「あ、ごめんね赤井さん。わざわざ来てもらって」

「いいや、気分転換に外に出ようかと思ってたからちょうど良かったよ」


明日は朝練だからと先に寝た蘭、そして完全に寝落ちする前に何とか自室に戻らせたおっちゃん。残ったのは、気持ち良さそうにソファで眠る名前さんだった。子供の俺じゃどうにも出来ないし、ジョディ先生達は最近忙しそうだし。だけどダメもとで赤井さんを呼ぶと快く来てくれた。


「赤井さんって名前さんの家知ってる?」

「住所を覚えているから大丈夫だ。名前が急に日本に戻ると言い出した事はジェームズさんに聞いていたよ」

「そっか。名前さんに会うのは久しぶり?」

「あぁ。奴らを追って日本に来てからは1度も会ってなかったからな」


赤井さんがそっと頭を撫でると、名前さんが小さく唸って寝返りを打った。そしてゆっくりと目を開ける。


「え・・・?あれ・・・・・・?」

「名前さん、おはよ」

「あ、コナンくん。ごめん私ちょっと寝ちゃってた?」


いや、かなりの時間な。


「とにかく起きてくれて良かったよ。おじさんが寝ちゃったから沖矢さんに送ってもらおうと思って呼んだんだ」

「沖矢さん・・・?」


ボーッと沖矢さんを見つめる瞳は、まだ深い眠りから覚めていないようにも見える。それはそれで都合がいい。沖矢さんに変に興味を持たれたら困るからな。万が一正体が赤井さんだとバレたら、名前さんがバーボンや他の奴らに突っかかる理由が無くなる。突然突っかからなくなればバーボンも怪しむだろうし、そこからバレるって事もあるかもしれない。


「沖矢昴です。よろしく」

「・・・あ、苗字名前です」


よそよそしく挨拶をしている様を見ると、その心配は無さそうだ。


「それでは、行きましょうか。車は下に止めてありますので」

「折角ですけど大丈夫です。歩いて帰れますから」

「いえ、送ります。この時間に酔った女性の1人歩きは危険ですよ」


昴さんにそう言われても、警戒心が強い名前さんはまだ渋っている。たった今知り合ったばかりの人の車に乗るのは気が引けるようだ。


「じゃあ僕も一緒に行くー!お酒弱いのに負けたく無いからって無理した名前さんの事ほっとけないもん!!」

「・・・・・・あー・・・もう。分かった。コナンくん明日学校でしょ?早く寝なさい。私は沖矢さんに送ってもらうから」

「うん!分かった!」


はぁ、と頭を抱えながら溜息をついた名前さんはゆっくりと立ち上がり大人しく沖矢さんの後に着いて行った。


■ ■ ■


「警戒、してます?」


車に乗って、沖矢昴という人が初めに発した言葉はこれだった。こんなに怪しい人を警戒しない方がおかしいと思うけどね。私の方を見て薄く笑みを浮かべている沖矢さんに向かって正直に答えた。


「小学生に呼び出されて二つ返事で来れる大人ってどうなんです?貴方達の関係は知りませんけど」

「まぁ、確かに。コナンくんは只の恩人ですよ。火事で住む所の無くなった私に使っていない知人の住む家を借りれるように手配してくれたのでね」


知人の使っていない家・・・。それを手配出来る権利がどうしてあの子にあるっていうの。


「それにしては少し・・・」

「少し・・・?」

「いえ、何でもないです」


お互いをよく理解しているような視線の交わし方だった気がしたけど、何を言ってもはぐらかされるだけだろうし。安室透の他にも、気になる人が出来てしまった。学生もやってるんだからそんなに調査に割ける時間は無いのに。


「ここを左ですか?」

「あ、はい・・・もう近いのでそこで大丈夫です」

「そうですか」


必要以上に静かに感じる車内。居心地は最悪で、早く降りたいのが本心だ。何故かこの人の隣に座っていると全て見透かされたような気になる。そこが少し秀と似てるかなって。だけど秀は全然居心地は悪くないし寧ろ落ち着く。だから私の住むマンションが見えた時、やっと着いたとホッとした。


「ありがとうございました」

「いえ、お気をつけて。お酒の飲みすぎにも」

「そうですね」


冷めた口調で言い放ち助手席のドアを閉めようとしたが、何故か彼の腕がそれを抑えている。ひょろっとしているように見えて案外力が強いらしい。


「何が上手く行かなくてやけ酒をしたのか知りませんが・・・貴方なら出来ますよ。諦めなければ。ただし、無茶はしないように」

「は・・・・・・?」

「得意でないお酒をあんなに飲んだのは何か理由があるのでしょう?でも人の家で眠ってしまうほど飲むのは感心しませんね」

「・・・ご忠告どうも」


ーー何なのこの人。どうして私の行動に口出しするのかしら。しかも何気に当たってる所がムカつくわ。

私は今度こそ助手席のドアを思いっきり閉めた。

車の方を振りかえること無く真っ直ぐにエントランスへ向かう。どうも私の周りは上から物を言う人が多いらしい。だけど、、、

"貴方なら出来ますよ。諦めなければ。"

その言葉が胸の深くに刺さった。あまりにも秀が私にくれた言葉に似ていたから。




ーーお前なら出来る。諦めるな。




2016.07.05
「弱き星が雨に撃たれるまえに」

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