「あ、ジョディさん!」

「えっ?」


高木刑事の声に振り向くと、私の元へ向かって大股で歩いてくるジョディさんが目に入った。怪我の連絡するだけだと思ってたのに、普通に来てるよ。私にお説教するために。


「名前が無茶ばかりしたみたいでごめんなさいね。ほら、ちゃんと頭を下げて」

「わっ、あの・・・すみません・・・」

「いえいえ!名前さんのおかげで犯人を捕まえることが出来たんですよ!」


ジョディ先生が名前さんの頭を下げさせている光景が視界の片隅に映る。蘭がまるで保護者代わりねと囁いた通り、かなり親しいようだ。"まだ"fbiでは無いというニュアンスには多少引っかかるものがあるが、多分、信用出来る。アメリカの大学を飛び級で卒業していると言うことは、とても優秀で頭は切れるだろう。今回の事件の推理も完全に理解している気がしたし、上手く協力出来そうだ。


「流石ね、Cool Kid ! あっという間に事件解決だったみたいで」

「あ、ジョディ先生。そんなこと無いよ、名前さんが手伝ってくれたおかげなんだ!」


今この場には、おっちゃんも園子も居なかったからな。探偵役がいないからって軽率に新一の声で電話するのはまずい気がして、ちょっと無茶なやり方しちまったよ。でもまぁ、時間をかければ上手く誘導する事も出来たかもしれないけどな。
殺害するまでの計画しか頭になかった、後先を考えられないタイプ。階段付近のゴミ箱に返り血の着いた服を捨てる単純なフェイク。そして被害者の携帯電話までそこに捨ててしまう杜撰さ。単純で熱しやすい性格だと分かれば挑発に乗ってくるのは目に見えた。素人では無い名前さんの本気の演技なら、確実に。


「それじゃあ、私達はもう帰りますね。夕飯の支度があるので。名前さん、今度は園子も一緒にスイーツ食べ放題行きましょうね!」

「うん!気をつけて帰ってね」


また行くのかよ。スイーツ食べ放題・・・。


■ ■ ■


蘭ちゃんとコナンくんと別れてから、私はジョディさんの車に乗り込んだ。駐車場まで歩く中で、私があの小学生をfbiが信頼するのも分かると伝えると、ジョディさんは、

"秀が一目置いた子だもの"

そう言って笑った。


「その傷が治るまでは大人しくしてなさいよ?本当に無茶するのが好きなんだから」

「でも早く・・・火傷の男の正体を突き止めなきゃ・・・」

「え?名前に言ってなかったかしら、火傷の男の正体」


火傷の男の、正体・・・?


「えっ?分かったのッ!?」


思わず身を乗り出すと、運転中だから危ないでしょと怒られた。だけど、そんなの聞いてない。ここ2、3日ほぼ寝ずに情報を集めていたのに、あっさりそんな事言われたらこうなるって。


「この前お花見に行くって話したでしょ?その時に彼が・・・コナンくんが、教えてくれたのよ。あとベルツリー急行の爆破も奴らの仕業だったってね」

「あの事件が・・・」


ニュースで見て気になってはいた。原因不明な事ばかりで明確なものは何も報道されていなかったから。・・・そっか、それも奴らの・・・。でも、今気になるのはそれじゃない。火傷の男の、正体。


「・・・あれは、秀が本当に亡くなったか調べるために組織の男が関係者の周りを彷徨いていただけだったのよ」


思い出す、秀が死んだと聞いた時の悲しみ、怒り、それを通り越した後の虚無感。立ち直るのにどれだけの時間がかかったか・・・。死んだ人に変装して、街を彷徨くなんて・・・許せない、絶対に。


「・・・で、その成り済ましをしていた人は誰なの」

「安室透と名乗る男よ。毛利探偵事務所の下にあるポアロって喫茶店で働いているみたい。コードネームは・・・バーボン」


ーーバーボン・・・。
黒づくめの組織の一員。その後集めた情報によると、観察力や洞察力、情報収集力に優れているらしい。厄介なのは分かってる。だけど、人に任せるなんていうのは性に合わないから、私の手で、奴らの尻尾を掴むッ!!











「あ、もしもし。蘭ちゃん?」

『はい、蘭です。どうかしました?』

「実は相談があってね・・・」


私は話した。知らない人にストーカーされていること、優秀な探偵さんを紹介して欲しいということ、出来れば護衛の際に彼氏だと勘違いされるくらいの若い人がいいということ。ストーカー被害に遭っていると聞いて、"え!?"と大きな声を上げ、本気で心配してくれる彼女に酷く心が痛んだが、これが怪しまれずにあの男に近づく1番の方法だと考えた。

優秀な探偵、若い男と来たらきっと蘭ちゃんは・・・


「あ!それなら丁度良い人がいますよ!!お父さんに弟子入りしてるんですけど、凄く頭が良いんです!」


ほら、当たり。秀の敵討ちのためならどんな手段も駆使してやる。そして、組織を壊滅に導くんだ。




2016.06.19
「祈りよお前は何者だ」

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