南雲と基山

練習が終わり、タオルで汗を拭きつつ自室のドアを開けるとそこには我が物顔でベッドに座るヒロトがいた。
「やぁ、お疲れ様晴矢。」
俺が来たのが分かると、悪びれた様子もなくそう笑いかけてきた。
「…なにしてんだ、あんた。それから、今はバーンって呼べよな。」
本当は部屋着に着替えたかったが、こいつの前で着替えるのは何故か気が引けたのでとりあえず椅子に座る。
「いいじゃん、晴矢で。練習中なら未だしも、部屋の中だしさ。」
「はいはい、いいよそれで。で、何しに来た?」
こいつはどう思ってるのか知らないが、少なくとも俺はこいつが苦手だった。
あまり同じ空間にいたくないのだ、腹が立つから。
「んー、特に何もないけど。」
晴矢元気かなーって思って。 そう言ってヒロトはへらりと笑った。
何を言ってるんだこいつ。
元気か、って、今俺等が置かれている状況を知らないのか?
「元気なわけねぇだろ」
予想以上に低く苛立った声が出たためか、ヒロトの肩が少しびくついた。
「そりゃああんたはいいよ、父さんのお気に入りだもんな。俺らがどれだけ苦労してるかなんて分からないよな。そうやって呑気にへらへらされるの、むかつくんだよ。」
止まらなかった。
今まで心の中だけに留めていた思いを、ぶちまけてしまった。
ちょっと言い過ぎたか、と思い顔を上げる。
てっきり傷付いた顔をしてるかと思っていたのに。
「分からないよ、そんなの。」
あいつ、笑ってた。
「だって俺、晴矢じゃないしね…それと、苦労してるのが自分だけだと思わないでよね。俺だって、頑張ってるんだよ、晴矢には分からないだろうけど。」
俺が気後れしてる間に、あいつはつらつらとそんなことを言ってきた。
「ジェネシスだって、俺の頑張りが報われただけ。恨むのはお門違いだよ、晴矢。」
そして最後にそう吐き捨てると、あいつはまた笑った。にっこりと。
その言葉と笑顔に無性に腹が立ち、気付いたら俺はベッドの上のあいつを組み敷いていた。
「黙れ、黙れよ…!」
どうしようもなくて、ヒロトに馬乗りになりながらひたすら黙れと言い続ける。
「…あーあ、俺晴矢と喧嘩しに来たわけじゃないのに。」
そう言って呆れた様に笑ったあいつにまた腹が立ち、悪循環。
「昔からずっと嫌いだったんだよ、あんたのこと…」
こんなことを言うつもりはなかった。
気付いたら口から出ていた。
「そっか、でも俺は晴矢のこと嫌いじゃないよ。」
こんな理不尽な怒り方をしている俺に対して文句の一つも言わないこいつは何なんだろうか。
「やめろよ…うぜぇんだよ…!」
もう何に腹が立っているのか自分でも分からなくなっていた。
ただこの心の靄を消したくて、その一心で拳を振り上げた。
「殴るの?」
「…っ」
こんな状況なのに、ヒロトは落ち着いた様子で俺の目を見つめていた。
「それで満足するならいいけど…晴矢に俺は殴れないと思うよ。」
「…なんで、そんな」
「だって、晴矢は優しいから。」
そう言ってヒロトは俺を押し退けると、ベッドから降りた。
「なんか、ごめんね。俺部屋に戻るね。」
止める間もなくあいつは去っていった。


優しいから、その言葉が頭から離れない。
何よりも優しいのはあいつなのに。
そんなの分かりきっていた。
今までの自分はなんて馬鹿だったのだろう。
謝りたかったけれど、今行っても悪態を吐いてしまうのは目に見えていたから、あいつの座っていた場所に小さく ごめん、と呟いた。


end.

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なにこれorz


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