福エイでエイプリルフール

「新妻くん」
今日のノルマが終わったので、俺は机に向かい奇声を上げながら漫画を描く新妻くんに声をかけた。
少し待っても返事がない。
いつも新妻くんが聴いている音楽のボリュームの大きさと、新妻くん自身が発する奇声のせいでやはり俺の声は届いていないようだ。
今度は少し声を大きくして呼んでみた。
「新妻くーん!」
それでも彼は、まるで手を止めたら死ぬんじゃないかって勢いで原稿の上で手を動かし続けている。
仮にも俺は新妻くんの恋人だ。
いつまでたってもこっちを見ない自分の恋人の後ろ姿を見ていると、少し寂しくなった。
仕方ない、邪魔をすると怒られる…そうなるとなかなか機嫌を直してくれないのだ。
諦めて携帯を手に取る。
迷惑メールが来ていたのでそれを削除し、待受画面に戻る。
ふと下にいつも流れているニュースを見ると、そこには「4月1日、今日はエイプリルフール!」という字がのろのろと動いていた。
忘れていた、今日はエイプリルフールだったのか。
それならやっぱ嘘を吐かなきゃな!と意気込み、再び新妻くんに呼びかける。
どうせこのままじゃ聞こえないだろうからと、コンポの電源を切った。
新妻くんが不思議そうな顔で、電源を切った俺の手を見つめた。

「新妻くん」
「…どうしたんですか?」
あれだけ忙しなく動かしていた手を止めてこちらを向く姿に少し嬉しくなる。
「もう原稿終わった?」
「はい、今描いてるのは次の号のですから。」
相変わらず早い…俺と中井さん居る意味ない気がする。
「そっか。じゃあちょっと言いたいことあるんだけどさ」
「なんですかー改まって!」
「うん、あのな」
新妻くんが一番騙されそうな嘘はなんだろうか。
そう考えて出てきたひとつの嘘を、新妻くんの目を見ずに吐く。
「俺、新妻くんのこと嫌いになったわ」
嘘だけどな!
こんなこと目を見て言うのは無理だった。
どうせバレるだろうなーと思いながら、何も言わずに黙ったままな新妻くんの顔をちらりと見やる。
「…え!」
「…僕なにかしましたか?」
今にも泣き出しそうな顔で俺を見ながら、別れたくないです と消え入りそうな声で呟く新妻くん。
信じちゃうのか!という驚きよりも、しまった、という後悔の方が大きい。
「ごめん新妻くん!嘘!今日エイプリルフールだから!」
と慌てて弁解した。
すると新妻くんはきょとんとこちらを見、自分の携帯で日付を確認すると、何故か泣き出した。
「よかったです、嘘で。安心したら涙が出てきました…福田さんの所為です酷いです」
「ああもう泣くな泣くな!大体、俺が新妻くんのこと嫌いになるわけないだろ」
そう言いながら頭を撫でてやると、新妻くんは少し顔を赤らめつつ それもそうですね、と笑った。
「じゃあ、」
「ん?」
「僕も福田さんのこと嫌いです」
突然言われて少し焦ったけど、新妻くんが笑顔だったのですぐに嘘だと分かった。
「おー俺も大嫌いだ」
「一緒ですね」
「一緒だな」
二人して笑い合う。
和やかな空気が俺と新妻くんの間を流れていく。




「でもやっぱ嘘だと分かってても嫌いって言われるのは嫌です」
「俺もだ」
「福田さんが先に言ったくせに…」
「だーもう!悪かったって。好きだよ、新妻くん」
「…知ってますよ」





end.



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今年のエイプリルフールに書いたものです。
なんだかんだいってばかっぷるな福エイが大好きです。


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