもう諦めたのか、いつの間にかバーボンから奪い返していた拳銃を出して"大人しく返す"というように両手を上げる。


「名前ッ!!」

「ちょっ、ジョディさん怖い」

「怖いじゃないわよ、全くもう!」


そこからジョディ先生の長い説教が始まるが、名前は殆ど聞き流している。その合間に垣間見える、どこか遠くを見ているような表情が引っかかった。


「もう絶対に1人でバーボンに接触したりしないで。いい?」

「・・・はーい」

「それじゃあ今日はもう、このまま真っ直ぐ家に帰りなさい」

「はいはい。あ、コナン君久しぶりに遊びに来る?」

「ううん、今日はやめとくよ」

「そ、じゃあまたね」


去っていく背中を見送ってから、俺はジョディ先生に聞いた。名前に何の話をしたのかと。相手がバーボンだったから熱くなっていたのか、それとも組織の人間が身近にいたからなのか。その答えが知りたい。


「昨日・・・秀の話をしたのよ」

「えっ、赤井さん?」

「えぇ。ほら、あの火傷の男の正体が毛利探偵事務所の下にあるポアロでバイトしている安室透って男だって話したの。そしたら、いても立ってもいられなくなったのね、きっと」


名前も赤井さんと交流があったとは、知らなかった。アメリカ育ちだって言ってたし、ジョディ先生達fbiと出会ったのは向こうって事か。


「拳銃の扱いを教えたのも秀でね、成績優秀な彼女をfbiに引き入れようって話が上から降りてきた時から本部には何度も出入りしていたの。秀も素質があるって、名前を可愛がってたわ。勿論、師匠と弟子のような関係で、だけど」


なるほど・・・。赤井さんの敵討ちのつもりだったのかもしれない。だけど、奴らは突発的な行動では壊せない。練りに練った計画で無いと、かえって俺らのぼろが出る。これから名前が無茶しないように気に掛けとかねぇとな。




2016.05.11
「虚しい正しさを越えて」

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