晴ヒロ別れ話

なんの用事もない休日、いつものようにヒロトはやってきた。
最早専用の席と化した椅子に座り、いつも通り俺の部屋にある漫画を読み耽る。
居心地が良い、なんて思ったこともあったけれどそれはもう昔の話で。
俺はあいつに言わなきゃならない言葉を何度も何度も頭の中で繰り返す。
今言わなきゃ、俺達は駄目になってしまう。
「なぁ」
と声をかけると、ヒロトは漫画本から顔をあげずに ん、と返事をした。
「別れよう」
自分でも驚くほど、小さくて弱々しい声だった。
流石にヒロトもあれほど夢中になっていた漫画から顔を上げてきた。
「今なんて言ったの晴矢」
「だから、もう別れようって」
ゆっくりと、同じ言葉を告げる。
「なんで、俺なんかした?」
「したっちゃあしたな」
その言葉にヒロトがばっと反応した。
「なに、なにした?やだよ、別れたくない」
やめてくれ。
そんな泣き出しそうな顔で見ないでくれ。
本当は別れたくない。
ずっと好きだった。
向こうも俺と同じ気持ちだって知った時本当に嬉しかった。
男同士だし、他人から見ればおかしいだろうけどそれでも毎日楽しかった。
だからこそ、もう限界だった。
「分かってるんだよ…お前がもう俺を見てないこと」
だいぶ前から気付いていた。
それでも気付かないふりをしていた。
ヒロトを失うのが怖かったから。
「どういう、こと」
「お前、円堂のこと好きになったんだろ」
最初は些細なことだった。
あいつの話にちょくちょく『円堂』が出てきた。
きっと仲がいいんだろう、そう思っていた。
だけど、時が経つにつれあいつの眼にはもう俺が映っていないことに気付いてしまった。
「…なんで、」
ヒロトの言葉を遮るように言葉を紡ぐ。
「ずっと見てたから、あんたのこと。好きだけど、知っちゃったから…だからもうこの関係は続けれない」
俯きがちだった顔を少し上げると、ヒロトが泣いているのがちらりと見えた。
もうその涙を拭う役は俺じゃない、分かっていたけれど今すぐ抱き締めたかった。
「ごめん、俺…ほんとごめんね、晴矢…」
小さくしゃくり上げながら、ヒロトはずっと俺にごめんねを言い続けた。
それが凄く胸を締め付けてきて、どうしようもない気持ちでいっぱいになった。
「もういいよ、謝んなよ…俺、楽しかったから、今まであんたと居れて。あんたは楽しかったか?」
「うん…凄く楽しかったし、幸せだった」
「ならいいんだ。お互い楽しかったっていう気持ちのまま終わろうぜ、な。」
そう言って俺はヒロトをドアの方へ押し遣った。
「じゃあな」
ヒロトは暫くドアの前に立ち竦んでいたけれど、俺がもう一度じゃあなと言うと決心したようにドアノブに手をかける。
「ありがとう、晴矢。俺、晴矢のこと大好きだったよ」
最後にそう言い残すと、ヒロトは帰っていった。

ヒロトのいなくなった部屋は、何故か広く感じて、
それが寂しくて、あいつの定位置だった椅子に座って少し泣いた。



寂しいけれど
辛いけれど
大好きだけれど
お別れしよう
ありがとう、さようなら



end.


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別れ話とかシリアス大好きなんです私。
私の書く晴ヒロっていつもどこか病んでたりシリアスだったりで、
甘々な晴ヒロ書いたことない気がする…
一度は書いてみたいです。


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