私の持ち物が役に立たず落胆した子供たち。ただ、コナンくんは切り替えが早い。充電切れ間近だという光彦くんの携帯電話を使って高木刑事に連絡を取ろうと試みた。


「ダメだ・・・繋がらねぇ・・・・・・。しゃーねぇな・・・阿笠博士に電話して事情を話すか・・・」


残念ながら高木刑事は電話に出ず、気を取り直して阿笠博士に連絡をする。電話に出たことには出たが、一方的に手が離せないと言われ、博士が再び電話に出るまでに携帯の充電が切れてしまった。今日はとことんついてない。そう思わずにはいられない不運の連続だ。


「オメーら、持ってる荷物を俺の前に出してくれ」


なんとか解決の糸口を探そうと、私も子供たちの荷物を覗き込む。だけど熱に侵された私の頭では何も考えられるはずが無かった。ここら辺でジョディさん達が奇跡的に助けに来てくれたりしないかな、なんて随分幼い思考に呆れてしまう。これも熱のせいだろうか。暫くコンテナの隅に膝を抱えて座っていると、子供たちが何か作業を始めた。


「何かあったの?」

「うん、見つけたんだ!良い方法を!」

「えっ、ほんとに?」


コナンくんが手にしているのは、綿棒とかゆみ止め。これで上手くレシートに細工をして誰かに届けようとしているみたいだ。


「corpse・・・死体・・・・・・なるほどね。で、これを誰に?まさか微かな隙間から外に出すとか言うんじゃ・・・」

「違うよ!ちょっと名前さん耳貸して!!」


私は言われるがままにコナンくんに向けて耳を傾ける。そしてこの作戦の詳細を聞いた。


「次の配達は5丁目。大尉が夕方になると餌を強請りに行く場所・・・、名前さんも知ってるでしょ?」

「・・・・・・待ってコナンくん。それって、あの男に助けを求めるって事?」

「うん。残念だけど、今は他に方法が無いんだ!」


ーー確に、バーボンなら簡単にレシートの暗号を解いてしまうだろう。

敵に力を借りるというのは屈辱でしかないが、コナンくんの言う通り他に方法が無い。一刻も早く子供たちを安全な場所に連れていく責任が私にはある。


「いいよね、名前さん」

「えぇ。あの頭脳は疑わないわ」


私達は次にコンテナが開くのを息を潜めて待ち、レシートを首輪に挟んだ大尉に全てをかけた。


■■■


「遅いですね・・・」

「そろそろ着いてもいい頃だけど、やっぱり途中で何か・・・」


暫くジッと寒さに耐えていた子供たちも、時間が経つに連れて不安も大きくなる。寒さの中で助けを待つのはとても時間が長く感じた。荷物も減ってきて、私が隠れられるスペースも無くなって来ていた。


「ちゃんとお家に帰れるかな・・・」


ポツリと、歩美ちゃんが小さく呟いた。


「歩美ちゃん、皆も、こっちにおいで」


大丈夫な筈が無い。こんな所に閉じ込められて。私だって不安なんだから子供たちはその何倍も怖くて怖くて仕方ないんだ。不思議そうに寄ってきた歩美ちゃん達をめいいっぱい腕を広げて抱きしめた。


「こうしてた方が寒さもマシになるでしょ?」

「本当だ!おしくらまんじゅうみたい!」

「おお!あったけぇ!」


素直な反応に私も嬉しくなった。これで少しでも安心してくると嬉しいんだけど・・・。もし、バーボンに大尉に任せたレシートが届いてなくて、誰かが凍傷になりかけるなんて事があったら、次にトラックが止まった時に私が囮になる。子供たちを逃がす時間くらいは稼げる筈だし、被害も最小限で済む。その強硬手段を頭に描いていた時、小さくコナンくんが声を上げた。次から次へと助かるかもしれないチャンスが訪れるのは、彼の十八番なのだろうか。この後博士の家に届く予定のケーキが積んであり、これから向かうのがその博士とやらの家らしい。そして、閃いたコナンくんの行動は早かった。伝票に何かを書き加えている様子だが、背中を向けているせいで見えない。本格的に頭痛が酷くなり、ボーッとしているせいか"工藤様方と書き加えられるのは俺だけだ"という不信な言葉をそのまま聞き流していた事に気が付かなかった。

ーーこれで、助かるのかな・・・。

積まれた荷物の隙間からコナンくんが細工をした箱が無事に運ばれるのを見ると、安心してしまったのかいよいよ意識が遠のいた。




2016.08.20
「隠れたSOSを見つけて」

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