来神臨也と静雄

※来神時代のお二人です。
 折原さん=秀才、平和島さん=努力が報われないおばか、という設定です。








一番眠い食後の授業が、よりによって数学で。
怠いと思いつつも一応目線は黒板へ。
あ、駄目だ、目蓋がくっつく…数字の羅列を見ていると、耐え難い眠気に襲われる。
それは俺だけが例外ってわけでもなさそうで、周りを見渡してみると既に何人かのクラスメイトがこの睡魔との戦いから脱落し、机に伏せているのが分かる。
そこまでではないが、こくこくと首を揺らしながらも懸命にノートをとっている男子生徒の後ろ姿が目の端に映った。
学年だけでなく、校内で知らない人はいないってくらい恐れられている彼、平和島静雄。
そんな彼は意外にも勉強などは真面目に取り組むのだ、まぁ出来は良くないんだけども。
彼が睡魔と戦いながらも問題を解こうと頑張る姿がとても滑稽で、先程までの眠気などどこかへ飛んでいったようだ。
そうこうしている間に、壇上にいる教師は新しい問題を解くよう指示を出したらしい。
皆の動かすシャーペンの音だけが静かに教室内に響く。
俺は元々頭の出来はいい方なので、特に悩むこともなく答えをノートへ書いていく。
ふとシズちゃんの方を見ると、彼は教科書とにらめっこしつつうんうんと唸っていた。
怖い怖い、隣の席の人が怯えてるよ。
あれ、教科書閉じちゃった。
どうやら諦めたようだ、うん、まぁ彼がそれでいいならいいんじゃないかな。
その時、黒板の端に書いてある今日の日付が目に留まる。
大体の授業は、一番最初に当たるのはその日の日付にあたる出席番号の生徒なのだ。
今日の日付は、偶然にもシズちゃんの出席番号と一致していた。
それじゃあきっとこの問題を当てられるのは彼だな。
けれど彼は既に問題を解くことを諦めている。
いつもなら、彼のことなど知ったこっちゃないと、趣味の人間観察を始めるのだが、今日は何故か気が変わってしまった。
ノートの一番後ろのページを丁寧に破り取る。
そこにシャーペンを走らす。
『お馬鹿なシズちゃんへ
今日の日付的に、この問題当たるんじゃない?解けた?解けるわけないよね!
仕方ないから教えてあげる☆答えはX=3だよ感謝してよね。
素敵な臨也さんより』
わざと彼が腹を立たせそうな文章を書き、幼い頃の記憶を蘇らせつつ紙飛行機の形に折っていく。
久々に折ったが、ちゃんと飛ぶか不安だ。
教師が黒板へ目を向けている隙に、少し離れた席のシズちゃんへと紙飛行機を飛ばす。
クラスメイトは、それに気付いていたが特に何も言わない。
紙飛行機は、緩やかなカーブを描きながら右へ左へふよふよしつつも、しっかりと目的地であるシズちゃんの元へと辿りついた。
最終的に彼の後頭部へこつんと当たり、紙飛行機は落下する。
今までぼーっとしていた彼が、少し眉間に皺を寄せながら後ろを振り返った。
可哀想に、彼の後ろの席の人はすっかり怯えてしまい、必死に此方を指差している。
その指先を追っていた彼と目が合う。
あ、凄い嫌そうな顔された。
とりあえずその表情を見なかったことにし、彼の足元を指差しながら「見て」と口パクした。
一応伝わったらしく下を覗き込むと、彼は紙飛行機を見つけそれを手に取る。
また此方を見てきたので、今度は「開けて」と口パク。
彼は教師にバレないようにこっそりと紙飛行機を開く。
暫くその紙に落とされていた視線が、急に此方を向く。
「うざい死ね」、彼はそう口パクで伝えてきた。
いやぁ、予想通りの反応。
彼が苛々しているのが分かったので、素知らぬ振りをする。
すると、まだ彼が何かを伝えようと口を動かしているのに気付いた。
分からなかったので、「もう一回」と伝えると、彼は、あーだとか、くそっだとかぶつぶつ呟きながら「ありがとな」と口を動かした。
一瞬何がなんだか分からず、思わず へ?と間抜けな声が口から漏れてしまう。
そんな俺を無視し、彼は頭をがしがしと乱暴に掻きながら前を向いてしまった。
「ありがとな」
彼に感謝の言葉を述べられたのは初めてだった。
それだけのことなのに、よく分からないむず痒い感覚が暫くの間続いた。
どうしていいか分からずに、手紙を書いたこととか、この謎の感覚だとかを全て眠気の所為にして彼を見ないようにしながら机に伏せた。
そんな、ある日の出来事。

end.

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来神たまらん。

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