「ここ、だよね・・・?」


私が休日に訪れたのは、阿笠博士宅の隣にある"工藤さん"のお宅だった。"久しぶりに帰国して有希子さんに会うから名前もおいで"と母親から呼び出されて来たのは良いものの、幼稚園の頃に何度か来たことがあると聞いても思い出せない程の月日が経っている。もちろん有希子さんは大女優だったわけだし、母と仲が良いから何度かお会いしたのは覚えているけれど・・・問題はそこじゃない。

確か今は、沖矢昴がコナンくんのつてで此処に住んでいるはず。工藤家とは遠い親戚だと本人は言っていたけど、それだけで沖矢さんを住まわせる権限が有るのはどうもおかしい。

家の前で考え込むよりはさっさと家に入ろうとインターホンを鳴らそうとした時、背後に人の気配がした。日本に帰国してから数週間後辺りから感じるそれ。組織の人間に目を付けられたのか、ただのストーカーか。前者ならばと考えると下手に行動するわけにもいかず、確かめるのは困難で放置してしまっていた。今、工藤邸の門の辺りにいる影まで不意打ちで走ったら・・・姿を確認出来たりしないかな。

一か八か、思い切り走ってみよう。

時には、そんな馬鹿みたいなやり方が1番良いこともあると私は思う。


「・・・・・・わっ」


意を決して、踵を返して走り出そうとしたその時、私は何かにぶつかって道を阻まれた。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい・・・、お、沖矢さん」


鼻を擦りながらぶつかった人を見上げれば、薄く笑みを浮かべた彼が立っていて、背後にいた存在に気が付かなかった自分が不思議だった。


「あの、いつから後ろに立ってたんですか?」

「買い物に行って帰って来たら、貴方がなにやらドアの前で考え事をしていたので丁度声を掛けようと思った所です」


沖矢さんと会話をしていて気がついた。いつの間にか、門の付近にあった気配が消えている。

ーーどうして?


「沖矢さん、門の辺りで誰か見かけました?」

「さぁ・・・、誰も見ていませんけど」

「・・・・・・そうですか」


人の気配は私の気のせいだったのかな・・・。


「立ち話も何ですし、そろそろ中に入りませんか?もういらしてますよ、あなたの母親とこの家の家主が」

「ぇ・・・貴方も一緒にお茶を?」


彼が持っている近所にある紅茶屋の紙袋を見て、私は顔を顰めた。怪しい大学院生と母親達と私・・・一体どんな会話になるんだろう。

そんな私の心配を汲み取ったのか、沖矢さんが笑顔で答えた。


「安心して下さい。私は出かけるついでに頼まれ事をしただけですし、これを置いたらまた用事ですぐに出ますから」


決して嫌いなわけではないけど、そう言われてホッとしてしまった。なんとなく、見透かされているような気持ちになるからこの人は苦手だ。






「あら名前ちゃん久しぶり!益々綺麗になったわねぇ!」

「お久しぶりです、有希子さん。お母さんも久しぶり」


沖矢さんに連れられてリビングに行くと、2人は既に久々の再会を終えて一盛り上がりしていたようだ。そして沖矢さんは紅茶の袋を置くと早々に出かけて行った。


「久しぶりね。だけどジョディさんから聞いてるわよ?名前がまた無茶してるって」


ーーまさか、お母さんにまで連絡がいってるとは思わなかった。これからは要注意ね。秀にお世話になっていた事も知ってるし、余計な心配はかけたくないし。

ちゃんと細心の注意を払って行動している事を後で説明しようと考えたい所だが、今はそれよりも驚いた事がある。


「でもまさかコナンくんがいるとは思わなかったわ」

「えへへ。僕有希子おば・・・お姉さんの遠い親戚だから!よく新一兄ちゃんとこの家で遊んだりしてたんだ!」


それだけで沖矢さんに家を貸す権利があるのかしら。

無意識で溢れたこの言葉に、有希子さんがにっこり笑って"勿論、最終的に私と優作が許可したのよ"と答える。だけど2人は海外にいることが多いからいいとしても、息子である工藤新一くんはどうなんだろう。


「新一なんて全然帰って来ないから、気にしなくていいのよ!それで今日新・・・コナンくんを呼んだのは、名前ちゃんにいつもお世話になって聞いたから」


ーー新・・・コナンくん?


「いえ、そんな。私もコナンくんやその友達には癒されてますから」


その妙に頭が切れる所だけは引っかかるけど、やっぱり子供は子供。見ていると可愛い部分が沢山ある。


「そう?じゃ、ほら名前ちゃんも座って!女子トークでもしましょ?」

「はい、ありがとうございます」


私はそう言われるがままに席に着き、久しぶりの再会を楽しんだ。



2017.03.16
「賑やかな花」

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