今日は、少し熱っぽくて調子があまり良くない。大学の講義は休み、家で大人しく寝ていて、気分転換も兼ねてコンビニへ出掛けた。それがこの1日事件に巻き込まれ、更に最悪の展開へと進むことになるとはこれっぽっちも思いもせずに・・・。


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「あ!名前お姉さん!!」


小さな鞄、近所の範囲でしか許されないようなラフな私服。何を考える訳でも無く、ただボーッと一本道を歩いていると、高くて可愛らしい声が聞こえた。一気に現実に戻されたようにハッとして振り向くと、車道を挟んだ反対側に少年探偵団の皆がいた。相変わらず、皆揃っていて本当に仲が良い。


「名前お姉さんお願い!たいちゃん捕まえて!!」

「えっ?たいちゃん?」


誰のことかと思ったが、目の前に止まっているクール便の側に最近よくポアロに餌を強請りに来る三毛猫の大尉がいる。子供たちの言う通り大尉を捕まえようとガードレールを越すと、大尉がトラックの中に飛び込んでしまった。信号を渡ってくる探偵団を尻目に前に回ってトラックの運転席を覗き込む。


「誰もいないわね・・・」

「じゃあ中に入って連れ出すしかないですね!!」


光彦くんの言う通り、私達はコンテナの中に足を踏み入れた。ーー寒い。冷凍車だ。それに、思っていた以上に中が広い。だけど歩美ちゃんの呼びかけに答えるような大尉の鳴き声がした。


「あ!いた!」


コンテナの奥の方にいた大尉の元へ皆が駆け寄る。私も一緒にしゃがんだ瞬間に少し眩暈を感じた。大尉も見つかったし、帰ったら明日に備えて寝ようと思ったその時。


「ったく、また扉開けっ放しじゃねぇか」


戻って来た従業員の声がして、私達が声を掛ける間もなく扉が閉まってしまった。慌てる3人。冷静な私と哀ちゃんとコナンくん。コナンくんがライトで照らした伝票を見れば本日指定の荷物がまだ沢山あった。次に止まった時に出ればいい。そう思って安心するのは当然だ。

しかし、次の場所へ近付いたのか、スピードが落ちて来て車が止まるかという時に哀ちゃんの服がほつれて全部持っていかれてしまうというハプニング起きた。それによりまだコンテナから出られずにいると、宅配業者達の怪しげな会話が耳に入る。"玄関先で荷物を落として顔と名前を覚えてもらう" "大事な証人だから"そして、"声なんて出せるわけがない"。これは只事では無いと感じた私は、物音を立てない程度に荷物を調べようとしたがそれより先にコナンくんが動き始めていた。


「コナンくん・・・今の会話、聞こえた?」

「うん。だからこうして・・・ぁ・・・名前さん、やっぱり先客がいたみたいだよ・・・」

「・・・・・・ッ!?」


コナンくんの視線に促されるままに大きなダンボールを覗くと、そこには死亡した男性の姿があった。事件に首を突っ込む事はあっても、こんな間近で死体と対面した事は無い。体調不良のせいもあってか眩暈がして思わず尻餅をつきそうになった。


「名前さん?大丈夫?」

「大丈夫・・・だけど、一刻も早くこの状況をどうにかしなくちゃ」

「そうだね」


死体を見て驚く少年探偵団。それでも私よりも切り替えが早い気がする。恐るべし。私は間接的に事件の話を聞く事はあるけど、こうして当事者になると話が別だ。恐怖と不安。そればかりが私の胸を支配した。頭痛もより一層酷くなった気がする。


「名前さん、だったわよね」

「え?うん・・・」

「貴方もしかして熱でもあるんじゃないの?」


子供たちに聞こえないようにひっそりと私に声をかけてきた灰原哀ちゃん。今まで何度も会った事はあるけどまともに話すのは初めてだ。


「大丈夫よ、少し寝不足なだけだから」

「・・・・・・別に私に隠す必要無いわ。きっとすぐに江戸川くんがどうにかしてくれるから。あと少し辛抱するのね」


コナンくんもそうだけど・・・この子もかなりませてるのね。本当に冷静みたい。考え込むコナンくんを不安そうに見ている3人とは違って、随分信頼しているみたい。


「信じてるんだね、コナンくんのこと」

「別に・・・。もう慣れたのよ。こうして厄介事に巻き込まれることに」


なるほどね。とても子供とは思えない落ち着きのあるこの2人は、良き理解者ってとこかしら。


「あ!ねぇ名前さん!携帯持ってるでしょ?それで警察に電話しようよ!」


"いつも大体少年探偵団しかねぇから大人がいるって忘れてたぜ"と嬉しそうに言いながら手のひらを見せるコナンくん。

ーーいやぁ、申し訳ない。


「「・・・・・・えーーっ!!持ってないの!?」」

「ご、ごめん・・・。ちょっとコンビニ行くつもりで出てきたからお財布とメイクポーチしか持ってなくて・・・」

「どうりで。鞄が小さ過ぎると思ったわ」

「哀ちゃん鋭い・・・」


子供達に希望を失った目で見られて、本当に申し訳なく思った。今度からはいつ事件に巻き込まれても良いように必要最低限の持ち物は持ち歩くべきね。




2016.07.19
「皮肉な巡り合わせ」

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