ふぶきやま

俺が彼の部屋を訪れたのは、ほんの気紛れで。
強いて言うならば、グラウンドから立ち去る彼の横顔が寂しげだったのが気になったから。
いつもにこにこと笑っていて、頑張り屋な彼にあんな顔をさせる原因を知りたかった。


「吹雪君、ヒロトだけど入っていいかい?」
部屋をノックし、声をかけるとすぐに中から いいよ、という声が聞こえた。
俺の部屋と全く同じ構造だけど、レイアウトはやはり違って彼らしい落ち着いたものだった。
「ごめんね、突然。」
「ううん、丁度暇だったから。」
彼は俺にベッドに座るよう促すと、自分も隣に腰掛けてきた。
「どうしたの、急に部屋まで来て。」
初めてだね、来るの、そう言って不思議そうに首を傾げる仕草も、どこか中性的な彼にはよく似合っていた。
「うん、特に理由はないんだけどね。」
いきなり本題に入るのもなぁ、と思い理由をはぐらかす。
「そっか。」
会話が途切れたので、何気なく部屋を見渡す。
すると、大事そうに置かれたマフラーが見えた。
見覚えがある。あれは俺がグランだった頃彼が巻いていたマフラーだろう。
「あのマフラー、大切なものなの?」
「…凄く大切。」
そう答えた彼は、グラウンドで見たのと同じような寂しげな顔をして少し微笑んだ。
「…どうして?」
聞いてからはっとした。
余りにも無神経すぎる。
「ごめん、言いたくなければいいんだ。」
彼は小さく首を横にすると、立ち上がり一枚の写真を見せてくれた。
幼い彼と、彼に良く似た男の子が並んで笑っている写真。
「ヒロト君は、知らないんだったね。」
そうして彼は自分の生い立ちを簡単に説明してくれた。
「今でもたまに、アツヤのことを思い出して辛くなっちゃうんだ。」
完璧には程遠いのかな、そう呟くと彼は俯いてしまった。
彼の寂しそうな顔は、きっとそれが原因だったのだろう。
誰にも言えずに、世界大会という大舞台で、彼は。
ずっと黙っていた俺を不思議に思ったのだろうか、彼が俺の顔を覗き込んできた。
「…ヒロト君、どうして泣いてるの?」
「え、」
慌てて自分の頬を触ってみると、確かに涙で濡れていた。
ジャージの袖で頬を拭いつつ、気付いた。
きっと俺は今の話を聞き、彼と自分を重ねていたのだろう。
境遇は違うけれど、彼の心の傷を理解できるのは俺しかいない…何故かそんなことまで考えていた。
「…吹雪君、俺達で連携技やってみようよ。」
そう持ち掛けると、彼は少しきょとんとしていた。
「俺達で凄い技考えてさ、ばんばんシュート決めちゃおう。」
そしたらきっと、アツヤ君も喜んでくれるよ、そう言って笑いかけると、
彼はとても嬉しそうにありがとうヒロト君、と笑った。



彼には笑顔が一番似合う。







end.




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おばかなふぶきやまも好きだけど、美しい友情!なふぶきやまも好きです。
表現出来てるかは微妙ですけどね。
タイトル→最後の一文って流れです。




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