恋のクッキング - 2016.05.08(加筆修正)「名前ー!いるかーっ?」
ちょうど良い暖かさ、雲のない真っ青な空。穏やかな波が太陽の光で反射してキラキラと輝いている。そんな穏やかな一日にも関わらず、ドタバタと騒がしい音を立てて、ルフィが名前を探していた。甲板や風呂場をパッと見渡した後に辿り着いたのは女部屋。中からの返事を待つまでもなく、ドアが壊れてしまうのではと心配になるほど強く開け放たれた。
「ちょっとルフィ、ナミがいたら怒られるよ?」
ゆったりとしたソファに身を沈め、本に目を落としていた名前が顔を上げた。
「ナミがいねぇからいいだろ?なぁ名前、俺腹減ったんだよ・・・何か作ってくれ!」
「え、私?サンジくんは?」
「サンジの奴、町に買い出しに行ってまだ戻って来ねぇんだ!だから頼む!!」
可愛い弟のためなら仕方がないと、名前は読みかけの本に栞を挟み、2人は並んでキッチンに向かった。
□□□「早く、早く、メシメシ飯ーっ!」
「おい」
「・・・・・・痛ってェー!!あ、サンジ!何すんだ!」
エプロン姿の名前の背中に向かって早くと声をかけていたルフィに、強烈な蹴りが打ち込まれた。ルフィが頭を抑えながら振り向くと、両手いっぱいに買い物袋を持ったサンジが仁王立ちしている。
「ったく、なにテメェは名前ちゃんに料理作らせてんだよ!さっきだいぶ食っただろうが!」
「だってよォー、もう腹が減って死にそうで」
「だってもクソもねェ!!お前のせいでまた食材買い足しに行ったんだからな!?」
どうやらその買い物袋の了解は全てルフィのせいらしい。言い争いになる2人を見て微笑みながら、名前はサンジに”お帰り”と声をかけた。
「名前ちゅわん!愛しのサンジ、只今帰りましたぁ!!」
「・・・はは。あ、サンジくん。帰ってきたばかりで悪いんだけど、少し手伝って貰える?」
「勿論です!!」
直ぐに買い物袋を片付け、サンジはアップルパイ作りを手伝い始めた。名前は途中だった生地作りを再開し、サンジは山積みの林檎に手を伸ばす。1味全員の分となるとかなりの量だ。
黙々と作業を続ける中・・・・・・
「・・・・・・サンジくん?どうしたの?」
「えっ!?」
時々自分の方を見て、手の止まるサンジを不思議そうに名前が見上げる。
「私、なんか変?」
「いやいや、そんなことないよ!その・・・それ、ナミさんの服だよね?」
「そうなの、ちょっと大きいんだけどね」
勿論、サンジが気にしていたのはナミの服を着ていると言うことではなく、露出度の問題。今は夏島の港に船を停めているからとはいえ、剥き出しの肩に、チラチラと見え隠れするおへそがたまらないのだ。
「ナミさん凄くスタイル良いし、私には似合わないんだけどね!」
そう言って控えめに笑う名前に、サンジは心を鷲掴みにされてしまう。
「いやいやいやいや!そんな事無いよ!本当に似合ってる!すっごく可愛いよ!」
「本当?お世辞でも嬉しいっ」
今度はにっこりと満面の笑みを浮かべる名前を見て、逆上せてしまいそうになる自分を必死に抑ているサンジの苦悩など誰も理解できまい。
「おいサンジぃー、まだかよォ」
2人の和やかな雰囲気に水を刺すように、ルフィが手元を覗き込んだ。
「わかったからお前は引っ込んでろ!」
サンジに邪険に扱われ、”じゃあそれまで外で遊んでくる”と言って、チョッパーとウソップの賑やかな声が聞こえる甲板へと走って行った。
「サンジくん、これ、こうであってる?」
「ん?あぁ、それであってるよ。名前ちゃん器用だね」
「そう?ありがとう」
サンジの手伝いを順調に進める名前。
元々器用な彼女は覚えも早い。
「でもいいのかい?買い物にも行かずに手伝ってくれて」
「いいのいいの!私戦ったり出来ないから、せめてこうゆうとこで役に立たないとね!」
「そんなの、名前ちゃんはいてくれるだけでいいのに〜」
目をハートに、体をくねくねさせながら彼女の手を取るサンジ。名前は少し苦笑いしながら”サンジくんは優しいんだね”と返した。なぜかそのまま、向かい合った形の2人。中々離れない手に困惑している名前が視線を上げると、いつもの緩み切った表情とは違う、真剣な顔つきのサンジと目があった。
「・・・・・・っ」
ーーあ、あれ・・・?なんか、今心臓がトクンって。
「名前ちゃん、俺・・・」
「えっ?な、なに?」
今の熱い視線で、サンジを意識してしまったからなのか、急に激しく音を立て始めた心臓。名前はその鼓動を抑えることで精一杯だ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ジーーーッ。
「なっ、お前ら!!」
「み、みんな!いつからいたの?」
視線を感じて2人が振り向くと、少し開いたドアの隙間から、チョッパー、ルフィ、ウソップが団子三兄弟のようにこちらを覗いていた。
「「「別に何も見てねェぞ」」」
「嘘つけェェ!!てめェら全員おやつは無しだァァ!」
珍しく真っ赤な顔でムキになるサンジに、楽しそうにチャチャを入れる2人と一匹。
「ふふっ」
おかしな光景に、名前も思わず笑い声をもらした。
ーーそういえばさっき、何て言おうとしたんだろう。まぁ、今度でいっか。
騒がしい声と、名前の笑い声と共に、穏やかな今日は過ぎて行く。
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