風介の独白

私が彼と出会ったのは、まだ物心が付いたばかりの頃だった。
かつて私はおひさま園という身寄りのない子達が生活する、所謂孤児院にいた。
そこを作った父さんは、皆から好かれていて、勿論私も例外ではなく父さんが好きだった。
親がいない寂しさはあったものの同じような境遇で、近い年齢の子が沢山居た為、
非常に楽しい日々を過ごしていた記憶がある。
しかし、そんな幸せな日々を壊すかのように彼はやってきた。
皆に分け隔てなく接する父さんが、特別可愛がっていた彼。
初めて彼がおひさま園に来た時、彼は私達を見て恥ずかしそうに父さんの背中へ隠れた。
その様子を少し離れたところからぼんやりと眺め、私ははっとした。
彼があまりにもそっくりだったからだ。
皆でこっそり父さんの部屋に入った時に、中で見た少年の写真。
その写真の少年に、彼はとてもそっくりだった。
白い肌、赤い髪、綺麗な緑の眼。
あの写真の少年が誰かは分からなかったが、
幼心にきっと父さんは写真の少年と彼を重ねて見ているのだろうと分かった。
今ならば、代用品のように扱われていた彼の気持ちも分かる。
だがまだ幼かった私は、その特別扱いがとても羨ましかった。
それは私だけではなく、園内の皆もそうだったようで、
最初は羨望の目で見ていたのだが徐々にその羨望は妬みへと変わっていく。
何故彼ばかり、狡い、後から来たのに、私だって、僕だって。
そんな皆の気持ちに気付いていたのか、彼は全く私達と関わろうとしなかった。
一切笑わず、いつも俯いて一人でボールを蹴っていた彼。
そんな彼が笑うのを初めて見たのは、彼をここに預けてから初めて父さんがここを訪れた時。
我先にと駆けて行く皆の少し後ろから、嬉しそうに笑いながら父さんへと駆け寄る彼。
いつも寂しげな顔しか見ていなかったので、その笑顔はとても新鮮だった。
思えばあれが私の初恋だったのかもしれない。


それから彼は、少しずつ笑うようになった。
頑張って私達と打ち解けようとしていた。
ただ皆はそんな彼を疎ましく思っていたらしく、彼はずっと一人ぼっちだった。
そんな中で私だけ彼に話しかけるなんて勇気はなかったため、やはり私も、皆と同じように彼を無視していた。
そのままの関係で私達は成長した。
皆が俗に言う中学生位の年齢になった時、父さんが私達を呼び出した。
その内容は、とても恐ろしく、しかしどこか魅力的だった。
ただ、一番強いジェネシスというチームを名乗る為の道程は遠かった。


…結果、ジェネシスになったのは彼だった。
悔しい気持ちはあったものの、何故か良かった、と思う私もいた。
しかし、そんな彼も雷門中の奴らに負けたのだ。
私と同じ、敗者となったのだ。
皆の反応は様々だった。
父さんを想い悲しむ者、負けたことに対し恥じる者、怒る者。
私は嬉しかった。
今まで特別扱いされていた彼と、初めて同じ立場になったことが。
初めて、彼も私と同じ人間なのだと実感出来た気がした。
それなのに!
彼は世界大会の日本代表に選ばれた。
何故?何故彼なのだ?私達と同じ悪事を働いたというのに何故代表に?
許せなかった。
心に渦巻くのは、醜い嫉妬や妬み、そして羨望。
そんな時、私に韓国の代表として出場しないかという誘いが来た。
その中には南雲晴矢もいるらしい。
私は勿論その誘いに乗った。
また彼と戦えるのだと思うと、寝る時間さえも煩わしいと思った。


イナズマジャパンの奴らと戦う日が来た。
遠くからでも目立つ、あの赤い髪。
あぁ、彼がすぐそこにいて、今から私達と戦うのだ。
絶対に勝ちたい、そう思っていた。
しかし、やはり彼は強かった。
予想はしていた、恐らくこうなるだろうと。
だが不思議と悔しさはなかった。
彼にこの先頑張ってもらおう…そう思い、彼の方を見遣る。
その時私の心に沸々とどす黒い感情が湧いてくるのが分かった。
彼の周りには、チームメイトが沢山居た。
共に喜びを分かち合っている。
すぐに分かった…私は彼等に嫉妬しているのだということに。
私がどんなに手に入れたくても叶わなかった、彼の隣に居る彼等に。
嫉妬、嫉妬、嫉妬。
そんな私に、彼が話しかけてきた。
そして気付く。
彼はもうとっくに前に進んでいるのだ、と。
いつまでも過去に囚われていたのは私だけだったのだ。



やはり彼は私なんかよりもずっと先に居て、それは今も昔も変わらない。
それでも私は追い続けたい。
いつか彼と同じ速度で進んでいける日を夢見て、これからもずっと。









end.



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何が言いたいのか分からないものになってしまった…
風介がヒロトに対してコンプレックスのような憧れのような曖昧な思いを抱えているといいな!という妄想をぶちまけたものです。




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