緑宮

「いちご大福を食べに行きましょう」
珍しく緑間の方から教室に訪ねて来たと思ったら、開口一番に訳の分からない誘いを持ち掛けられた。女子ならまだしも、男同士でその誘いって…と半ば呆れつつ目の前に威圧的に立っている後輩を見る。若干目線を上に向けなければならないのが地味に腹立つ。そんな俺の反応をどう解釈したのか、緑間は小さく首を傾げながら口を開いた。
「今日部活休みでしたよね?」
「あー、そうだけど…てか何でいちご大福?」
「今日の蟹座のラッキーアイテムだからです」
成程、と納得していると、緑間は ではまた放課後にとだけ告げて去っていった。俺まだ返事してねーっつの。一応恋人関係にあるけど、あぁいった態度は付き合う前から変わっていない。もう別に慣れたからいいんだけど。でも何かもうちょっと恋人らしい態度とってくれたっていーんじゃねぇの。いやまぁ絶対言わないけど、そんなことを思ったりもする。今日の誘いだって、ラッキーアイテムの為だしきっと相手は誰でもよかったんだろう。とは言え、これはデートと考えていいだろ。部活が忙しくて、まともなデートなんて1回もしたことがない。実質今日が初デートといったところか。そう考えるとあいつの態度なんて気にならなくなったあたり、俺も相当あいつに惚れているらしい。にやけた顔を見られないよう俯きながら、教室の中へ戻った。


漸く1日が終わった。帰りの支度をさっさと済ませると、足早に教室を出る。今日の授業は随分と長く感じた。まだ人が疎らな靴箱へ行くと、俺のクラスの靴箱の近くには既に緑間が立っていた。俺の顔を見るなり、宮地さん、と近寄ってくる。
「おま、早くね?」
「HR終わってからすぐ来ましたから」
「ふぅん」
それは、少しでも俺と出掛けるのを楽しみにしてくれてたからだろうか。ちらりと顔を見たけれど、普段と変わらない表情だった。
「それじゃ、行きましょうか」
此方を向いてそう告げると、すぐに緑間は歩き出した。横に並んで暫く歩いていると、緑間が今日行く予定の甘味処について語り始めた。小豆の種類とか、メニューの豊富さだとか、そんなこと言われても俺は元々大して甘いものも食べないし、甘味にも詳しくないので、大部分の話は聞き流したけれど。そのまま話を聞き流していると、いつしか話は高尾についての内容になっていて、この数分間で何でそうなるんだよ、と少し笑えた。と同時に、俺の知らない緑間を知っている高尾が羨ましくなった。
「あ、もう着きますよ」
高尾に嫉妬したりしている内に目的地周辺まで来ていたらしく、緑間が あそこです、と小さな建物を指差した。暖簾を潜って中へ入ると、こぢんまりとした店は中々繁盛しているらしく、カップルやら学生やらで賑わっている。愛想のいい店員に席まで案内され、テーブルに置かれたメニューを開いた。そこには多種多様の甘味が写真と一緒になってずらりと羅列されている。俺の前に座る緑間は当然いちご大福を頼むから、メニューは見ていない。折角来たんだし俺も何か頼もうと思うんだけど、どれが美味しいのかなんて分からないし、特に食べたいものもなかった。そんな俺を見兼ねてか、緑間が いちご大福でいいんじゃないですか、と言ってきたので、じゃあそれで、と店員を呼ぶ。注文を終え、暫く他愛のない話をしていると、すぐにいちご大福を持った店員がやってきた。小さな皿に乗ったそれは、薄いピンク色をしていて可愛らしい。男子高校生が頼むもんじゃねーよな、と緑間がそれを食べるのをぼんやりと見つめた。俺の視線に気付いた緑間が怪訝な表情をする。
「食べないんですか?」
「あー、食う食う」
一口齧ると、いちごの甘酸っぱさと餡子の甘さが口の中に広がる。いちご大福なんて恐らく初めて食ったけど、結構美味い。残りもぺろりと平らげると、緑間が此方を凝視しているのに気付いた。
「…んだよ」
「いや、宮地さん凄い幸せそうな顔していたので。そんなに美味しかったですか?」
指摘されて、思わず顔をぺたぺたと触る。そんな俺を見て、緑間がふっと微笑んだ。
「何笑ってんだお前、轢くぞ」
「怒らないでくださいよ、別に馬鹿にしてるわけじゃないですし」
「うっせ」
「寧ろ、宮地さんのそんな表情が見れて嬉しいです」
さらりと告げられたその言葉は、俺を赤面させるには十分すぎて。一気に紅潮した俺の顔を見て、緑間がまた笑った。あぁ、くそ、調子狂う。大体そんなことを急に言うなんてズルい。
「もうお前黙れ…」
「黙りません、もう1つ言い忘れてたことがあるんです」
返事をする気にもなれず、視線だけで続きを促す。緑間はそれを理解したらしく、俺の返事を待つことなく続きの言葉を発する。
「実はいちご大福はちゃんと持ち歩いて昼食の際に食べていたので、ここに来なくてもよかったんです」
「は、じゃあ何で態々」
意味が分からずにそう聞くと、これまたさらりと 宮地さんとデートしたかったんで、なんて爆弾発言をかましてきた。更に赤く染まる俺の顔、ぐちゃぐちゃになる思考回路。本当こいつ黙んねーかな。なんて悪態をついてみたけど、案外俺愛されてるんじゃねーか、とにやける口元は隠せない。そっから何を話して、何をしたかなんて全然覚えていないけれど、別れ際にされたキスが甘かったことと、またデートしましょうね、というあいつの言葉に 行ってやってもいいけど、なんて可愛くない返事をしたことだけは鮮明に覚えている。

ずるいから好きです
(我儘でツンデレで電波でさらりとかっこいいこと言っちゃう)
(そんなずるいあいつが大好き)

end.


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緑宮増えろ

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