高宮

※大学生くらい?










『駅で待ってる』
俺の携帯に届いていた1通のメール、時間は今から数時間前。絵文字は疎か句読点すらもない、その無題のメールの差出人を見て、周りで騒ぐ友人を見捨て一人駅へと向かう。メールの駅というのは、きっと俺らがいつも使っているあの寂れた駅だろう。ここからだと、電車で10分もしないうちに着くはずだ。人目もはばからず全力で歩道を走りながら、昨日から今日までのことを思い返す。

「高尾明日の夜空いてる?合コン行かね?」
友人からの突然の電話に応じてみると、これまた突然な誘いを持ち掛けられた。
「いや俺は」
「つーかお前もう参加するって皆に言っちゃったから!」
行けない、という俺の言葉を遮り、さらりとそんなことを言われる。こいつは人にも都合というものがあるのを知らないのか!喉元まで出かかった言葉を飲み込み、苦笑しつつ会話を続ける。
「それじゃー行くしかねぇじゃんか」
「来てくれる?流石高尾!場所はなー、」
場所や集合時間を軽く聞き流しつつ、俺の頭の中に一つの懸念が生じた。本来、明日の夜は恋人である宮地サンと久々にデートをする約束をしていた。その宮地サンというのは、俺の先輩で怒るとめちゃくちゃ怖い人なんだけれど、そんな彼が合コンなんて許してくれるだろうか。
少し躊躇いつつも、電話をしてみることにする。2回程のコールで、宮地サンは電話に出た。
「…もしもし、高尾?」
「あー宮地サン」
「おー、どした?」
「あのですね、明日のことなんすけど」
中々はっきりと言い出せない俺に痺れを切らしたらしい宮地サンが、早く言えよ、と若干苛立った声を出す。
「明日のデートなんすけど、用事が出来たんで延期でお願いします!」
自棄になり結構な大声でそう告げるも、中々返事は返ってこない。不安になり、宮地サン、と呼びかけると、数秒の間のあとに小さく返事が聞こえた。
「……用事って何」
言っていいものか迷ったけれど、内緒にしといて後でバレたらまずいなという考えに至り、正直に言うことにする。
「えーっと、合コン、です」
絶対に怒られる、と身構えていたものの、意外にも宮地サンは何も言わなかった。あっそ、と言っただけ。また絶対デートしましょうね、という俺の言葉に おー、とだけ返して、宮地サンとの電話は終わった。
そして今日、というかつい先程まで俺は合コンに参加していた訳で。やたらきらきらした格好に身を包んだ香水臭い女達と、そんな女に下心丸出しで近付く男達。俺はそんな空気に馴染めず、というか馴染む気など更々なくて、隅っこの席に座り一人でちびちびと酒を飲んでいた。やっとの思いでその場から解放されたのは、それから約1時間後。店から出て、宮地サンと話したいなーなんて携帯を取り出したらメールが来ていて今に至る。

いやぁ、我ながら最低だなおい。恋人よりも合コン優先かよ。電車に揺られながら昨日の行いを思い出し自己嫌悪に陥っていると、アナウンスが流れてきた。どうやら、もう着くらしい。10分程度なのに、酷く長く感じた。扉が開いて、すぐに外へと出る。周りを見渡すと、ホームに設置されたベンチに座っている宮地サンを見つけた。俯いているから、顔は見えない。
なんでメールしてきたんだろう。まさか、別れ話とか。愛想尽かされちゃったのかな。でも俺そしたら何も言えないな、自業自得だし。嫌な想像ばかりしてしまいその場から動けずに突っ立っていると、そんな俺に気付いたらしい宮地サンが立ち上がった。そのまま、こちらへ向かってくる。
「み、宮地さ」
「ばか尾」
俺の言葉を遮った宮地サンと、ばっちり目が合う。ばか尾、と言ったきり黙り込んでしまった宮地サンの目は、よく見ると赤く充血していた。微かに頬が濡れている。
「宮地サン、泣いたの。俺の所為?」
俺の言葉を聞いた宮地サンが、すぐに自分の目を手のひらで隠した。やっぱり、俺の所為なんだ。合コンに行くことを快く許してくれたなんて、当然思っちゃいない。宮地サンが怒って別れようと言ってくるのなら、俺はそれを受け入れる気でいた。それが、まさか泣かれるなんて。あの、宮地サンが。
「泣いてねぇよ!」
目を隠す手を外し、声を荒らげる宮地サン。
「ごめんなさい、宮地サン」
謝って許されることではないのは分かっている。それでも、謝らずにはいられなかった。何回も何回も謝っていると、宮地サンが小さな声で もういい、と言ってきた。
「俺さ、」
宮地サンが何かを言おうとしているので、続きを聞こうと口をつぐむ。
「俺、お前が思ってる以上にお前が好きなわけ」
それは、初めて聞く宮地サンの本心だった。
「だからさ、お前が合コン行くって聞いて、捨てられるんじゃないか不安になった」
「宮地サン、」
「やっぱ女がいいのかなって。最近全然デートなんてしてなかったし」
宮地サンの目から、静かに涙が溢れ落ちる。それは、怒られたり別れを告げられることより強く俺の胸を締め付けた。触れていいのか躊躇いつつそっと宮地サンの涙を指で拭う。宮地サンは、抵抗せずにされるがままだ。
「俺、宮地サンのことちゃんと好きです。捨てるなんてあり得ない、寧ろ俺が捨てられる覚悟でした」
「じゃあ何で合コンなんか…」
「それは、付き合いっていうか何というか…半ば無理矢理」
「……俺との付き合いも大事にしろよ」
むすっと膨れる宮地サンが可愛くて、こんな時なのに思わず 可愛い、と口に出してしまう。
「おま、反省してんの?轢くぞこら」
「してますしてます!」
まったく、と溜め息を吐く宮地サンはもう涙を流していない。よかった。
「宮地サン、抱き締めていいですか」
「……そういうのは態々確認せずするのがいい男ってもんなんじゃないですか高尾君」
「んじゃ遠慮なく!」
がばりと抱き着くと、遠慮がちに抱き締め返される。俺の顔の側にある宮地サンの耳は、赤く染まっていた。それに唇を押し当てると、宮地サンの肩がびくりと揺れる。
「宮地サン耳弱い?」
「弱くねーよ」
「じゃあ確かめる為にこの後俺ん家」
「調子乗んな」
先程までの素直な宮地サンは何処へやら、いつも通りの冷たいお言葉が返ってきた。それでも今は、それがとても心地良く感じる。


ロマンチックには程遠い
(けれどこれが一番)


end.


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診断メーカーで『二時間以内に2RTされたら、駅のホームで、べそをかく相手に耳に唇を押し当てる高宮をかきましょう』というものが出て、RTされたので〜。


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