古→キョン

放課後、誰に強制されるわけでもなく元文芸部の部室へと足が動く。
ドアを開けると、大体いつも最初に来ている長門さんがいなくて、一人で外をぼんやりと眺める彼だけがいた。
その横顔がどこか憂いを帯びていて、挨拶をするのも忘れてつい見惚れてしまった。
すると、視線に気付いたのか彼が顔をこちらに向けてきた。
「よぉ、古泉。そんなとこ突っ立ってないで早く入ったらどうだ。」
彼と二人きり、という状況に少し浮き足立つ。
「そうですね…ところで、今日は皆さんまだ来ていないのですね。」
なるべく自然に自分がいつも使っている椅子へ座る。
「ハルヒは日直、朝比奈さんはお茶用の水を汲みに。長門は分からんがその内来るだろ。」
「成程…では皆さんが来るまで一勝負、どうですか?」
いつも通りそう持ちかけると、やはり彼もいつも通り また俺が勝つな、と言いながら椅子を僕の向かいへ移動させた。
「今日は何にするんだ。」
「そうですね、久々にオセロにしましょう。」
白黒の駒を置いていくだけの単純なルールでも、中々奥が深いこのゲームが好きだった。
ただ勝てたことはないので、下手の横好きという言葉が僕にはぴったりだろう。

暫くの間、お互い無言で盤上に意識を集中させる。
最終的に盤上は黒…彼の色の駒で殆ど埋め尽くされてしまった。
「古泉、お前本当下手だな…」
彼が若干呆れた様にそう呟いた。
「何故でしょうね…僕が弱いんじゃなく、あなたがお強いだけじゃないですか。」
そう返すと彼は いやお前が弱いんだよ、と笑った。
彼が笑うところなんて滅多に見れるものではないので、すぐに顔が赤くなるのが分かった。
今までオセロに集中していたから特に意識していなかったけれど、今自分は彼と二人きりなのだということを思い出し、余計に緊張してしまう。
怪しまれないように、そうですねと相槌を打ちながら盤上の駒を見つめる。
彼の方も、特にすることがなくなったのだろう、再び窓の外を見ていた。

暫く続いた静寂を破ったのは、彼の方だった。
「そういえば、お前最近顔色悪いよな。」
驚いた。
確かに最近睡眠不足で、あまり体調が良くないのだ。
それに彼が気付いてくれていたことが、たまらなく嬉しかった。
「えぇ、最近涼宮さんの機嫌が悪いようで閉鎖空間が度々…。」
原因はきっと彼だろう。
張本人は気付いていないだろうけれど。
「あいつ何かあったのか…特に変わった様子は見られないが。」
何故こんなにも鈍感なのだろうか。
まぁ、彼が色恋沙汰に敏感だったら僕の想いにも気付いてしまうかもしれないから、これはこれでいいのだけれど。
そして僕は、彼を好きだということを自覚してから言いたくなくなった台詞を言う。
「あなたが涼宮さんとくっつけば、全ては解決するのですよ。」
彼が否定するのは分かっているけれど、やはりこの台詞を言うのは辛かった。
「それは無理だって何度も言ってるだろ。」
そう言われる度少し安心した。

機関にとっては、彼と涼宮さんが結ばれるのが理想なのだ。
けれど心の何処かでそれを望んでいない自分がいる。
僕は機関の人間なのに、と一人自嘲する。
いくら彼のことが好きでも、この想いを告げることなど出来ない、してはいけない。
それはよく分かっている。
人を好きになるのが、こんなに辛いことだとは知らなかった。
知りたくなかった。
いつまでこんな思いをしなければいけないのだろう。
彼のことを、なんとも思わなくなる日はくるのだろうか。

そんな様々な思いが頭の中を駆け巡る。
先のことなんて分からない、その時になれば分かることだろう…そう自分自身に言い聞かせ、せめてこの二人きりの時間が少しでも長く続くよう祈りながら目を閉じた。


end.

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朝比奈さん水汲み遅いですねっていう突っ込みはなしですよ。


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